第11話 セシリアの編入試験合否会議
筆記試験を終えたメロディはレギュスに案内されて教員用の食堂で昼食を済ませた。一時間ほど休憩をしていると食堂に魔法試験の担当官、エルステラ・ネレイセンが姿を現す。
「準備はよろしいかしら。魔法の訓練場へ移動し、魔法試験を受けていただきます」
「よろしくお願いします」
案内されて到着した場所は、壁に囲まれた運動場のような場所であった。
「基本的に編入試験に魔法の実技試験は必要ないのですが、セシリアさんは魔法が使えると事前に伺っているのでどの程度行使できるのか確認させてもらいますね」
「は、はい」
魔法バレ対策として自重を求められる今、どこまで見せていいものか線引きがとても難しい。そのため、メロディはもの凄く緊張していた。
「セシリアさん、レギンバース伯爵様によると『
「分かりました」
とりあえず、これまで人に見せてきた魔法のようでメロディは安堵した。
「優しく照らせ『灯火』」
前に突き出した両の手のひらを上に向け、魔法を発動する。手のひらから泡立つように光の球体が生まれ、あっという間に十個の『灯火』が空中に現れた。両腕を開くと十個の光球はつられるように半々に分かれ、その勢いのままゆっくりとメロディの周囲を回り始める。
エルステラはその光景に思わず目を見張る。初級の『灯火』とはいえ十個同時発動となると難易度はさすがに上がる。ましてや光球一つ一つに独自の命令を与えるとなればさらに難しい。
今、メロディの周りを衛星のように回り続ける『灯火』達は、それぞれが自由な軌道を描き、しかしメロディから離れることなくある程度の規則性を持って円を描いていた。
つまり、メロディはこれをとても自然に行使しているようだが、彼女は一つ一つの『灯火』に個別の命令を与えたうえで全てのバランスを取っているのである。独自の軌道を描きつつも一つとして光球同士が衝突していないのが良い証拠だ。
さらに、全ての光球の軌道が一周ごとに変化しているため、ずっと見ていられる気がする。
「……」
「あの、ネレイセン先生? 魔法を発動させたのですが……」
「……あっ、そ、そうね。よく分かりました。魔法を解除してください」
メロディが両手を打ち鳴らすと、十個の光球は線香花火が弾けるようにパッと姿を消した。
「……綺麗」
「え?」
「ああ、いえ、何でもありません。他にはどんな魔法が使えるかしら」
「えっと……やってみます」
(どんな魔法なら問題ないかな……同時発動は珍しいみたいだし、一つずつ見せればいいかな)
メロディはまず『灯火』を一個発動させた。
「あら? セシリアさん、それはさっき――え?」
メロディは次に小さな水球を一個生み出した。続いて小さな火球を。弱いつむじ風を。拳ほどの石つぶてを。
どれも一個ずつ。されど全てを同時に――。
エルステラは目をパチクリさせてその光景を見つめていた。
「あの、こんな感じですが」
「……え、ええ。よく分かりました。魔法を解除してください」
メロディが楽団の指揮を終えるように手を振ると、全ての魔法が白い光となって消滅した。
「では、魔法試験を終了します」
「ありがとうございました」
「……セシリアさんはこれを独学で習得されたのよね?」
「はい。ですので、今の自分のレベルが分からなくて。学園で基礎から学べればと考えています」
「そ、そう。編入できればぜひ応用魔法学を受講していただきたいわ」
「その際はよろしくお願いします」
魔法の実技試験は終了した。
少し休憩を挟み、メロディは次の試験である面談の部屋へ案内された。
「失礼します」
入室すると、学園長、副学園長、そして一年Cクラスの担任教師、シェラディオ・クリンハットが目の前の長机に並んで腰掛けていた。向かい合う形でメロディの椅子も用意されている。世界が変わろうとも、面談のスタイルはどこも同じらしい。学園長に着席を促されてメロディは椅子に腰を下ろした。
「ではまず、学園編入の志望動機から聞かせてください」
メロディの面談が始まった。質問の内容はライザックやクラウドに尋ねられたものとほとんど同じであったので、メロディは緊張しつつも淀みなく答えることができた。
主に質問するのは副学園長で、回答に対し頷くなどの反応を見せる彼とは対照的に、学園長は一切反応を示さず、シェラディオは鋭い視線でメロディを見つめるだけであった。
(圧迫面接とかはないみたいだけど、三者三様に役割はあるみたい……面接の経験なんて前世のアルバイトとルシアナお嬢様しか経験がないから、何が正しいのか判断に迷うなぁ)
前世は二十歳で亡くなってしまったメロディである。アルバイトの面接と今回の面談では形式が違いすぎてあまり参考にはならない。もちろんルシアナとの面接も同様だ。
一応、礼儀作法を守りつつ要点を押さえて回答しているつもりだが、試験官がどこに重点を置いているのか分からない以上、メロディといえど内心の不安を消すことはできなかった。
「以上で面談を終わります」
「ありがとうございました」
副学園長の言葉に、腰を下ろしたまま頭を下げるメロディ。
顔を上げると学園長と目が合った。
「では、以上でセシリア・マクマーデンの編入試験を終了する。合否通知は数日中に知らせる」
「はい、ありがとうございました」
学園長達に一礼して退出すると、部屋の外にはクラウドが待っていた。
「伯爵様」
「ご苦労だった、セシリア嬢。試験の手応えはどうだったかな」
「筆記試験はそれなりにできたと思うのですが、他はよく分からないです」
困ったように微笑むメロディに、クラウドは思わず伸びそうになった手をぐっと堪えた。
「私の見立てでは問題ないと思うがね」
「そうだといいのですが……」
「とりあえず疲れただろう。このまま帰っていいそうなのでルトルバーグ邸へ送っていこう」
「ありがとうございます」
クラウドにエスコートされて、メロディはルシアナが待つ屋敷へ帰るのであった。
◆◆◆
メロディが王立学園を去って数時間後、既に夜を迎えた学内では編入試験に関わった教師陣によるセシリアの合否会議が行われていた。
三人の一年生担当教師による各試験の結果が告げられ、学園長メイス・アルドーラ伯爵は口元を引き攣らせる。
「えっと、それは……本当なのか?」
メイスは一年Aクラス担任教師レギュスに尋ねた。
ちょっと信じられない試験結果だったので。
「はい。セシリア・マクマーデンの四科目試験結果は――全科目満点です」
メイスはこめかみを押さえた。グリグリと割と強めに。
「……一年生の学習範囲を満遍なく出題したんだよな」
「もちろんです。出題範囲に偏りはありません」
「バウエンベール先生、カンニングの可能性はないのですか」
副学園長が尋ねるが、レギュスは即座に首を左右に振った。
「私も疑い、彼女が解答する様子を確認しました。あれはしっかりと自分の中で答えを導き出した者がする態度です。決してあらかじめ知った答えを思い出して書く者の動きではありません」
「つまり、セシリア・マクマーデンは既に一年生の学習範囲を完全に網羅しているってことか? ……うちに通う必要、なくない?」
学園長メイスは身も蓋もない感想を口にした。
でもまあ、言いたくもなる結果だろう。
☆☆☆あとがき☆☆☆
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