ココロのショート・ショート

リンドウ ココロ

第1話 ひっくり返ったおもちゃ箱


大阪の福島駅に、変わったバーがある。


狭い階段を登り、引き戸を開けると、昔懐かしい玩具が所狭しと並べてある。


天井には、昭和のレコードがたくさん貼られてあり、アンティークの立派な机にはちびまる子ちゃんの漫画や、ルービックキューブなどが置いてある。


メニューは置いていない。マスターがお客さんのイメージでグラスとカクテルを選んで振舞ってくれる。


私には、お相撲さんが描いたマグカップにもみじ饅頭の味がするカクテルだった。どんなイメージだ。


ちなみにマスターの一番のオススメは自家焙煎のコーヒーである。おつまみはサービス。外国な変なお菓子が多い(あまり美味しくない)。


「マスター、ここ掃除大変じゃないですか?」


「うちの店、おもろいおもちゃいっぱい置いたあるやろ。ほんでみんなが珍しがって触っていくからほこり、溜まらへんねん。」


砂場も殺菌されるような、神経質に衛生的な環境で育った現代っ子は五分も座っていられないだろう。


かくいう私もかなり潔癖な現代っ子で、ここに来た後は念入りに体を洗わないと落ち着いて眠ることができない。


かなり失礼なことばかり書いたが、私はこのバーがかなりお気に入りである。


マスターの人柄の良さもあるが、来る人もかなり個性的でいつも面白いことに巡り会えるからだ。


初対面のお客さんと店のフラフープで遊んだり、とある企業の重役さんにカツラを被せたり、ガラクタの奥からバイオリンを引っ張り出したおじいちゃんが即興ライブをはじめたり。


アンティークの柔らかい色のランプのそばで、バイオリンを弾くおじいさんは、なんだかジブリのワンシーンの様で、マスターの奥さんと子供の様にはしゃいでしまった。


ちなみにマスターの奥さん。とてもシャイな方でいつも要塞のようにおもちゃを積み上げたバーカウンターで静かにカクテルを作っている。滅多に出てこないし話さない。


豪快なマスターと、神経の細い繊細な奥さんのアンバランスさもまた面白い。


奥さんに関するエピソードはまだまだあるが、それはまた今度。






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