show must go on ! *

―――エンダアアアー


「ちょっと待ったあああ!」


 大団円を迎えた舞台に盛大な待ったがかかる。声がした方を振り返れば、身の丈190は有ろうかという逞しい大男が、観客席で仁王立ちしている。


「有紀! お前俺のこと大好きって言っていたじゃないか! なぜそんなやさ男と!」


「……分かって。私の夢のためなの」


 静寂に包まれた劇場で消え入りそうなヒロインの声が響いた。


「自己紹介が遅れたな。俺はこの物語の主役……兼監督だ。あとは言わないでも分かるだろう?」


 にやりと笑う主人公は、先程までの優しそうな2枚目マスクを放り投げ、あからさまな悪人顔になっている。


「そんな!」


「俺はこいつの夢を叶えてやることができる。お前はなにができるんだ?」


「俺は……俺はっ……お前が何かに攻撃されている時にはこの胸板でお前を守る。倒れそうな時にはふくらはぎでお前を支える! 泣きたい時には二の腕でお前を包むっ! 一生!この筋肉に誓ってっ!!!」


 暫しの沈黙。それを切り裂くように女の確かな叫びが劇場にこだました。


「……私間違ってた! 自分の夢は自分の腕で掴んで見せる! あなたとなら!」


大男は舞台に駆けあがり、二人はスポットライトを浴びながら見つめあった。


「結婚しよう」


「はいっ!」


―――エンダアアアー


「手間かけさせやがって」


 主人公がそう呟くと、舞台の幕は静かに降りた。観客席は歓声につつまれる。壮大な演出だと分かった観客は、スタンディングオベレーションで役者たちを讃えたのだ。


 ただその中で一人だけ。私はあまりの衝撃に席で固まっていた。ヒロインの名は確かナンシー。そしてナンシーとあの筋肉バカは私の友人である。


 show must go on.

 プロは偉大。




 *山野ねこ様の同名のショートからタイトルを頂きました。ありがとうございます。

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