変革とぉ、救済をぉ

 おそらく柚恵は、酷く端的に言えばそういう諸々を考えなくては動けない自分を、卑下している。

 だから世間的には低評価さえされるだろう舞奈を――

「わたし昔ぃ、イジめられてたんだぁ」

「そうか」

「みんな、酷かったなぁ。誰も、相手してくれなくてぇ。でも下手に助けるとぉ、自分も危ないからってぇ。世の中の厳しさを知ったよねぇ。でもまいにゃあだけはぁ、ぜんっぜんそんな空気に気づかず今までどおりに接してくれてぇ……悲しくなるくらい、嬉しかったなぁ」

 その瞳は、遠い今は届かない景色を眺めているようだった。

 一瞬間六彦も、その日を思い出しそうになり――打ち消した。

 小さく、舌打ちした。自分の、未熟さに。

「……そうか」

「うん、最初はまいにゃあも一緒にイジめられちゃってぇ、それで傷ついてぇ、やっぱり裏切られちゃうんじゃないかってぇ、思ってたんだけどぉ……まいにゃあは、変わらなかった。それで結局ぅ、変わったっていうか根負けしたのはぁ、周りのほうだった。みんなまいにゃあのKYぶりにぃ、どうでもよくなっちゃってぇ、それで結局ゆえ含めてぇ、元に戻っちゃった。すごいよねぇ、まいにゃあって、すごいよねぇ?」

「すごいな」

 素直に、自身の非を認めた。

 事実として自分も、あの娘に変えられつつある。

「それでぇ、だとするならぁ――やよよんは、月なんだ」

「お前の闇を、より深くした存在ということか?」

 例えてみると、柚恵は目を丸くしたあとアハハ、と笑った。

「うん……さすがだねぇ、ろっくん」

「俺になにを望んでいる?」

「変革とぉ、救済をぉ」

 唐突なその言葉に、間六彦は柚恵の瞳を覗き込んだ。

 表情は笑っていたが、その瞳は自分に――縋っていた。

「……神ノ島を、」

「ゆえはぁ、まいにゃあに救われたんだぁ……けどやよよんの悲しみは、ゆえにも計れない。心開いて、くれてない。けど、でも、ろっくんなら……」

「買いかぶりだ」

「違うよぉ」

「どうしてそう思う?」

「女としてのぉ、直感?」

 そしてコロリ、と悪戯っぽく笑う。ここでソレを出すということは、シリアスな話の終焉を示していた。

 間六彦は両手を後ろについて、ため息を漏らした。

「……そうか。それには、敵わないな」

「えへへぇ、おんなの子のぉ、特権だよぉ?」

「それは参った、降参だ。ところで二人は、今何処に?」

「お風呂中だよぉ」

「おぉ、それは失礼したな。ではそろそろお暇を――」

 ガラっ、と襖が開けられ現れる茶髪と、長い黒髪。

「あーさっぱりした極楽極楽たまらんわー」「舞奈、それ親父臭い」「え、そう? まっ、でも女だけだしいんじゃない?」「そういうところ普段から直さないと、いざっていう時出るよ?」「いざって時なんてこんな女同士でずっと遊んでてくるかどうかも――」

「よう、二人とも」

 一応間六彦は、挨拶してみた。

 ちなみに後ろからくる弥生は髪もドライヤーで乾かしてのちに櫛を通したであろう痕跡も見て取れて、浴衣もキチンと着付けていた。

 それに反して前を行く舞奈は髪も濡れそぼり、頬は上気、浴衣の前は乱れ、腕もまくられ二の腕、胸元の一部、さらには大腿部の付け根近くに至るまで視界に収めることが出来た。

 眼福、とでもいっておけばいいのか?

「にゃ――――――――っ!」

 問答無用の右鉤突き(フック)が顔に飛んできて、どうするか0,2秒考えたが結局まともに喰らっておくことにした。一応先ほどの、空気を読んだというつもりだった。

 軽く意識が、トンだ。


 話も終わったし、割り当てられた部屋に戻ると言った。

「えー、一緒に話そうよー六彦ー」

 それが弥生の一言で、滞在延長と相成ってしまった。一応反論はしたが、この無邪気な暴君グレープフルーツ姫に逆らう術はない。間六彦はそこで、一旦風呂に入ってくるから、と伝え、離脱に成功した。待ってるからねーという弥生の声を背に、頬をかきながら間六彦は風呂場に向かっていった。

 それを見送ってから舞奈は振り返り、ふたりに――捲くし立てた。

「はいはい、バイバーイ……って、ねぇちょっそのど、どどどゆこととととととっ!?」

「あははははぁ、まいにゃあ面白いねぇ?」

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