異世界禁止令

NNTG

プロローグ

「二十一世紀。お前らももう知ってるんだろうが、日本で異世界を舞台にした物語が大ブームとなった。そう、いわゆる異世界小説ブームだ。誰も彼もが異世界小説を書き、漫画もアニメも異世界を舞台にする作品ばかりとなってしまった」


 担任のクロブチ――今時珍しい太枠の黒縁眼鏡がそのままあだ名になった――は黒板にチョークを走らせると、微塵も恐怖を感じられないモンスターと勇者の絵を描き始める。あの出来損ないの蛇に見える生き物は……ドラゴンだろうか。


「異世界小説ブームを重く見た日本政府は、平成の終了と共にある禁止令を発令した。おい、誰か分かるか? ここはテストにも出るぞ。おーい。誰も居ないか?」


 教室内を見回しても手を上げる者は一人とて居らず、クロブチはため息を吐いて再び黒板と向かい合う。話を聞いていない生徒にも聞こえるよう、腕を大きく広げてチョークを黒板に叩き付ける。カッ、とチョークの端が削れる音で何人かの生徒は正面を向き、黒板の上に踊る大きな白い文字を目にした。


「……異世界禁止令」


  生徒の一人が、そう……呟いた。

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