俺が死んだら*
―――しんあいなる弟へ
お前がこの手紙を読んでいるということは、俺はもうこの世にはいないのだろう。何も哀しむことはない。確かに闘病生活は辛かったけれども、たくさんの友達、父さん、母さん、そしてお前に出会うことができて兄ちゃんは幸せだった。
だが全く心残りが無いかと言えば嘘になる。そこで一つ、兄ちゃんの頼みを聞いてくれないか。
俺の勉強机にダイアルロックが掛かった引き出しがあるのを知っているか。ロックの番号はお前の誕生日だ。開けてみてほしい。中身がつっかえて開きにくいかもしれないけど。
それな、兄ちゃんが友達から借りて返しそびれたゲームのカセットだ。山のようにあるけどけいべつしないでくれよ。タイミング逃してそのままとかよくあることなんだよ。
もう分かったか。そう、ゲームを元の持ち主に返してあげて欲しいんだ。俺、信用ないのかねえ、裏には全て名前が書いてある。お母さんに聞いたらどこの誰かすぐに分かるだろう。
今、お母さんに全部頼めばいいと思っただろ。それだけはかんべんしてくれよ。友達とゲームの貸し借りしてること、内緒だったんだから。これはお前にしか頼めないことなんだ。
これでもう思い残すことはない。これからのお前の人生が喜びに満ちたものになることを、兄ちゃんは願っている―――
―――僕はあれから毎日一本づつゲームを返しに行ったんだ。知らない人の家に行くのはとても勇気が要るけれど、兄ちゃんとの約束を守るため僕頑張ったんだよ。
兄ちゃんの友達は、みんなゲームを貸していたことを忘れてしまっていたようで、怒ることもなく一緒に遊ぶように誘ってくれたよ。兄ちゃんだけだった僕の世界は少しづつ広がっていったんだ。
最後の一つを返しに行った時、僕はなぜか泣いてしまった。兄ちゃんの友達はおろおろしてたけど、別に悲しかったわけじゃないんだ。
たぶん兄ちゃんの嘘に気づいていたから。ゲームの裏の名前は、みんな同じ汚い文字で書かれてるんだもん。僕でも分かるよ。昔から嘘つくの下手くそだったもんね。
ありがとう。
元気でね。
僕は今幸せです。
―――大好きな兄ちゃんへ
*山野ねこ様の同名のショートからタイトルを頂きました。ありがとうございます。
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