サーバルちゃんと奇妙な物語

桜人

第1話強盗

(パンッ!)

 乾いた銃声が響き渡ると共に、数人の覆面を被った人間が銀行内に侵入してきた。

「おい!動くな!動いたら殺すぞ!」

 そのうちのリーダーであろう1人の男が、声高々にそう宣言する。

 最初は何が起こったのか分からない様子の客や従業員はだったが、覆面の男達と銃を見て彼らが銀行強盗だと理解した。

(パンッ!)

「おい、逃げるな大人しくしないと撃つぞ」

 騒ぎに紛れて銀行から脱出しようとした数人の客を、銃声で制する。

 やがてお金を集める1人の従業員を除き、フロアの一部に客や従業員が全員集められた。

「いいか、動くなよ」

 そう言い放った男の、覆面で隠れていない口元がニヤリと歪んだ。

 死の恐怖からか、一部の子供や女性が泣き始める。

「うるせぇ!黙らねぇと殺すぞ!」

 拳銃を向けられなんとか目から溢れだす涙や、嗚咽を止めようとする人々。

 それを見て満足そうに頷いたあと、男は1人受付に取り残された従業員の女に拳銃を向けた。

「おい、早くカバンに金を詰めろ!」

 男がそう言うと、仲間の1人が黒色の大きなバックを乱暴に差し出した。

「はい・・・」

 女は、震える声を振り絞ってなんとか答える。そしてカバンのチャックを開け、そこに奥から取り出してきたお金を詰めていく。

 しかし手元がおぼつかず、なかなか作業が進まない。

「早くしろ!」

 それを見た男が怒鳴り声をあげる。

「はい!」

 口は動いているのに、手も足も思い通りに動かない。女は焦りと恐怖から、自然と涙を流していた。

 誰も喋らなくなった事により、静寂が場を支配していく。

 男やその一味は、女が金を詰める作業をただただ黙って眺めていた。

 その時だった。

「うわぁ〜。すご〜い」

 気がついたら男の隣には、小さな女の子が立っていた。

「なんだお前!?いつの間に!」

 ヒョウ柄の服を着て、サーバルキャットのような耳を生やした、奇妙な女の子だ。さっきまで、こんな目立つ格好の人間はいなかった筈だが・・・。

「これどこでもらえるの〜?」

 女の子は、男のスボンをくいっと引っ張りながら尋ねた。

「黙れ!黙らなかったら撃つぞ!」

「うつ?うつってなぁに?」

「お前を殺すって事だよ」

「ころす?あなたはセルリアンなの?」

「あぁ!?なんだそれ?ホントに殺されてぇのか!」

「じゃあ、狩りごっこだね!わたし狩りごっこ得意だよ!」

「しつけぇな!」

(パァン!)

 男が威嚇の為に放った銃弾が女の子の脇を通り抜け、後方の壁に着弾する。

 男はこれでうるさい奴を黙らせる事ができる、そう思ったのだが。

「わぁ〜しゃべったぁ〜」

「あぁ!?」

 女の子はそれでも尚、嬉嬉として銃を見つめていた。

 何故だ。何故怖がらない。その奇妙な言動に、寧ろ男の方が恐怖を覚えた。

「おい!この中にコイツの関係者はいねぇのか!」

 フロアの一角に集められた人々に、銃を向けて尋ねる。しかし皆、キョトンとするだけで誰も手を挙げない。

 コイツ、一体何ものなんだ。

「クソッ!おい、お前!どこから入ってきた」

「わたし?わたしはずっとここにいたよ?」

「嘘つけ!おい、タカシ!ここに女の子がいるの見えるか」

 一応、仲間の1人にそう尋ねてみる。

 すると彼は、びっくりしたように「いえ、何も」とだけ答えた。

「おい、お前は見えるか」

 続いて、さっきからバックにお金を詰めている銀行員の女にも尋ねる。

 女は言葉が出てこないのか、首を横に振って否定した。

 それを聞いて男は確信する。

 これは幻覚症状だ。普通でない精神状態が、この幻覚を引き起こしているのだ。

 なら、と女の子に向けて銃口を向けた。

 そして標準を絞り、引き金を引く。

(パァン!)という銃声の後、銃弾が女の子の体を貫いた。

「うぎゃ〜!」という悲鳴と共に女の子がバタリと倒れる。そして周辺の床が血で赤く染まった。

 これで邪魔者は消し去った、はずだったのだが。

 ふと後ろに気配を感じて振り返る。

「わぁ〜すご〜い」

 そこには仕留めたはずの女の子が立っていた。

「そんな・・・バカな!」

 死体のある方に視線を向けると確かにそこには死体が転がっていた。

「なんだこれは」

「フレンドのわざだよ」

「ふざけるな!」

 もう一度銃弾を放つ。

 また少女は地面に伏せた。

「ねぇ〜。あなたはなんのフレンズ?」

「ひぃ!!バケモノ!!」

 それから何度も何度も同じ事を繰り返した。銃弾が切れては補充して、撃ち続けた。それでも視界から動く少女がいなくなる事はない。

「みゃみゃみゃみゃみゃ」

「もう勘弁してくれ!」

 それから何分経っただろうか。とうとう男は撃つのを諦めて、地面に蹲(うずくま)り、耳を塞いだ。

 それでも少女の声が耳の奥の方まで届いてくる。

「あなたハァハァしないんだね!すごいよ!」

「もう分かった!分かったから・・・やめてくれ・・・」

「えぇ〜。これからが楽しみだったのになぁ〜」

 そう言うと少女の声が途切れた。

 耳を塞いでいた手を放して目を開ける。

 そこには・・・。

 仲間も含め、さっきまでそこにいた人のほとんど全員が、血を流して地面に横たわっていた。

 生きているのか、死んでいるのかは分からない。

 ただただ、そこには死屍累々の地獄絵図が広がっていたのだった。



 ~~~数ヶ月後、某刑務所にて〜~


「すみません。ちょっといいですか・・・」

「おう、なんだ」

 老巧の看守が見張りをしていると、新入りの看守が話しかけてきた。

「山田の様子がおかしくて・・・」

「山田?ってどの山田だ」

「大量殺人で最近、死刑が決まったばっかりのやつです。とにかく来てもらえませんか?」

「おう、分かった」

 2人で牢屋を歩いていく。

 しばらく歩くと、山田が収容されている部屋の前に着いた。

 すると中から何やら声が聞こえる。

 私語は厳禁なのだが。

「おい、うるさいぞ」

 老いた方の看守が覗き穴から部屋の中を覗いた。

「なっ・・・」

 そして目を大きく見開く。

「わ〜い!すご〜い!」

 そこには部屋の中を走り回る、入ってきた時とは変わり果てた男の姿があった。

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