第四話 ボッチ、決断する①




 僕は今、家にいる。学校には「病気」と言い――実際は仮病のようなものだが――今日を休みにしてもらった。幸いにバイトも無い。

 ……どのみち、行く気にもならなかったが。




 ――昨日、あんなことになったから――






――――――――――――――――――――――――






 家に着いた僕は、真っ先にトイレに向かった。

 トイレに着き、一気に嘔吐物が吐き出された。


「うっ……おえぇぇ……!!!」

 嫌にでも、思い出してしまう。あいつらのおぞましい死体を。

 人として無くなり、ただの肉塊と化した物を。


「はあ……はぁ……うっ……!!」

 さらに気分が悪くなり、吐いた。後ろのドアから母が心配の声をかける。「大丈夫」と言ったが、あまりに酷い様子に「明日は学校休みなさい」と言われた。

 普段からこの位、気を使ってくれれば嬉しいんだが……。


 僕は、それを了承し夜食も取らず――食べる気も起きないが――風呂だけ一応入りたかったので入り、床へと就いた。






――――――――――――――――――――――――






 翌日、目を覚ます。夢らしい夢を見ず、むしろこれが夢なんじゃ……と思い、自分の部屋出てリビングへと向かう。




「昨日の夜、○○県で恐ろしい事件が起こりました。」




 ……違った。現実だった。テレビには昨日の僕のやった事がすでにニュースとしてやっていた。




 ――昨日の事が脳裏に蘇る――

 

 

 

「……うぷっ………っ!!」

 また吐きそうになった。もう思い出したくないのに……。吐き気を何とか抑える。


「……によると、現在目撃者もいないようで……」

 テレビの発言でふと気づく。そういえばあんな爆発音だ。目撃者は居そうなものだが……。

 もしかすると……無意識に魔法を?


 母親が目の前にいるので確かめる。

 トン、っと母親の肩に手を置く。


「ん? 何、俊……?」

 母親は不思議な顔で周りを見る。

 もう一度、僕は母親の肩に手を置く。


「え! な、何……。」

 ……僕は確信した。どうやら、気配を遮断する――というより姿を消せる、で良いのだろうか――魔法も使えるらしい。

 恐らくこの魔法で、あそこを切り抜けたんだろう。

 魔法を解き、母の肩に手を置く。


「っ!! ……何だやっぱり……俊! 何処にいたの?! 脅かさないで!!」

「ごめん、ごめん。」

 僕は母に謝り、今日の事を告げる。学校は休むと連絡すると言ったら「そうしなさい」と言われた。

 ……やはり、昨日の事があったからだろうか。


「ゆっくり休みなさいね?」

 そう言い、母は仕事先へと向かった。






――――――――――――――――――――――――






 そして、冒頭に戻る。家でテレビやパソコンを見てみたがやはり僕の起こしたニュースばかりだった。

 詳しく見ると、やはり損傷は激しかったようで、身元不明の死体となっている。が、あいつらで間違いない。

 その身元不明もすぐ特定されるだろう。


 目撃者は、まだいないようだ。昨日の今日という事もあるが、僕の魔法によるのも大きい。


 ネットも類を見ない事件に「自爆テロか?」「何もない所から爆発とか……」など心配する声はもちろん、「日本終わってるwwwww」「むしろ始まっただろwwwwwwww」とか煽りのような不謹慎な書き込みすらある。


(……まさに「他人事」だな。)

 実際、他人事だから文句は言えないが。

 

 ……それにしても、このままだとやはり事件は迷宮入りになるのだろうか?

 目撃者はいないだろうし、爆発の原因も警察にはわかるはずがない。

 このままいけば、誰にもばれずに過ごせることが出来るかも――。




「――本当に?」




 ……僕はまだ20代だ。死ぬまでに数十年は生きるだろう。……その間にばれる可能性が無い、と?

 もし、僕がふとした事で魔法を使って、それを見られたとしたら……。


 もちろん、普段爆発魔法なんて使わないだろうし、基本的に無害な魔法を使う可能性があるかもしれない。

 でも、もし――勘の良い奴が現れて、僕の魔法を調べられたら――そんな事があれば……。

 第一、下手に有名にさえすれば、その罪がばれるリスクだって――




「――やめよう。考えるのは……。」




 僕は、そう言って眠りについた。

 眠りで全てを忘れる様に……。






――――――――――――――――――――――――






 あれから数日経った。

 僕は、普段通りに生活している。時々、魔法を使うこともあるけど。


 事件の方もあまり捜査が進展していない状況だ。

 ……まあ、そりゃそうだろうね。

 現実的じゃありえない事件状況だし。ネットの方も、被害者が「ワル」共だった事もあって、同情の声が少なくなってる。


 ……このままいけば、事件は迷宮入りになって、僕は怯えなくて済むようになる。

 そうだ、このままばれなければ……。




 ――そう、思ってたのに――






――――――――――――――――――――――――






 今日のバイトを終え、帰宅している。

 自転車を漕ぎ、帰り道を颯爽と走る。


「ふぁ~…………。」

 大きなあくびが出た。ここの所、学校やバイトの連続で、明日やっと休みが取れる。

 今日はすぐ寝よう……。そう思いながら、自転車を漕いでいると




 ――後ろの方から、衝撃が走った――

 

 

 

「がっは……っ!!!」

 ガシャンと自転車もろとも派手に転んだ。

 ……何が起きたんだ? まったく警戒していなかった……!!


 当たった物を見ると、鉄パイプだった。

 ……こんな物を投げたのか? 誰が――




「よう、久井。久しぶりだな。」




 ――この声は、聞きたくなかった。

 何故なら、僕が一番嫌いな声だったから――




「お前……!! 北田……!!」




 ――北田 聖基きただ まさき

 僕が、小学校から中学校までいじめていた人間。この世で殺したいくらい憎い人物だ――



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