第二章 ツギハギ(9)
頭を包もうと伸ばした腕が空をきる。
崩れそうになった体勢を整えながら、鈴音は唇を噛みしめた。
間に合わなかった。
もう少し、早く気付いていれば……。
「どうしたというんだ、鈴音さん。」
虚ろな瞳の子供達を掻き分け、近藤は鈴音に歩み寄る。
「えっ……。」
鈴音の足下から目を離さない。
そんな大将の異変を察知し、土方も鈴音の隣に足を向ける。
「どうした、近藤さ……ん。」
唇が薄く開いたままの近藤の視線を辿ると、行き着いた先で言葉を失う。
「おい、これはどういうことだ。」
しおれた花のように、それを見ている女に問いかけた。
「術だ。
こいつらにしか聞こえていない音に呪いがかけられていたんだと思う。」
ざっ……。
足下にいる丈の縮んだソレが一歩下がる。
怯えよりも冷ややかな色が目立つ大きな瞳が三人を捉えて離さない。
「あっ。」
近藤が手を伸ばすと、ソレは身を固くさせながら目を細め、
刀身のように鋭く睨めつけてくる。
「総司、俺が分からないのか。」
小さくなった青年は、広い額に皺を寄せた。
「幾つか分かんねぇけど、記憶もその時に戻っちまったのかもしれねぇ。」
微動だにしない子供達の肩を揺さぶっている鈴音が辺りを見回す。
「元に戻せるのか。」
子供の肩で休む雪を払いながら、土方の問いに答えようと口を開いた時だった。
「多分……。
って思ったでしょう。」
不愉快な笑い声が風に流されてくる。
動きの取れる大人が頭を揃えて、本堂に向けた。
背丈的にはそう高くはない。
肩の感じからは男児にも思えるが、はっきりと判断ができない。
歳はいくつだろうか。
七つか八つほどの歳に見える子供が、にたにた笑いながら近づいてくる。
その手には、黄金色に輝く横笛が握られていた。
「あ、今、なんだこのガキ、と思ったでしょう。」
土方の眉頭がピクリと動く。
「ふふふふふふふっ。
なんでこのガキは、と思ったでしょう。」
嫌味な笑いと大きな口に虫唾が走る。
歯を食いしばらなければ、今にも拳を投げてしまいそうな土方の後ろから鈴が鳴る。
「何の真似だ。
お前、さとりだろ。」
「ふふふふふふ。
僕を知っているんだ。
ふ~ん。
貴方は、何か変だ。
心が読み取りにくい。
人でないようにも思ったけど、匂いは人だ。
なんで。」
剣先を振るっても届かないほどの距離で足を止めたさとりは、
小首を傾げにやにやしている。
「山にいるお前が、何でこんなところにいるんだ。」
「僕の質問には答えてくれないんだね。
残念。
でも、僕は答えてあげる。
お友達を作るんだ。」
「友達だって。」
さとりは嬉しそうに飛び跳ねだす。
「そうそう。
お友達。
山の中には僕一人。
たまに来るのは大人だけ。
僕の嫌いな大人。
でも、ある人が僕にこの笛をくれたんだ。
この笛を鳴らせば、お友達を作れるよって。」
手の中で笛がくるりと回る。
「最近子供がいなくなってんのは、お前がやってんだな。」
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