新世紀のメリーさん

 蒸し暑い真夏の夜。俺は自転車で近くのコンビニに食後のアイスを買いに来ていた。店内であれかこれかと迷っていると、携帯電話が突然鳴った。見れば彼女からだ。


「私、メリーさん。今どこにいるの?」


「ぶはっ。知らねえよ」


 思わず吹き出した。俺の彼女は地図をくるくるし過ぎて腕がつるタイプ、つまり方向音痴だ。何処かで迷って助けを求めているのだろう。


「しゃーねえ。今から迎えに行ってやるから。周りに何が見える?」


「私、メリーさん。今大きな鳥居の前にいるの」


「分かったからやめてくれ。多分八島神社だな。15分くらいで着くからそこ動くなよ」


 なぜそんなところに行き着いてしまったのか少し疑問に感じながら、俺は自転車に股がった。


 汗だくになりながら鳥居の前に到着し、彼女を探すものの、その姿はどこにもない。もう一度電話を掛けようとしたちょうどその時、携帯電話が鳴った。同時に酷い悪寒が襲う。俺は恐る恐る通話ボタンを押し、耳を傾けた。


「私、メリーさん。今貴方の後ろにいるの」


 携帯電話が普及した時代。今どこにいるの、とは俺の居場所を聞いていたのだと気づいたときにはもう全てが遅かった。

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