大阪トイBOX(掌編整理箱)

神無月ナナメ

第1話:奈良県生駒こだわりの酒

 それ以前、通い詰めていた居酒屋は、あべのベルタ地下街にある焼き鳥店だった。

 店の親父が夜逃げする前、ほとんど毎日のように通い知人もたくさんいたはずだ。


 ある日から店にシャッターが下りたまま、次はどこに通おうかと考えていた時期。


 当時、天王寺駅寄り昔から映画館と大型書店に通い詰めていたアポロビル西側に、新規開業したルシアスビル内を久しぶりに覗いたのは本当に偶然だったんだろうか。



 賑わう地下街、その目立つ角地にそれなりの焼鳥屋があり店名は鶏太郎。現在も、近鉄電車と提携している鶏料理チェーン店は上本町駅構内を含めて実店舗を沿線内に数多く構えていた。関西で老舗、近鉄百貨店地下食品エリアに販売店も構えている。


 ルシアス店は、開店直後に確かハッピーアワーが設定されて17時から19時までは生ビールと吟醸酒「山鶴」が、一杯あたり200円で提供されていたと記憶している。


 雇われ店長は、自分よりも一歳だけ年長の趣味が同じパチスロ打ち。意気投合した理由も大きいが、彼の妻が調理場を手伝っていて、その実姉にあたる女性利き酒師が小柄な外見、元気な笑顔が眩しい女性。信じられないぐらい、好みのタイプだった。


 自分より幾つか年長だったが若々しい外見、がいると到底感じられないし自分にとって素敵で綺麗な年長女性の趣味は、やはり同じパチンコだったと記憶している。



 実質的な意味で経営者は、こだわりの地酒「山鶴」銘柄を奈良生駒で製造販売する中本酒造店。一度だけだがお会いした、13代目の蔵元でもある中本彰彦氏だった。


 当時の誰一人として現在は交流をもたないが、女性利き酒師の次女がアルバイトで週に何度か勤務しながら、バトントワリングを専門で学生に教えていた先生だった。


 年齢的に娘よりも母に近い自分は、直接的意味で親子ともに口説きはしなかったが何度か食事に行ったり、一緒にパチンコを打って浅くない交友を続けた覚えもある。


 その後、ルシアスから徐々に客足が途絶えて鶏太郎も閉店することになり八尾西武百貨店が新規開店の折りに、新店舗で店長と利き酒師として移転することになった。


 近鉄電車は、南大阪線が天王寺から藤井寺方面、樫原神宮や吉野を繋ぐ路線であり西武百貨店の所在地、八尾は上本町を起点にする大阪線。天王寺からは、乗り換えが必須となり不便。時間と金銭面で遠方まで通えないので、やがては交流も途絶えた。


 一度、店長が草津店を任されたと耳にした記憶もあるが彼らの現状は定かでない。

 本当は、関係者誰かに問い合わせれば女性利き酒師の消息は簡単に分かるだろう。


 なぜ現在まで、干支で一周以上彼女を捜しだして連絡を取ろうとしなかったのか?


 最後に、彼女の噂を耳にした折だったか体調が思わしくないと耳にしたからで――よい現状なら知りたいが、逆だったらと考えて恐ろしさに二の足と踏んでしまい――


 その意識がある限り、自ら望んで彼女の消息が判明する場所に近づかないだろう。

 自分が知らなければ、知ろうとしなければ、彼女は現在も元気でいるだろうから。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る