NIGHT EAGLE -justice of arrow-

RALPH novels

第1章”JACK(ジャック)”

第1話

『弓は力で引くんじゃない。 心を落ち着かせて精神を統一して引くんだ』





力強い声の男性が少年に優しく教えている。


少年は目を瞑り心を落ち着かせた。


呼吸を整えると、ゆっくり弓を引く。


弦を目一杯引くと一気に矢を放った。










2017年 ≪現在≫





M県陸奥(むつ)市。






夜の街中を男が走り抜けている。




ズサ!!



矢が男の肩に突き刺さった。


『うわ!・・』


男は左肩に刺さった矢を引っこ抜き、手で傷口を抑え、矢が飛んできた方向を見る。


男の対角線上にあるビルの屋上に人影があった。


屋上にいる人物はフードを目深に被り男の方を見ていた。



『クソ! ナイトイーグルか!』


男は左肩を抑えたまま逃げるように走り出した。


手に持っていた大きなカバンを投げ捨てる。


中にはATMを壊し奪った札束が入っていた。



フードの男は背中に掛けてある矢筒から新しい矢を1本取り出した。


それを弓に掛けると素早く放った。



放たれた矢は逃げる男の脇を超えて建物の壁に突き刺さる。


その矢にはワイヤーがついておりフードの男のところまで伸びていた。



そのワイヤーを素早くビルの手すりに括り付けると腰につけてある滑車を取り出しワイヤーへと連結させた。


そしてそのままフードの男は下へと降りていく。




一瞬にして男も目の前に降り立ったフードの男は強盗の胸ぐらを掴み上げると加工された声で問いかけた。




【”JACK(ジャック)”はどこにいる】


『”JACK”?? 知らねえよ!』


【999(スリーナイン)の事について知ってることを言え!】


『なんで、おめぇーに言わなきゃいけないんだよ!』


フードの男は矢筒から矢を取り出し、躊躇うことなく今度は強盗の右肩に突き刺した。


『ぎゃあああああ』強盗は悶絶する。


【答えろ、999(スリーナイン)の事について知っている事を】


『わかった・・わかったよ・・あいつらは金を集めてる・・』


強盗は後方に投げ捨てられたカバンを指さした。


【何に使うつもりだ】


『知らねえよ・・ホントだって・・』強盗は本当にこれ以上知らないようだった。


フードの男はワイヤーを強盗に巻きつけると電柱に縛り付けた。



通報を受け、陸奥警察署から警官たちが駆け付けてくるのが見えた。


周りの野次馬はそれぞれスマホを片手に写真や動画を撮っている。




そしてフードの男は夜の闇へと消えていった。











小さな地響きからそれが次第に大きなものと変わり、そして大きな揺れを感じた。


瞬く間に動けなくなるほどの大きな揺れとなり僕はただただ何もすることができなかった。



『宗介!宗介!』誰かの呼びかける声が聞こえる。



僕はその聞き覚えのある声の方に向かう。



『父さん・・・』


『こっちだ!大丈夫だ』


『母さんは?』


『母さんもこっちにいる、さぁ!』


僕は父さんの差し出す手を掴もうと自分の手を差し出した。


もう少しで手が届く・・・・


もう少しで父さんと母さんのところへ行ける・・・






目が覚める。


天井が見える。



朝の清々しい陽気が射しこんでいた。



ふぅーと一息ついて楠木宗介(くすのきそうすけ)は『夢か・・・・』と呟いた。


宗介はベットから起き上がり部屋のカーテンを開けた。雲ひとつない快晴だった。


宗介の部屋の窓からはM県陸奥(むつ)市の街並がよく見えていたが、その街の建物はそのほとんどが真新しいものだ。



今から3年前2014年6月14日 東北を襲った大地震にM県陸奥市も大きな被害を負っていた。


それから懸命な復興作業の甲斐あって3年でようやく街の体制を整えられる状態まで復興していた。


 

『宗ちゃん!起きてる?』一階から女性の声が聞こえる。


宗介はため息交じりに答えると部屋を出て一階へと降りて行った。




2



『かずネエ、その呼び方やめてくれないか?』


『なによ、いいじゃない』片口まで伸びている髪を後ろで束ねた状態で朝ごはんの支度をしている楠木和美(くすのきかずみ)は言い返した。


『もう24なんだよ、僕』宗介はどうやら“宗ちゃん”と呼ばれることに難色があるようだ。


『いい!あなたはいつまで経っても私の弟なの!呼び方ぐらいでガタガタ言わない!』和美は面倒見のいい楠木家の長女である。


『ボーとしてるなら愛美(まなみ)と清美(きよみ)起こしてきてよ!』


『まだ寝てるのかよーあの2人』


宗介はふぅーとまたため息をつきながら二階へと向かった。


『姉さんー!起きてよ』宗介はそれぞれの部屋をノックして回った。


『はーい・・』と扉が空き中から愛美が出てきたがその姿に宗介は思わず天井を見上げて声を上げた。


『ちょっとまなネエ!なんだよその姿!仮にも男の目の前でそのカッコはやめてくれよ』


愛美は下着姿のみの格好で部屋から出てきたのだ。


『別にイイじゃない、宗ちゃんなんだし』楠木愛美(くすのきまなみ)はショートカットの男まさりな三女である。


『よくないでしょ!それで"宗ちゃん”ってやめてくれない?』


『朝からうるさいわねーなに揉めてんのよ』もう1つの部屋から楠木清美(くすのききよみ)が出てきた。こちらはちゃんとパジャマ姿での登場だった。


『きよネエ見てよ下着姿はないでしょー』


『別にイイじゃない、宗ちゃんだったら』清美は黒髪のロングヘアーをなびかせて言い放った。


『だから"宗ちゃん”ってやめてくれない?』


一階から和美の声が飛んできた。


『ちょっと朝ごはんできたわよ!モタモタしてないで降りてきなさい!』

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