第7話

麻里江は翌朝、自分の部屋のベッドで目を覚ました。

俊之は心配そうに麻里江の顔を覗き込んでいる。


麻里江は昨日の悪夢のような出来事が忘れられず、仰向けのまま寝ていても、天井の木目が大きく歪んで見えた。


「麻里江、大丈夫か?」


麻里江はそのまま起き上がろうとしたが、足元がフラフラしてそのまま倒れそうになった。


「ほら、無理しないで。まだ寝ていた方がいいよ」


俊之が体温計を麻里江の脇から取り出すと、三十七度五分と表示されていた。


窓の外を見ると、雨が激しく降っていた。


「ねえ、俊之、なんだか私この家にいるのが怖くなってきたわ・・・」


麻里江は、顔を捻って、俊之の方を眺めた。


俊之は眉間に皺を寄せて、考え込んでいるのか、目は一点を見つめたまま、俯いていた。


「僕も、はっきり言って、賛成だよ。麻里江の家族が何を企んでいるのか全く分からないんだ。電話線も携帯電話も解約してしまうなんて。一体、どうなっているんだか・・・」


「それより、伸さんよ。本当に殺されていたのかしら?私が昨晩、隣の別荘に麻衣子と行った時、遺体は何もなかったわ・・・」


「うん、麻里江が言うように俺も、麻衣子さんが幻覚を見たとは思えないんだ・・。昨日のあの仲良さそうな二人を見ていても、伸さんが急に蒸発するなんてこともないだろうしな」


その時だった。玄関のベルが鳴った。


――――誰が来たんだろう?


麻里江は、熱にうなされながら、玄関の会話の方に注意を向けた。


玄関に出たのは母穂らしかった。



「あの、警察の者ですが・・・」


「一体、どうしまして?」

母親は極めて冷静な声で対応していた。


「昨日、こちらのお宅の方から悲鳴が聞こえたって、近所の方から通報がありましてね。何か、心辺りはないかと伺いました」


警察の姿は見えなかったが、声の感じからして五十代くらいの警察官だった。


「さあ・・・・。わたくしたちの方では悲鳴は聞こえませんでしたけど、何かテレビの音量が大きかったから、そのせいもあったのかしら?」


「そうですか。一応、お家の中を拝見させて頂いてもよろしいでしょうか?」


麻里江は、警察官が来てくれたことに内心、不安と安堵が入り混じった。


ギシッ、ギシッと、階段を登って二階の方へ向かっている足音が聞こえた。

一つ、一つの部屋を開けたり、閉めたりしている音がする。


一通り、家の中を警察官が確認すると、


「何も異常はなかったようですね。じゃあ、失礼いたします」


麻里江は、大声をあげて叫びながら部屋から飛び出して、今にもその警察官に伸が消えたこと、もしくは殺された可能性があることを声高にして訴えたかった。


しかし、もう遅かった。その時にはパトカーがそのまま、家を去っていくサイレンの音が聞こえた。

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