第10話アスタリスクの敵



場所は、自然豊かな南国地帯、ヒューガ。

シュラ最大の都市アクロソルトからは、ホルトブロンをはさんで、南東に位置し、

シュラの六地域の中では、サーガの次に人口がすくない地域である。


そのヒューガでは、中堅規模の団である「アスタリスク」の団長ザラミは、

格下の団「ロデオソウル」と戦闘を繰り返していた。


しかし、規模で勝るはずのアスタリスクは押されている状態であった。

ザラミは友人であり、同盟関係でもある、賊集団「オルトロス」の総括ソドムを頼り、伝令を飛ばした。


そして、大都市アクロソルトに居を構える、オルトロスの使者クルスムスが、ザラミの元を訪れる。



「クルスムスさん、すみません、わざわざアクロソルトからヒューガまで来て頂き、

 ただ、私はてっきりソドム殿が来ていただけるものだと思っておりましたが・・」



山賊を彷彿とさせる風貌のザラミは、親子ほども歳のはなれた若いクルスムスに、丁寧に頭を下げる。

クルスムスは、見るからにプライドが高そうな、細い銀縁のメガネをかけた男だった。

こんな若造が、何か助けになるとは思えなかったが、古くからの友人ソドムの使いの為、

ぞんざいに扱うことはできない。



「ソドム総括は今、イグニス地方への進軍を指揮しているため、手が離せませんので、私が代わりに」



クルスムスは、質素なアスタリスクの本拠地で団長のザラミ、参謀のマコト、一番隊隊長の船戸に歓待を受けた。



「そうでしたか、しかし、こちらもかなり切迫した状況になっておりますもので…」


「なるほど、最近幹部になったばかりの若造では、何も出来ないんはないか、とご心配をされているんですね?」


「いや、そういうわけではございませんが、ロデオソウルズは、古い友人でもあるソドム殿からも

 警戒をしておくよう言われていたもので…

 万が一間違いがあっては、せっかくのクルスムス殿のご出世に支障となるのでは、と思いまして…」


「いいですよ、ザラミさん。こんな田舎にいる貴方に、

 シュラ最大の国アクロソルトの大団「オルトロス」の事はわからないでしょう、

 気を使っていただかなくて結構です」


「おいっ!」


いきなり、隊長の船戸がソファを立ち上がる。


「てめぇ!さっきから聞いてりゃ、なめた口聞いてくれるじゃねぇか!

 この「アスタリスク」は、団長が一から築き上げた団だ!

 でけぇ団にコネで入ったような坊ちゃんとは違うんだよ!

 ぽっと出の若造が、調子こいてんじゃねぇぞ!」


先ほどから、ずいぶんと尊大な態度のクルスムスに、船戸は我慢ならなかったようだ。

190センチの長駆に140キロを超える体重の船戸に凄まれると、常人であれば小便をもらしそうになるだろう。

その、熊のような男をザラミが慌てて押さえる。


「船戸!やめとけ、わざわざ遠くから助言に来てくれてるんだ、失礼な事を言うな!

 すみません、クルスムスさん、こいつちょっと気が立ってて」


団長になだめられ、船戸は渋々腰を下ろした。


「ザラミさん、ちゃんと部下を教育するのも団長の役目ですよ、

 まあ、いい、それよりも、ロデオソウルズのことを詳しく教えていただけますか?」



クルスムスは、船戸に一瞥くれた後、参謀であるマコトに顔を向ける。

参謀のマコトは、メガネをかけているが嫌味はなく、平均的な身体つきであり、

まだ少年ぽさの残る真面目な姿は、獣じみている団長や隊長とは正反対であった。

ザラミは、この若者の知性と冷静さに、強い信頼をおいている。


「では、ご説明します」


マコトは、用意していたホワイトボードの図を差しながら、説明をはじめた。


ロデオソウルズには、総勢1100名が所属

    団長 八雲 副団長(参謀) 片桐

    以下、八名の幹部がおります、

    戦闘系の幹部は4名

    一番隊 隊長 ニーナ

    二番隊 隊長 カイル

    三番隊 隊長 バニラ

    四番隊 隊長 鳴子 


主に、大規模戦闘では 三番隊がまでが、メインとなり四番隊がサポートとなっています。

また、おそらく本隊とは別に、団長直属の情報部があるということですが、

こちらは戦闘には、不参加の状態です


ただ、恥ずかしながら、このデータは、8ヶ月前のものとなります。

密偵をさせていた部隊が、連絡不能となっておりますので、おそらく何かトラブルが起きたのだと。

ですが、その後の戦闘参加での、主なメンバーチェンジは見受けられませんでしたので、

さほどの変更はないと予測しております。


ただ、気になる点があり、

この8ヶ月ほど前からですが、戦闘形態が変化しております。

おそらくサポートメンバーに変更があったのではないかと、推測をしている状態です」


マコトは、ホワイトボードから目を離すと、クルスムスの方を向いた。


「変化というのは、具体的にどういう事ですか?マコトさん」


「はい、ロデオソウルズは、戦闘ではスピードを重視した攻撃的な団です、

 速攻を用いる事が多く、攻撃的な反面、敵味方共に、死傷者が多いのが特徴でした。

 

 しかし、最近は、ロデオソウルズ側の死傷者が目に見えて減っています。

 堅守になったわけではないのですが、あえて後手を取り、安全に戦闘をするようになりました」


「それは、こちらにとっては、良い事ではありませんか」


クルスムスは、組んでいた腕をほどき、背中をソファに押し付け、気にすることはない、という事を態度で示した。


「そうでもありません、どういうわけか、戦闘は早く終わりますが、

 こちら側の死傷者だけは、変わらずに多いままなのです」


マコトの言葉に、クルスムスは眉をつり上げた。


「なんですかそれは!そんなの簡単な理由でしょ!こちらが弱くなっただけの事です。

 自分達の怠慢を相手の強さのせいにするとは情けない、これでは勝てるわけもありませんね。

 もうロデオソウルの方は結構、

 

 それよりも、こちら側アスタリスクの状況を確認しますが、

   総員2200名

   幹部12名 うち戦闘系幹部8名で、間違いないですか、マコトさん?」


「いえ、先週に吸収した団がありますので計2600名となっております」



「そうですか、結構なことです。

 ですが、数字だけで見れば、明らかに格下の相手ということですね。

 しかも、相手の団長は女、幹部の半分も女だ。

 これで手こずっているところを見ると、やはりこちらの怠慢と言えそうですね?」


クルスムスは、イヤミな目つきで、ザラミに目をやった。

するとまたしても、船戸が立ちあがった。


「コイツ、言わせておけば調子に乗りやがって!」


慌ててザラミが制したが、ザラミも流石に団員の事を言われ、気に障ったようだ。


「待て、船戸!

 クルスムスさん、お言葉ですが、当団員に落ち度は見受けられませよ。

 規律も守らせておりますし、ロデオソウルズ以外では目立つ敗戦はありません。

 現に成果として、他団への襲撃と合併で、当団は2年前の倍の団員数となっております。

 優秀な団員達だと胸を張って言えます。

   

 ただ、この度の相手、ロデオソウルズは、2年前にできた新規の団のため、情報が少ない。

 また、参謀の片桐は元 デスマスク幹部、一番隊のニーナは元 八重桜の団長。

 敵ながら、こんな小さな団ではなく、四天王の団にいる幹部と遜色はない。

 こういった点から考えても、現時点では、我々も善戦していると自負しております」

 

クルスムスは、何かつまらなそうに、口をへの字にまげ、


「ふん・・わかりました、ひとまず情報を吟味しますよ

 おお、そうだ忘れてましたが、ザラミさん、ソドム総括から委任状を頂いておりますので、お渡ししておきましょう」


胸から、封書を取り出し、ザラミに手渡す


「!!」


ザラミの驚く顔を見ると、クルスムスは満足そうに喋り出した。


「そこにあるように、今からこのアスタリスクは、オルトロスと同盟ではなく、オルトロス直属の団とします。

 指揮系統は全て私を通すように。

 ザラミさん、私がいる間、貴方には隊長として動いて頂きますので、よろしくお願いしますね」


ザラミは手紙を見つめたまま、ワナワナと震えている。


「…そんな!めちゃくちゃな!…この団は…私が一から積み上げてきたんだぞ…」


クルスムスは、知らんよと言うように足を組み、太ももについていたホコリを払った。


「もし文句があるなら、我々の敵とみなし、裏切りの徒として、あなた方を討つ事となりますが、

 アスタリスクの5倍以上の戦力を誇る、オルトロスと戦うのは、おすすめしませんよ?」


「ソドム殿……友人だと思っていたのに…」


「まぁ、ロデオソウルズに対抗する為の一時的なものかもしれませんので、そう気を落とさずに。

 では、マコトさん、私の部屋へ案内していただけますか?

 ああザラミさん、あと今週中に、私の隊も1000名ほど入りますので、受け入れの準備をお願いしますよ?

 さぁ、マコトさん、行きましょうか」


マコトは、虚ろな目をしているザラミをしばし見つめて、うつむきながら、部屋をあとにした。

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