わたしのこと……好き?
「……なにが不満だ? お前も可哀想だとか、同種だとか呼ばれたいということか? それはおススメはしないぞ? 言葉ばかり綺麗だが、その実態はロクでもなく――」
「ウチもわかんないんだけど、間もウチをわかってないんだね」
それはとても、寂しい言葉に聞こえた。
なにか、妙な胸騒ぎをした。
「……手那鞠?」
「なんだかさ……思うんだよね」
舞奈が月を仰ぎ見て、しばらくしてから、振り返る。
「ぜんぶ、嘘なんじゃないかって」
弥生だった。
弥生は、舞奈になっていた。いつからかは、本人にも実感がない。舞奈になった弥生は酒田Gが大暴れする中、外に出て、間六彦を中庭に誘った。そこで、話をしていた。舞奈のまま。舞奈のつもりで。
そしてこのタイミングで、弥生は弥生に戻っていた。
間六彦は意外にも、あまり驚いてはいないようだった。
「そうか……なるほど、合点がいった」
「なんの?」
「いや、神ノ島のような気はしていた」
「それはどういう意味?」
「口調と、雰囲気からだな」
「わかってたんだ?」
「いや、こんな超常現象をお目にかかる機会など今まで無かったからな。わかっていたわけじゃない。ただ、そんな気がしただけだ」
「だったら、どう思った?」
間六彦はなぜか、両手を上げていた。
「どうしたの?」
「いや、参ったと思ってな。今日はやたらと、根掘り葉掘り聞かれる一日だ」
チクリ、と胸が痛んだ。咄嗟にそこを抑えてしまう。少し呼吸が、苦しくなった。
「……めいわく?」
「そうでもない」
どっちつかずの返答が、少しだけ怖かった。
「なら――」
「大したものだな。それが巫女としての、お前の能力(ちから)か?」
「ちょっと、違う」
「どう違うんだ?」
「わたしは……別に舞奈になりたくて、なったわけじゃない」
間六彦の表情が、少しだけ険しくなった。
怒らせるようなことをいったのかと、少しだけ胸がざわめいた。
「それはつまり、お前の意思とは関係なくそのような変態を遂げていたということか?」
「ヘンタイ? って?」
「多分お前が考えているような意味ではないと思うが……つまり半自動的に、その変――身は、行われたということか?」
少しだけ、弥生は返事を躊躇った。理由は自分でも、よくわからなかった。
「……うん」
「憑かれているという、悪霊のせいか?」
「え……そ、そーといえばそーなんだけど、ちょっと違うというか……」
「どう、違うんだ?」
話そうとした。理由を。聞かれるがままに。
けれどその前に、少しだけ気になる点が思い至ってしまった。
「不憫、なの?」
思わず呟いた言葉は、間六彦のしまったという表情を引き出した。
言葉はもはや不要だった。
弥生は肩を落とし、訪れるであろう弁解の言葉を待った。
「――不憫だな」
呆気に取られたのは、こちらだった。
「え……」
「不憫だな。言葉を選ばなかったことだけは謝罪するが、すまないが俺にはそう思えていた。事実だ」
「へ……って、ちょっと酷いなー?」
なんだかわけわからなくなって、弥生はにへらと表情を崩した。いくらなんでも、ハッチャけ過ぎだった。開き直りにしても酷い部類だと思った。弥生は間六彦の、人間らしいところを初めて見た気がして、少しだけ嬉しかった。
「本当はもう少ししてから、打ち明けようと思っていたがな。いい機会だ、言わせて貰う。俺になにか、出来ることはないか?」
だから男らしく迫られて、弥生は目を白黒させることになった。
「え……って、ナニナニ!?」
「いや、言い方を変えようか。俺で出来ることがあるからこそ、頼ったのだろう? あの妙な御神木の詳細などはわからんが、俺に出来ることがあるというなら協力しよう。なんだ? 言ってみろ? 遠慮はいらん。さぁ――」
「ちょっ……ちょっと待った!」
ぐいぐい迫ってくる間六彦を、舞奈は突き飛ば――そうと腕を伸ばして、それは厚い胸板にガッシリと受け止められてしまったあらやだ逞しい。
間六彦はとつぜん胸を押され、戸惑っていた。
「……どうした?」
「や、いや……ろ、六彦こそ、どうしたの?」
「どうもしないが?」
確かに表情や言葉は、いつも通りな感じは受ける。だが雰囲気が、もっといえば女の直感的なものがなにか変化を受け止めていた。
ひとつ、賭けてみようと思った。
「……六彦さ、」
「なんだ?」
「わたしのこと……好き?」
俯いていた顔をあげ、表情を確認した。
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