後先考えず、突っ込め!!
間六彦は、振り返った。全身の力を、ダラリと抜いていた。それは学校や、三人娘たちの前はおろか――かつて誰にも、見せたことのない姿だった。
間六彦、本来の姿だった。
「ンーだよさっきからベラベラベラベラ偉っそうに……あ? なに、オレのことわかってンのかよ? 今日ったばかりだってのに、ナメてんのかよコラ?」
「ほっほっほっ、ようやく本性出したか若造が」
「……てめぇ」
庭に、降り立った。裸足で。構うものか、どうせ怪我するような柔な鍛え方をしていない。そのままジジイの目の前まで。向き合うと、まるで大人と子供なくらいの体格差があった。
こんなナリで、オレに喧嘩売ってるのか?
「腕力でなら負けないと?」
見透かされているようで、余計カッときた。
「!」
何も言わず、近くのマンゴーの樹をぶん殴った。
ゴンッッ、という地震と見紛うような衝撃。なっていた実が一瞬で、すべて、地に墜ちる。
「どうだ! てめぇに、わかるかよ!? こんな呪われた力を背負った宿命が――」
「ほっほっほぉ、わしの言うた通りじゃないかぁ?」
「ッ!?」
自意識過剰、意味のない責任感、勝手背負ったる罪悪感。
「――くそったれが!」
「ほっほっほっ、やり場のない鬱憤――」
「ちょっ、どうしたのこんな夜中に!?」「あれぇ、ろっくん裸足さんだよぉ?」「……六彦?」
軒先に、みんな集合してしまった。これだから感情で突っ走るとろくなことがない。安眠を妨害してしまったし、ホラみんな心配そうな顔で――
「なに? 取っ組み合いおもしろそー!」「わぁ、ろっくんも酒田さんもぉ、がんばれぇ」「酒田Gー、六彦ってパワーハンパないから、捌きしっかりねー!」
「……え?」
ポカンとする間六彦の――鳩尾に、飛び込んだ酒田Gの直突きが、めり込んだ。
「ぐ、ぇ……!」
一気空気を吐きつくし、膝をつく。打撃箇所を抑えて顔を上げると、酒田Gはみなにガッツポーズを決め、三人娘はやんややんやの喝采だった。
なんだコレは? 夜の夜中に、なんでみんなそんな元気なんだ?
「なんだなんだ?」「うお、こんな夜更けに殴り合いか?」「いいな、やれやれーっ!」「血反吐ぶち撒けろや――――ッ!!」
なんか垣根の向こうからも人が集まっていた。オイオイ、なんでみんな笑顔なんだよ? なんだか酒っぽいものを酌み交わしていた。泡盛ってやつだろうか。
ほとんど外国だな、沖縄(ここ)は。
間六彦は立ち上がり、酒田Gと向き合った。
「お、やる気かぁ若造がぁ?」
「もう……どうなったって知らねーぞ?」
「カッカッカッ、井の中の蛙が大海を知らせてくれるわ」
ままよ。
間六彦は後先考えず、ご老体に突進した。
一晩、明けた。
『…………』
みんな、ミンミン蝉が喧しい中、居間で勢ぞろいして眠っていた。雑魚寝だった。思い思いに各人が一番涼しいと思う場所に、少しでも風を求めていた。クーラー無いとか地獄のような環境だったが、みな惰眠を貪ることに必死だった。
配置は、軒先に近い右下に弥生、左下に間六彦、真ん中に柚恵、奥に舞奈だった。ちなみに酒田Gは自室で扇風機の中眠っていた、家主の特権。舞奈は顔中汗だくで、うんうん唸っていた。その足首を、柚恵が握って微妙に裏をくすぐっていた。そして弥生は大の字に、間六彦は丸まって眠っていた。
間六彦の顔は、傷だらけだった。両手も足も、小さな擦り傷が無数にある。頬には絆創膏。間六彦の表情が、微かに曇った。痛むのだろう。
その手を、弥生が掴んだ。
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