We want to be a Idols!
一之瀬安杏
第0話 We are the Idols !
スポットライトを浴びたステージはとても輝いていた。改めて俺はこんな舞台を見たら目指したくなるのも頷けると思った。俺は姉のコネで特別に準備中の武道館の客席に座っていた。
「初めて武道館に来たけど、ここまで大きかったんだな」
「びっくりした?」
隣に座っている幼馴染・
アイドルグループというと、同じ事務所に所属しているアイドル達が結成してアイドルユニットを組むことが多いのだが、彼女達は違う事務所同士でアイドルユニットを組んでいることから有名になったのだ。
「正直な。テレビだけの知識だから大きいんだろうとは思ってたけど、ここまでとは想像できなかったぞ」
「やっぱりそうだよね。初めてここに来た時はこんなところでできるんだって驚いてたもん」
そう話している瑠奈の目は、とても輝いていた。スポットライトのせいなのだろうか、それとも―――。
「でね、昨日ここに来た時に夏津ちゃんがね―――」
と、瑠奈が夏津の話をしようとすると、バタンと激しく扉が開く音が響く。音のした方へ顔を向けると、まさにいま話題に上がろうとしていた
「瑠奈ぁ、アンタって人はぁ!」
「ま、待ってよっ。私まだ何も言ってないよ!?」
「どうせ昨日の話をしようとしてたんでしょう?」
「ひいぃっ!夏津ちゃんが鬼の形相だぁ!」
「誰が鬼よっ!」
瑠奈は立ち上がって夏津の横を通り過ぎると、夏津が入ってきた扉から出て行ってしまった。その跡を夏津も追いかけに行ってしまった。
取り残された俺はその場で呆然とし、正面から準備をしていたスタッフ達から睨まれていたので、立ち上がって開けっ放しになっている扉から出ていく。痛い視線からも解放され、伸びをしようとするといきなり横からツンとつつかれた。
「あふっ」
思わず変な声が出てきてしまった。
「あはは、引っかかった」
「誰かと思ったら魔美か」
「久しぶり、誠司くん」
そこにいたのは、『Dreamers!』のリーダーである
「こうやって会うのはあの時以来だよね」
「そうだな。それから連絡もなかったもんな」
「そ、それは仕方ないよ。仕事もいっぱいあったから空いてる時間がないんだもんっ」
「知ってるよ。近状は姉さんから訊いてたし」
そう言って俺は携帯を取り出し、メール一覧を開く。そこには『近状』と書かれた姉からのメールがたくさん送られてきていた。
「お姉さんも変わった人だよね」
「人のメール見ていきなり何言ってんだよ」
「いや、アイドルを見た人って一度くらいならアイドルを夢見るような気がするけど、凛檎さんは一度もアイドル志望がなかったからそれに改めて驚いてるっていうか」
「あの人は自分がやるより人のやるものを見るのが好きな人だからな。文化祭の時だって、自分からはろくに働かないのに、文化祭当日を目一杯楽しむ人だったからな」
と、魔美と昔話で盛り上がっていると、いきなり頭を誰かに引っぱたかれた。廊下中にスパーンという気持ちのいい音が響いている。俺からすれば痛い音なのだが。後ろを振り向くと、バインダーを持った姉・
「だ、れ、が、ろくに働かないですって?」
「ね、姉さん、いつの間に……」
「だって、廊下で自分のアイドル達が騒いでいるんですもの。そりゃ、嫌でも廊下に出て捕まえにも行くわよ」
「ところで、他の二人はどこに行ったんですか?」
「即座にとっ捕まえて今は控え室で反省文を書かせているわ」
「学校の先生かよ……」
社会に出てもおかしくない年齢のやつに今更反省文なんて書かせるか?しかも、夏津の不服そうな顔も容易に想像できてしまう。確かに夏津は被害者側であるけども。
「そうだ。魔美に伝えることがあった。そろそろリハーサルしたいようだから準備をしておけとスタッフに言われたよ」
「わかりました。では、二人にも伝えておきますね。じゃあまた後でね、誠司くん」
「ああ、リハの様子もしっかり見ておくからな」
そう返事をすると、魔美は俺に手を振りながら控え室へと向かった。その背中を見送ってから俺は隣にいる姉の凛檎に話しかける。
「これが姉さんの目指してたマネージャーの仕事?」
「どうだろうね。あたしはまだまだマネージャーの卵みたいなものだしね」
「その割には結構重要なアイドルグループのマネージャーを任せてもらえてるよな」
「それだって部活からの延長線上みたいなものよ。それにあたしがマネージャーにならなかったら『Dreamers!』は生まれなかったしね」
「姉さんが先に就職していたことも良かったと思うけどね」
「それもそうかな」
苦笑する姉。それに関しては本当に良かったと思っている。もし姉がマネージャーになっていなければ、彼女達はアイドルになれても一緒の事務所に所属していないので、三人一緒に活動していくことが難しかっただろう。
「さて、あたしもそろそろ行こうかな。あの子達を送り出す義務があるわけだし」
「そうか。それじゃあ俺は席に座って大人しくリハの様子を見てるよ」
「いや、アンタもこっちに来るの。舞台裏から見ていきなって」
「それだと迷惑だろ。ただでさえ、関係者じゃない俺がいるわけだし……」
「口外しなければ大丈夫だってば。話はあたしが付けておくから」
「まあそれでOKしてもらえればそれでいいけど」
「じゃあ決定ね。今から話付けに行ってくるから、その間にあの子達を送り出して来てくれない?」
「話が違ってんじゃねーか!俺に任せるってどういうことだよ!」
「まあまあ。あの子達だってアンタに会いたがってたんだからいい機会じゃない。少しは同級生の元部員同士で水入らずな時間を楽しみなって」
そう言い残して姉は去っていった。もちろん、魔美が向かっていった方向とは反対に。残された俺は仕方なく彼女達がいる控え室に向かう。廊下はスタッフ達が慌ただしく行き来している。そのスタッフ達に挨拶をしていきながら目的地の控え室に到着。扉に貼られている紙にも『Dreamers!様控え室』とかかれている。
今までの経験を踏まえて扉をノックする。いきなり入るとロクなことがないためだ。
「俺だ。誠司だ。中に入っても大丈夫か?」
声をかけてみる。しかし、部屋の中から返事がしない。魔美が向かったのだから不在というわけではないのだろうが。
「おーい!誰もいないのか?いるなら返事をしてくれ!」
もう一度声をかけてみると、奥から誰かが扉に向かってくる音がする。ゆっくりと扉が開いてその隙間から夏津の顔が出てきた。
「はぁ。いるんだったら返事くらいしろよ」
「仕方ないだろっ。衣装合わせしてたんだっ!それに凛檎さんはどうしたんだ」
顔を真っ赤にしながら俺と会話をする夏津。やはり一度返事がないだけで入って行かないでよかった。過去の経験が生かされる形になった。もし入っていたら、確実に夏津からパンチをもらっていたところだろう。
「姉さんなら俺が舞台裏から見れるように許可を取りに行ってる」
「お前もついにアイドル好きの変態にジョブチェンジするのか?」
「する訳無いだろ!と言うか、アイドルをしてるやつがアイドルオタクを変態扱いするなよ!」
「それもそうだな。もう少しで衣装合わせも終わるから廊下でちょっと待っててくれ」
「了解」
俺の了承を訊くと、夏津は顔を引っ込める。俺は邪魔にならないところに立って待つ事にする。
時間が経つにつれて、スタッフ達の動きにさらに慌しさが増していく。まだリハーサル段階だというのにここまで動きが激しくなるものなんだと思う。当日になったらこの動きがもっと激しくなるんだと考えると、テレビを見る目が変わってしまうな。
しばらくして控え室から女性の人が出てくる。俺のことを確認すると、俺に一礼してその場から去る。多分衣装スタッフの人なのだろう。それから時間が経たないうちに扉が開いて今度は魔美が出てくる。
「お待たせ。入っても大丈夫だよ」
「お、おう」
魔美に促されて控え室に入っていく。妙な緊張感が俺を襲って来る。初めて女の子の部屋に入る感覚に似ている気がする。そりゃ今大人気のアイドルグループの控え室に一般人の俺が入るのだ。緊張だってするに決まっている。
控え室に入ると、テレビでもよく見るザ・控え室と感じる内装をしている。真っ白な壁に覆われ、扉の右側には鏡と化粧品などが置かれている机、椅子が置かれている。その奥には人一人分の衣装室があり、その近くにハンガーに掛けられた衣装がある。部屋の中央には小さな机に彼女達の私物が置かれている。
「あんまり部屋を物色するな。一時的とは言え、結構恥ずかしんだ……」
「あ、ああ。すまん」
恥ずかしそうにしている夏津にやんわりと怒られた。こいつがこんな風にしおらしくしている姿を見ると、こっちの調子も狂う。強気でいるのがこいつの元々の性格であり、また世間ではクールキャラとして通している。こいつのおかげで女性人気もあるのだが、素性はただの女の子。キャラ作りというのも大変だ。
すると、後ろから扉が開かれ、男性スタッフの人が顔を覗かせてくる。
「10分後にリハーサルを始めます!準備お願いします!」
「「「わかりましたっ!」」」
元気よく返事をする彼女達。そろそろリハーサルを行うようだ。男性スタッフが出ていくのを確認すると、俺は彼女達の方を向く。彼女達の目もさっきまでとは違い、真剣そのものだ。
「それじゃあ行こうか。姉さんもいるだろうし」
「何で誠司くんが仕切ってるのかな?」
魔美の一言で小さな笑いが起こる。確かに俺が仕切るのはおかしいか。まあ送り出すってこと自体をやったことがないし、そもそも姉から無理やり任されたものだ。そんな重要なことをなんで俺に任せたのだろう。
「さて、本当に行かないと時間が無くなっちゃうぞ」
「本当だっ!魔美ちゃん行こうっ」
「あ、うん!それじゃあ行ってくるね」
「ああ、しっかりと見てるからな」
控え室から三人が出ていく。その場で残っているわけにもいかず、俺も控え室を出る。すると、扉の横で壁に寄りかかっている姉の姿があった。姉はクスリと笑った後、俺の頭に手を置いて撫でてきた。
「な、何すんだよ……」
「いや、自分の弟が成長してるんだなって改めて実感したの」
「意味わかんねーし」
自分の顔が熱くなるのを感じた。それもそうだろう。この歳になって姉から頭を撫でられるとか恥ずかしい以外に感情はない。俺は乱暴に姉の手を退ける。
「許可はどうなったんだよ」
「許可なら取れたよ。行こうか。三人はもう行ったみたいだからな」
「ああ」
姉の後を追っていく。マネージャーとしての姉の姿は、とても凛々しく思えた。昔は行き過ぎたアイドルオタクとしか見ていなかったが、今はそんな面影もなく、マネージャーとしての責任をしっかりと果たしていた。
それに対して俺は彼女のようにしっかりとした大人になれているだろうか。今もその答えは出ていない。じゃあ過去を振り返って俺が変わったかどうか確かめるだけだ。
舞台裏に行くと、三人が円陣を組んで何かを話している。掛け声をするのだろう。彼女達もまた、昔のようなすれ違っていた時からすっかり変わっている。仕事のある日も、オフの日も常に三人でいて、今も三人で一つのマンションで生活しているらしい。こんなに仲良くなるとは昔なら思えなかった。
「いくよ!We are the―――」
それは遡ること、高校時代になる。その時のことを思い返そう。
「「「Idols!」」」
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