吊り橋効果

 ごうごうと音を立てる水流を遥か下に臨みながら、中年男が吊り橋の手前で棒立ちしている。ぼろぼろの吊り橋は、登るとパワースポットとして名高い寺院にたどり着く山道へと繋がっている。

 しばらくすると若い女が現れた。男は女に声を掛ける。


「もしかして貴方も?」


「はい。正直一人じゃ心細かったもので。よろしければご一緒しませんか?」


「よろこんで」


 二人は慎重に吊り橋を渡り始めた。軋むような音ともに大きく揺れる吊り橋。中程に差し掛かったところで、先を歩いていた女は立ち止まり、振り返って男に言った。


「吊り橋効果ってご存知ですか」


「ああ、ドキドキがトキメキに変わるっていうアレですか」


「ふふ。そうです。私、今感じてるかもしれません」


「奇遇ですね。私もです。これさえあればパワースポットなんて不要ですね」


 見つめあう男と女。言葉はない。暫くして水面に二つの水飛沫が上がり、何もなかったかのように吊り橋の揺れは収まった。


 二人は人として最大の恐怖を共有したのだ。あちらで結ばれる日も近いことだろう。

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