観察記
私はこの観察記を記すにあたって、一つの条件を設けようと思う。それは主観を交えないということだ。例えば、「綺麗な花が咲きました」という記述は、私の観察記には相応しくない。綺麗であることの基準は人によってまちまちであり、決して客観的たりえないからである。全ては普遍的妥当性を持たせんがためにある。この観察記が科学、ひいては人類のさらなる発展に貢献することを切に願いながらここに全貌を記す。
1日目、早朝。
例の種を土に植えた。
水を100cc与えた。
2日目、6時30分。
私は取り返しのつかない過ちを犯してしまった。昨日の記録に「早朝」と記してしまったことだ。早いか遅いかなど人それぞれではないか。断腸の思いであるが、仕方あるまい。恥知らずと罵られようが、この記録を残すことが私の天分なのだから。
水を100cc与えた。
3日目、6時30分。
なんたる失態!なんたる体たらく!昨日私は、「取り返しのつかない」などと記録してしまった。もう科学者としての命を自ら絶つべきなのかもしれない。しかし、私が死んでしまえば目の前にある奇跡を誰が記しうるというのだろうか。先生、どうかこの罪深い私をお許しください。
水を100cc与えた。
4日目、6時30分。
おお主観という檻に閉じ込められた猿よ!誰が「奇跡」を普遍に至らしむるというのか。理性的存在としての誇りを忘れ、虚構に安寧する人間の以下の畜生……
「ごめんね。先生、亨くんの発表すごく楽しく聞いてたんだけど、ちょっと時間がないんだ。あと一言でまとめてくれるかな」
小さな科学者は少し考える素振りを見せてからこう答えた。
「朝顔が咲きました」
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