モブの俺が姫に告白された最後のきっかけ
カユウ
第1話
美少女ゲーム「ヒーロー・ストーリー」。
日本でファンタジーと言われると想像されやすい中世ヨーロッパ風で剣と魔法の世界観。
十字に並んだ5つの島を巡り、名声と美女を得ていく、というゲームだ。
作り込まれた美麗なグラフィック。
戦闘パートは数多の敵をなぎ倒す爽快感。
行動パートは戦闘の結果で、それぞれの島にいる多種多様な美女美少女の好感度が上がる。
好感度によって美女美少女の反応が変わる。
それが様々な男のツボを押さえていると口コミが広がり、爆発的な売れ行きを記録した。
テレビアニメ化、家庭用ゲーム化とマルチメディア展開をし、テレビアニメのヒットを受けて映画化までした作品だ。
テレビアニメはオリジナルストーリーで、主人公である英雄が行く先々でヒーロー行為をして問題を解決していく、という形になっていたが。
何故こんな説明をしているかと言うと、その「ヒーロー・ストーリー」の世界に転生してしまったからだ。
それもゲーム序盤、戦闘パートと行動パートのチュートリアルで登場する最初のヒロインである、アレクサンドラ・ファースレット姫付きの近衛兵イーサンとして。
ゲームにイーサンなんて名前のキャラが出てきた記憶がないが、護衛対象がどこをどう見てもアレクサンドラ・ファースレット姫なのだ。
ゲームの世界、もしくは類似する世界なのは間違いはないだろう。
近衛兵としての仕事の傍ら、買い出しに行った先の商店や街中での雑談から、ゲームの序盤と酷似した状況となってきていることは確認できた。
そしてゲームの主人公であった英雄、ギル・ヒロイックが存在していることも。
どうやらこのファースレット王国がある一の島に向かってきているらしいということもわかっている。
「姫様、そろそろ動きますよ」
馬車の窓から見える姫に声をかける。
都市からの出立の際には都市を管理する伯爵が見送りに現れ、市民が王族を一目見ようと総出で詰めかける。
沿道には都市守備隊が等間隔に立ち、往来に飛び出してこないよう注意されてはいるが、万が一に備えることも近衛兵の役割である。
詰めかけた一般人に対し、仏頂面の姫を見せるわけにもいかないので声をかけてはみたという次第。
「はぁ……」
不満げな表情で溜息をつく姫。
普段であれば王が行う主要都市への視察だが、王の体調不良のため、今回だけは第一継承権を持つウィルフレッド王子と、その異母妹であるアレクサンドラ姫が分担して行うことになった。
今日はアレクサンドラ姫が担当する主要都市への視察が終わり、王都へと向かう日。
「これで楽しかった視察も終わってしまうのね」
「王都まではあと三日ほどかかりますので、まだ終わっておりませんよ」
護衛する側としては、ようやく終わりが見えてきたところ。
まだまだ気を抜けないのに変わりはないので、ついつい小言のような言葉を返してしまう。
「そんなことくらいわかっているわ。王都での勉強漬けの毎日と比べちゃうと都市を視察してるほうが楽しいんだもの」
「勉強漬けになるのは我慢してくださいませ。さ、出立しますよ」
戻ってからを考えて不満を感じている姫に苦笑を返すと、馬に騎乗して姫の乗る8頭立ての馬車を先導する。
これまでの都市と同様に、沿道に控えた都市守備隊と詰めかける市民たち。
市民の歓声の中心となる馬車の窓からは微笑を浮かべて手を振る姫の姿が。
そろそろ姫も16歳になる。
公の場に立つ経験としては、この視察は良いものだっただろう。
取り止めもないことを考えながら、他の護衛兵とともに馬車の周囲を囲み、王都への道を進んでいく。
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