第18話傭兵団 VS ノクターン



ヒューガ地方。

シノノメ傭兵団に、割り当てられた狩猟区域で指揮中のアキヤマ少佐の元に、ある情報が入る。

行動中の中隊が、ハイクラスの罪人を発見したという情報だ。

アキヤマ少佐は、情報の確認を急ぐとともに、付近にいた隊を集め、ターゲットの包囲網を作る。



「少佐、やはり間違いありません!ログ確認できました!

 相手はノクターンです!」


「出たか…絶対に逃がすなよ。

 敵方は、何人いる?」


「一人でいる所を発見し、建物の7階で包囲中」


「いいシュチュエーションだ。

 だが、油断はするな。

 ターゲットのいる建物を九隊で包囲。

 そして、300メートル以内の道路を、三隊ずつで封鎖」


「了解」


アキヤマは、ターゲットのいる建物から500メートル離れた位置に指揮系統を設置し、

敵の潜む建物を睨む。


「煉獄の道化師(ジョーカー)ノクターン。

 必ず仕留めてやる」


煉獄の道化師 ノクターン


監獄世界シュラの中で、

罪人と傭兵団の両方から、

最も壊滅を望まれている集団「マスカレード」の幹部。


その集団の詳細は謎に満ち、活動地域も団員数も不明。

数人の幹部のみが、明かされている事が唯一の情報である。

マスカレードの社会的影響力は大きく、世界中にファンや信者がいる為、

シュラに閉じ込められていながらも、その影響力が、

世界中に犯罪を増加させる原因となっている、と言われ続け、

マスカレードの幹部達は、常に処刑リストのトップに名を連ねられている。



「少佐、他の隊への応援はどうしますか?」


「我々だけで葬りたいが、難しいかもしれん。

 ミズチとイチノセの部隊へ連絡をしておいてくれ。

 あと、近い隊には誰がいる?」


「キュウコ隊、マシオ隊、ミツイ隊が5キロ以内で活動中です」


「よし、精鋭が揃ってるな。

 三隊とも呼べ。

 おもしろい…彼らならノクターンが相手でも、なんとかなるかもしれん。

 いいか、戦闘は必ず五人以上で包囲するよう伝えろ。

 三重に陣を組み、二順目はすぐに交代できるように準備。

 外側は、槍兵を多く置け。

 あと近隣の建物に、スナイパーを潜ませろ」


「了解、伝えます」


小さな街は、1000名以上の傭兵であふれた。


「どんな状況だ?」


「戦闘開始から、8分。

 現在は、23名が死亡、28名負傷、近戦34名で包囲中です」


「…そうか、良くないな…

 今日の私の指揮下に入っている隊は、総員1028名だったな?」


「はい、うち19名が負傷で下がっており、14名が伝令中です」


「まだ900名以上が戦える状態という事だな。

 逃げられんぞ……ノクターン…」


アキヤマは、傭兵団のデータに残っているノクターン戦の、

過去の戦闘状況報告に目を通している。


「キュウコ達の三隊が合流したら何名になる?」


「三隊が無傷であれば、633名です、合計1500名以上となります」


「わかった…

 今、何分経った?」


「現在21分経過です」


「状況を報告しろ」


「はい。

 ノクターンは、建物の中を動き回りながら、戦闘を繰り返しています。

 我が団の被害は…

 …死亡67名負傷85名、45名で包囲中です。

 封鎖中の道路に兵士39名が逃走し、捕獲されております」


「…仕方ない事だ、相手はバケモノからな……スナイパーはどうなっている?」


「何度も試みましたが、奴の動きが予測不能なのと、味方への被害が出る為、機能していない状況です」


「今、戦闘に加わっている隊長クラスの人数を教えろ」


「隊長7名、副長12名、

 道路封鎖中 長3名 副6名、

 戦闘中 トガワ隊長以下 副長2名、

 死亡  コウノイケ隊長、オノデラ隊長、 副長3名、

 負傷  イワモト隊長 副長1名」


「………30分も経ってないのに…隊長クラス7名と200名近い兵士を倒された…?

 たった一人の道化師に……狂ったサーカスをやりおって…」


「少佐、三隊が合流しました。

 各隊長がこちらに向かっております」


百人隊長のキュウコが、マシオ隊長とミツイを連れて、司令室に入ってくる。


キュウコは、ミツイより3年先輩の百人隊長だ。

青みがかった黒髪の短髪に鋭い目つきは、第一印象で誰もを威嚇する。

粗野な性格だが、面倒見が良く隊員や後輩からの人望も厚い、若手隊長のリーダー的存在である。

先輩の隊長達からは、見た目とその生意気な性格の為に、うとまれている事も多い。

大剣を得意とし、板のようにぶ厚い剣での一撃は、戦斧を超える威力を持つ。


マシオは、キュウコと同期の百人隊長だ。

肩まである薄い灰色の髪と整った顔立ちで、女性隊員にも人気がある。

真面目で冷静な優等生タイプな為、勢いをつけ過ぎるキュウコのブレーキ役を担う。

しかしキュウコに言わせると、感情的になり易い自分より、キレた時のマシオの方が危ないらしい。

マシオの扱うスピアは団の中でも、トップクラスの速さを誇っている。


「アキヤマ少佐。

 キュウコ隊、マシオ隊、ミツイ隊、総員617名合流しましたよ。

 どうやら、ババ抜きはまだ終わってないようですね?」


「ああ、ちょっとジョークも言えん状態になってきた。

 おい、状況を説明してやってくれ」


少佐の部下に、状況を聞く三人。

キュウコは、口角をあげニヤつきながら500メートル先の建物をにらむ。


「ノクターン…やっぱ噂以上だな。

 だが、こんなビッグチャンスは、滅多に巡ってこない。

 少佐、誰が行きますか?

 せっかく呼んだんですから、俺らに手柄立てさせてくださいよ?」


「ああ…

 あと40分程度で、ミズチとイチノセの部隊が来る事になっている。

 だが、正直俺の指示下の隊で、ノクターンを仕留めたいのが本音だ。

 

 ただ、相手は処刑リストのトップクラスに陣取っている大物。

 どんなに勇敢な傭兵でも、戦う事に戸惑いを感じてしまっても不思議はない。

 

 キュウコ、お前の言葉は頼もしいが、

 若く優秀な兵士ほど、勇敢と無謀を同じだと思いがちだ…


 もう一度よく考え、もし自分の心に少しでも、躊躇があれば正直に言え。

 これは、決して恥ずかしいことではない。

 むしろ、冷静な判断だと評価する……どうだ?」


三人は、何も言わない。

もう心は決まっていると言いたげな表情で、少佐の指示を待っている。


「…そうか…どうやら、時間の無駄だったようだな。

 わかった。

 順番や方法は、若いお前たちに任せる。

 三隊とも近戦に入れ」



「了解!」


キュウコは、すぐに少佐に背を向け、部屋を出ようとする。

ハヤる気持ちを抑えきれないようだ。

その姿を見たアキヤマは、背中を向け足早に出ようとする若者達に、言葉をかけた。


「…待て。

 重要な命令を、最後に伝えておく。

 お前達は、我がシノノメ傭兵団の中でも、期待の大きい者達だ。

 絶対に無理はするな、まだこれからいくらでもチャンスはある。

 命だけは必ず持って帰ってこい、これは最優先の命令となる。

 いいな?」


キュウコが、ゆっくりと振り返る。

その顔は、相変わらず生意気なものだった。


「少佐に、俺らの生意気な首だけを見せても、笑ってくれない事ぐらいは、わかってますよ。

 どうせなら、あのふざけた笑える首を持って帰ってきますから、ロッキングチェアにでも座って待っていてください」


キュウコは部屋を出る。

マシオとミツイも、少佐に一礼をして出て行った。


…死ぬなよ…

アキヤマはつぶやいた。

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