ラブコメの波動

 *かなりホットな話題が出てきますが、作者に政治的主張の意図は特にありません。悪しからず。



「はっ!」


 ポトッ。

 教室を五月蝿く飛びまわっていた蚊が落ちる。先生は何事もなかったかのように授業を続けた。


 僕らの世代は奇跡の世代と呼ばれる。1995年4月5日、突如降り注いだ光は胎児に異常な影響を及ぼし、子供達はすべからく皆超科学的な能力を持って産まれてきた。


 たとえばとなりで爆睡している山田は「ラブコメの波動」を打つことができる。こいつを浴びれば、ピーな展開やピーピーピーなハプニングが雨あられと降ってくる。自分に向かって打てないのがちょっと可哀想だが。


 それに前の席の島田さんは「残留波」の達人だ。この波動は人々に「やっぱ今のままでいいよね」という気持ちを抱かせる。暫く様子を見てないが、恐らく今頃ヨーロッパで「離脱波」の使い手たちと死闘を繰り広げているのだろう。


 ……それに比べて俺の能力のスケールの小ささよ。この能力、蚊が一番気になる夜に使うと明かりで蚊をむしろ集めてしまう。というか、蚊取り線香を大人しく買った方がいい。はあ、こんな能力嫌いだ。


「じゃあここ、山田!」


 そんなことをつらつらと考えていると、先生は山田を指名した。だが、一向に起きる気配はない。


「おいっ山田、起きろよ」


「う、うん?」


 俺は山田を揺すって起こす。


「おいっ山田、どうしたっ!」


「は、はいっ!」


 山田が慌てて俺の手を振り払うと、その手の先から何かが出たような気がした。ガラガラ。同時に教室の戸が開く音がする。


「お、お久しぶりです」


「島田!お前どうした!」


「へへ、ちょっと正露ガンにやられちゃいまして」


 姿を現したのは、血まみれの島田さん。つかつかと俺の席に歩みよると、力任せに手を引いた。


「香取君借りていきますね。ではまた」


「おいっ!待て島田!」


 先生の言葉に振り向きもせず、島田さんは走り出した。


「敵の仲間にモスキート音波の使い手がいるの。これが厄介でね。私たち、若い世代をピンポイントに攻撃することができるの」


 バリーン。突然廊下の窓ガラスが割れた。


「てことで、手伝ってくれる、よね?蚊取り閃光使いの香取君?」


 今ラブコメが始まってしまった。それもかなりハードな。こんな能力やっぱ嫌いだ。

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