第9話 イリーナ救出作戦2
事態は
イリーナを助けようにも、すぐ側にポイズナーいるので、近寄ることすらままならない。
それはポイズナーも同じのようで、先程から同じ姿勢で固まったままだ。体力を温存しているのだろう。
(さてどうするか・・・・。)
レオンは自分の知識と知恵をフル回転させて、ありとあらゆるパターンを考えていた。
しかし、どれもこれも、イリーナの側にあの蜘蛛が鎮座していることで上手くいくイメージが湧かない。
自身の魔法で遠距離から狙う事も考えたが、あの蜘蛛を一撃で倒すような魔法では、イリーナまで巻き込んでしまうだろう。
(あー!俺の魔法は全く役に立たないな!)
元々戦場での魔法の使い手として、兵士たちの後方から魔法による支援を行ってきた。
なので、大規模な攻撃魔法は実は得意なのだが、一つの個体に対する魔法については、かなり苦手としていた。
(こんな事なら、対人魔法ももっと修練しとくべきだったな・・)
今更考えても遅いが、そう思わずにはいられなかった。
ふと、ランディーの方に目を向けてみる。
「おいどうした?」
レオンは、ランディーが何やら一点を見つめて何かを思考しているのを見た。
「すこし考えがあるのですが・・」
ランディーからの提案は若干の不安はあるものの、レオンにとっては今出来うる中で最良の作戦に思えた。
「よし、それでやってみるか」
「やってみる価値はあると思います」
レオンとリサーナの同意を得て、パビエルにもこの件を説明する。
「まず、パビエルさん、先ほどと同じように、奴の後方へと回りこんで下さい。ただし、今度は、あの蜘蛛にわざと気付かれるようにお願いします。」
「気付かれないように・・ではないのか?」
パビエルはどういうことだ?と首をひねりながらランディーの問い返す。
「あなたには奴の注意を目一杯引きつけて欲しいんです。」
ランディーの考えた案とはこうだった。
「先程からあの蜘蛛の様子をずっとうかがってたんです。あいつは用心深く、皆さんのことを警戒していました。でも、ただ一人だけ、全くと言っていいほど警戒していません」
「それは誰だ」
この状況でそんな事があり得るのか?パビエルの疑問は当然だった。
「それは僕です」
ランディーが真面目顔でそんな事を言うものだから、パビエルは吹き出しそうになる。
「あの蜘蛛は僕のことを全くと言っていいほど警戒していません。それはそうでしょう。ここに来てからというもの、僕はほとんど何の戦力にもなっていませんから」
これについては、レオンもそうは思っているが、本人を前にして「そうだな」とは言えず、ただランディーの話を聞いているしか無かったのだが、
「あー、そういえばお前さんホント何もしてなかったな」
パビエルがあまりにもハッキリいうので、リサーナが慌ててフォローしようとし、かえってランディーを気落ちさせたりした。
「あーまあ、それで?」
この状況に苦笑いしつつ、レオンはランディーに続きを促す。
「あ、はい。で、パビエルさんに蜘蛛の注意が集中した所で、僕は大声をあげながら蜘蛛に突進します。おそらく、全く警戒していなかった相手からの大きなアクションで、蜘蛛は混乱するはずです。」
その隙に、イリーナを助けだして欲しい。
ランディーの提案はそういう物だった。
「もし、蜘蛛が僕に目もくれないようでしたら、そのまま蜘蛛に斬りかかりますので、やはりその隙に。」
「了解だ。では、移動しながら、あっちにいるご老体達にも伝えとこう。どうせ蜘蛛には何喋ってるかわからんし、悪目立ちもするしな」
パビエルは「にかっ」と笑いながら、さっそく移動し始めていた。そして移動しながら、ウェイン達に大きな声でこれからの行動について伝える。
これで作戦が開始されるはずだった。が・・・
「ふざけるな!!」
声はウェイン達が陣取る方向から上がった。
「そこの人間が考えた作戦を実行するだと?馬鹿なことを言うな!」
ルイスは妻のシャリーが必死に止めようとするもそれを振り払い構わずに続ける。
「この事態を引き起こした張本人が、よくも抜け抜けと娘を助けるなどと言う!恥を知れ!」
ランディーは、気持ちが折れそうになるが、今はそれどころではない。
早くしなければ、イリーナが危ないのだ。
かなり弱り切った顔をしている。体力もそれほど残ってないだろう。
「今はそれどころじゃありません!早くしないとイリーナが・・・」
「黙れえええええええええええ!」
ルイスは顔をこれでもかというくらい真っ赤にさせてランディーに怒鳴りつける!
「お前なんかには決して頼らん!」
レオンは作戦が失敗に終わったことを確信した。
そもそもこの作戦は、ランディーに対して、あの蜘蛛が全く関心を持ってなかったことが前提で成り立つのだ。
もはや、今のルイスとランディーのやり取りで、ポイズナーの関心は、ランディーにも行き渡ってしまった。
そしてそれだけでは無かった。
ルイスは自身の槍を構えると、あろうことか蜘蛛に向かって走りだしたのだ。
「嘘だろ!あのおっさん正気か!?」
これに慌てたのがパビエルだ。彼はクモの注意を引き付けながら、ゆっくりと側面に回り込んでいたのだ。
見れば、自分に対して武器をもって突っ込んでくるエルフに対し、ポイズナーは容赦なく毒霧を吐く準備を行っている。
そして、ルイスとポイズナーの間には、イリーナがいるのだ。
(ちっ!間に合うか!?)
パビエルは、ルイスに向かって走りだす。
全速力で走ってくるルイスに正面から止めに入っても無駄だろう。
だったら、さっきクモの毒霧から真横に逃げ飛んだように、ルイスの勢いを利用して、イリーナとルイスごとあのクモから引き離すことにする。
しかし、できるのかこれ・・・)
その時だった。
「ううぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
クモの後方から怒鳴り声を上げながらランディーが剣を上段に構えながら走ってきている。
(ランディーか!これはいけるかもしんねー!)
パビエルは、自慢の俊足を活かして、完全にクモにしか注意のいってないルイスを後ろから思い切り蹴り飛ばした。
そして、盛大にこけたルイスを飛び越え、そのままイリーナを小脇に抱えて脱出することに成功する。
そしてそれを見たルイスも、一瞬呆けてはいたが、すぐに事態に気付き、その場を離れる。
後はランディーが、あのクモにダメージを与えれば、どうにかなるはずだった。
がきいいいいいいいん!
走りこんできたランディーの剣は見事ポイズナーに命中した。
しかしそれだけだった。彼の放った剣は、クモの外装に打撃を与えただけで、外傷の一つも与えてはいない。
レオンは自分の考えの浅はかさを呪った。
ランディーは、ここ数週間ずっと寝てるか座っているだけだったのだ。
そんな彼に、モンスターにダメージを与える力など残っているわけが無かった。
もちろんランディー自身はわかってはいただろう。最初から捨て身だったのだ。
ポイズナーは、自分に向けて剣を振るってきたこの生き物に怒りを抱いていた。
外傷はなかったものの、かなりの痛みをクモに与えて吐いたのだ。
彼は、追い詰められたその焦りと怒りの全てを、毒霧という形でランディーへと放った。
「うわあああああああああああああああああああああああああああああああああ」
全身に毒の霧を受けたランディーはたまらず顔を覆い、地面に転がっていく。
誰もが何が起こったのかをわかって居なかった。
そしてクモがその隙をついて逃げようとしたことで、我に返った。
パビエルやウェインは、逃げようとした蜘蛛を追いかけようとしたが、レオンに「放おっておけばいい」と言われ、深追いはしなかった。
それよりもランディーとイリーナだ。特にランディーはまともに毒を被ってしまった。
早く処置をしないと命を落とす危険がある。
「イリーナ!ランディー!しっかりして下さい!」
リサーナはさっきから二人に声をかけるが返事がない。
「とにかく!この場所ではたいした治療ができない。一刻も早く村につれて帰るぞ!」
レオンの声が森にこだまする。
イリーナの救出には成功したが、一同には暗い空気が漂っていた。
すっかり衰弱してしまったイリーナと、毒によって命を落とす危険にさらされているランディー。
二人の怪我人を馬に乗せ、一行は集落へと急ぐ。
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