死よりも辛い1時間

草木も眠る丑三つ時。

静まりかえった深い森で向かい合う男と女。

女の手には拳銃が握られている。


「冗談だろ?話が違うじゃないか。」


男の声は震えている。


「冗談なんかじゃないわ。この時を2年間も待ちつづけていたのだから。」


「どういうことだ。」


「私、本当の名前は國枝伊織っていうの。」


「國枝・・。まさかっ・・。」


「そう。3年前あなたが殺した國枝佐織の姉よ。」


「わ、私が殺したわけじゃない。」


「あなたが殺したのよ!意気地なしのあなたが優しい佐織を巻き込んで!それなのにあなたは奇跡的に助かってのうのうと生きている!許せない、絶対に許せない!だから復讐してやるの。すぐには死なせてあげないわ。せいぜい苦しむことね。」


「俺が悪かった。どうか銃をこちらに、」


男の声が女に聞こえている様子はない。


「佐織が死んでから1日も気が休まる日はなかったんだよ。お父さんは後を追って、お母さんは精神を病んで。そして何よりお姉ちゃんはあなたのことが大好きだったんだもん。やっと仇を討つことができて、明日からはゆっくり眠れそう・・。」


女の指に力が入る。


「やめろおおお!」


・・パーンッ。




―――明け方男女二人の死体が発見された。

死亡推定時刻は女が午前1時15分、男が午前2時15分。即死だったと見られる。警察は、現場の状況から心中自殺の方向で捜査を進めている。

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