ココロのココロ

リンドウ ココロ

第1話 遺影


希死念慮に囚われるようになってから、今の自分を写真に残したいと思った。


SNSで知り合ったアマチュアのカメラマンの方に、撮影をお願いした。


「梅の木のそばで待っていてください。」


梅林では、大きな犬を連れた人や、子供連れの家族が思い思いに過ごしている。


しばらく待つと、マスクをつけた男性がレンズの大きなカメラを抱えて現れた。


こちらに気づいている様子だが、話しかけてこない。寡黙な男性だった。


自己紹介を終えて、しばらく公園を歩き、男性に指示された場所で言われるがままポーズを撮る。


撮った写真をその場で見せてもらうと、迷子の子供のような顔をした、頼りなげな女性が写っていた。


遺影のつもりで撮ってもらったのだけど、あんまり綺麗に撮っていただけたから、別れ際に「またお願いします。」と言ってしまった。


カメラマンさんも、「今度は春らしい写真を撮りましょう。」と言ってくださった。


次の約束ができてしまった。


春になって、暖かくなったら、ファインダー越しの私はどんな表情をしているだろう。


死なないように、次の約束をしよう。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る