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□■□■



「その処刑、待ったぁ!」


 今にも振り下ろされそうだった刃をなんとか宙に押し止め、麻布を被っていた騎士達を解放した。

 パタリパタリと一人でに落ちる縄と、黒のローブのすそをはためかせながら歩いてくる私に、その場にいた皆が交互に目を向けた。


「国王陛下より温情たまわった。よってこの処刑、行うことのなきように」


 魔法で声を拡張し、その場にいた全員に話が通るようにした。


 騎士達は粛々しゅくしゅくと頭を下げ続けている。命の危機にさらされてわめいてもよさそうなものを、誰一人醜態をさらすようなことはない。

 こんなできた男達を失うのはしい。きっと人格者になったんだろう。あの腹黒い神官長の元にいたのだから。

 無意識に一番近くにいた騎士の頭を撫でていた。


「あ、あの。魔術師様?」

「……あ、ごめん。ついクセで」


 ジュシュアが良いことをした時は頭を撫でてやってるから、つい手が。

 しかも、彼が膝立ちしてるもんだから、丁度このくらいの高さだし。


 にしても君、髪の毛サラサラで気持ちいいね。


「これは一体どういうことだ?」


 豚、もといこの国の公爵である豚、訂正、男がこめかみに青筋を立てていきりたっている。


 どうどう。それ以上怒ると血管切れるぞ? パーンだパーン。憤慨ふんがい死なんて聞いたことないけど。


「どういうことも何も……国王陛下からのめい。それだけだよ」

「貴様……口の聞き方に気を付けろ」

「あぁ、ごめん。それでは……前国王陛下の兄であり、長子であったにも関わらず、王太子に奉じられることもなく、弟に国王の地位を奪われ、その子供である現国王陛下に取り入りながらも、巫女姫を使い国民の税金をむさぼる公爵閣下。これは国王陛下よりのご温情。私めが先ほどお伝えした言葉、お聞きなさいませんでしたか?」

「……貴様」

「あぁ、あと知ってます? 貴様という言葉は昔、目上の人に使っていたそうですよ」

「……」


 公爵の顔はこの数秒の間のうちに真っ赤になった。


 私は事実と豆知識しか喋ってないよ? 怒るなんておかしいよね。


「……覚えていろ。巫女姫様、参りましょう」


 出た! 三大悪役台詞!

 これが一番多いんだよねぇ。ドラマとかアニメとか漫画とか。


 きびすを返し去っていく公爵の後を追いかけ、ゆりあが振り返った。


「ごめんなさい。ゆりあのために喧嘩しないで」


 そしてそのまま足早に公爵の後を追っていった。


 ……改心したのかと思ったら違ったよ。

 謝る相手も目的も違うよね? しかも、喧嘩ですむようなレベルじゃないよね?


「……誰か電動ドリル貸してくれる? あいつの頭、お花畑から改造して使えるようにしてくっから」

「ま、魔術師様っ!」

「死にます! そんなことしたら、改造前に死にますから!」

「あの馬鹿さは一回死なないと治らないと思うんだよね。だからちょっと慈善活動行ってくるわ」

「サーヤさぁん! 今度うちの商品サービスしますから!」

「……あ、おばさんとこの」


 確か名前は……ヨハネだったか。


「いやぁ、無事で良かったよ。で、ほら」

「はい?」

「電動ドリル」

「まだ言うんですか! ……しかも、電動どりる?って何ですか!?」


 あ、知らない? まぁ、そっか。ここ電気ないもんね。魔法であらかた動くから。でも、それならよく話繋がったね。


 羽交い締めにして止めてきた騎士達を見ると


「表情と言葉の内容で……」

「だいたいのことは想像つきます」

「「「慣れてますから」」」


 ……おぅ。誰で慣れてるかは聞かないでおいた方が懸命だな。

 でも分かるよ。君達、苦労してるんだね。


 抵抗するのをやめ、そっと一人一人の肩をポンっと叩いて回った。騎士達も何を感じたのか、フッと遠い目をしている。

 何だろう。このあっちゃならないだろう連帯感。


「魔術師様、この度は本当にありがとうございました」


 騎士達の中で一番偉いんだろう青年が最上礼をとる。すると、騎士達皆、今までと顔つきががらりと変わり、青年の後ろに続いた。


「この御恩は忘れません。何かありました時はこの命、国と陛下、王太子殿下、神官長様の次に魔術師様に捧げます」

「えぇーっとぉ。とりあえず、その魔術師様っていうのやめてくんない? 他にもいるわけだし」

「分かりました。ではサーヤ様と」

「あ、様もいらないわ。だって国に使われる身は同じだし。むしろ私の方が平民扱いだし。皆ほとんどいいとこのお坊っちゃんでしょう?」

「神殿騎士となる際に家名は捨てておりますので」


 そ、そうですか。なかなかストイックですね。


「あー、とりあえず様付けはなしで。あと敬語も。皆に対してそうじゃないなら、する意味ないから」

「分かりま……分かった」

「皆も」


 一番偉い彼が頷いたのだから他から否が出るはずもなく。皆それを了承してくれた。


 だってさ、敬語だとシーヴァの慇懃いんぎんさを思い出して嫌になるんだよ。それがただ言葉通りなだけの人格だったなら大層いい人ですむんだけど……彼の場合は……ねぇ?

 それなら初めから敬語抜きで話してくれた方がありがたい。


 ……あ。


「あと一つ、お願いしてもいいかな?」

「は……あぁ。何だ?」

「後ろにいる二人をどうにかしてくれる?」


 騎士達が後ろを振り向くと、全員の動きが固まった。


「ねぇ、あの豚に喧嘩売った?」

「よくもまぁ、あなたは次から次へと……」


 ユアンとシーヴァが連れだってこちらに歩いてきた。


 シーヴァ……仕事しなくていいの? ユアンも神様に礼拝とか、あるでしょ?


「でもまぁ、いい口実ができたよね」

「えぇ。向こうも色々と仕掛けて下さるんですから、こちらもお返しして差し上げなければ無礼というものでしょう?」


 あ、あれ? 私は……怒られて、ないんだよね? 怒りの矛先はあっちなんだよね?


「……」


 あ、ジョシュア待たせてるやー。早く帰らなきゃねー。ヨハネのこともおばさんに伝えなきゃいけないしー。


「あ、リヒャルト。後で陛下に謁見えっけんして感謝申し上げるんだよ」

「はい」


 神殿騎士のトップの彼の名前はリヒャルトというらしい。真面目そうな君によく合ってると思う。


 だから……後は任せた!


「「……あ」」


 逃げた、という声が聞こえた。


 逃げたんじゃない。ジョシュアのお迎えの時間なんだ!

 それを言いに戻るほど彼らの暗黒オーラは可愛らしくなかった。



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