第27話潜入!ロリータコルセティア7


ローシャネリアから西南に離れた場所。


そこには、以前使われていた小城の廃墟があった。

廃墟となってからの期間が長いことを思わせるように

建物は半壊状態、

天井は崩れ、壁は至る所で朽ちひび割れ、苔や植物が生い茂っている。


その中に、数人のプレイヤーの気配があった。


外は夜、怪しげな廃墟の中を月と星のあかりがほのかに照らし出していた。




「こないだはマジで参りましたよ。

 ギルマスからウララさんに言っといてもらえませんかね。


 姐さんの店に、つぶしの仕事で行かされたんすから」


話し出したのは戦士風の男。歳は二十歳前後。


「おやおや、それは不幸な出来事でした。


 しかし、意見があるならば、直接彼女に言えばいい。

 我々に上下関係はありません。それは以前から言っている通りです」


廃墟の奥の闇に腰を掛け佇んでいるのは、

全身をマントで覆い、フードを被り顔には仮面。

ひと際怪しげなオーラを放っている人物だ。


「…とは言ってもなあ、

 一応ここでもだいぶ先輩ですし、腕もまだ俺たちじゃ全然叶わないし」


「そうですよ。怒らせたら何されるか、わかったもんじゃない」


意見に同意したのは魔術師風のローブの男、おかっぱの髪型に眼鏡をかけている。


「ケケケケケケ、あんなコスプレ女にビビってるようじゃあ、

 テメェらもまだまだケツの青いガキだってことだよ」


現れたのは銀髪の逆立てた髪、サングラス、ピアスやタトゥーなども目立つ

派手な風貌の男。手にはバタフライナイフを持っている。


「コスプレじゃなくてゴスロリよキセ。何度言えばわかるのかしら?」


廃墟に新しく二人のプレイヤーが入ってくる。

声を出したのは、その内の一人。

黒を基調としたゴスロリ服に身を包んでいる。


「噂をすれば。こんばんはウララさん」


「どうもギルマス。あら、今日はそっちの格好なのね。


 それよりギィッシュ、エト、聞いてたわよ。

 私がいつ、ひどい目に合わせるようなことをしたかしら?」


「あ、いやウララさん、もちろんそんな事はないっすけど…」


戦士風の男、ギィッシュはたじたじだ。


「この前の件はちょっとした確認不足でね。

 でもいいじゃない、結果的に報酬は入ったんだから」


「……まあ、それは」


「それよりウララさん、一緒にいるその人は誰ですか?

 見たところギルメンじゃないようだけど」


ローブの少年、エトが尋ねる。


「あーこの子ね。この子はプラチナといって私の知り合い。

 今日から新しくメンバー入りする子だから」


その言葉にプラチナがウララの元へ駆け寄り、小声で話す。


「…ちょ!ちょっとウララさん!?

 ボク、ギルドに入るなんて一言も……!!」


「あらそうだったかしら?ま、同じことよ」


「新メンバー?」


ギィッシュがプラチナに近付き、訝しげに見つめる。


「新メンバーねえ……。あれ?アンタ、どっかで会った事ないか?」


「い、いや、ない……かな…」

(こ、この人…!こないだお店に来た人!?怖っっっ!!)


プラチナの目は泳いでいる。


「なあエト、こいつ会ったよなあ、いつだったか…」


「え?そう?僕は覚えがないけど」


「あ?そうか、俺の勘違いか。

 しかしコイツ、覇気がないっつうか、なんつうか。


 うちらの仲間になるようなタイプすか?」


「あら、私の見立てに文句あるの?」


ウララが言う。


「いや、そうじゃないっすけど…」


「あー?仲間だあ?俺らいつから仲間になったんだよ?」


キセがナイフをカチャカチャと弄りながら近づいて来る。


(……!!!なんかすごいヤバそうな人来たーっ!!)


プラチナに汗がにじむ。


キセはプラチナの目の前まで来ると、プラチナの顔にナイフを当てた。


「ひゃあ…!?」


「俺らはただ、たまたま集まっているだけだ。仲間じゃねえ。


 だから別に誰が入ろうがそんな事はどうだっていい。

 そのかわり、

 気に食わなければ、ギルメンだろうが関係なくヤっちゃうからよろしく」


「はははは、はひぃ……ききき、気を付けますぅ……」


プラチナの表情は引きつっている。すでに半泣き状態だ。


「ちょっとアナタ、この子をあまり脅かさないでくれる?」


「ヒーーッヒッヒッヒッヒ」


キセは笑いながら離れていった。

仮面の男が話し始める。


「彼の言うとおり、我々のギルドは入るものは一切拒まず。

 上下関係もない、皆が自由にやるただそれだけの場です。


 新入りの方も、どうぞ自由に自分のやりたい事をやればいい」


(か、帰りたい……)


「そういえば先ほども話に上がりましたが、

 最近ノリコさんの姿を見かけませんね」


「そう、最近私もあまり会わなくなったわ。

 ガラにもなくショップ経営なんかにハマっちゃったみたい。


 以来、こういう場にもめっきり姿を見せなくなったわ」


(ノリコ…?ショップ?………いや、ま、まさかね………?)


プラチナはその会話を少し下がって聞いている。


「僕らも驚きましたよ」


エトに続いてギィッシュも話し出す。


「ノリコの姐さん、ウララさんとも会ってなかったんすか。

 前はあれだけ仲良かったのに」


仮面の男も話す。


「そうですね。常に二人でいましたし、さらに

 うちのギルドでも1、2を争うほど手のつけられない二人組でした」


「もうだいぶ過去の話よ。


 でも懐かしいわね。

 その頃はノリコと一緒に各地のギルドを潰して回ったものだわ」


(……潰ッッ!?!?ヒィイイイー!!!)


「……あの頃の二人のメチャクチャさ加減を知ってるとなあ……。

 逆らう気が起きねんだよなぁ……」


「ギィッシュ、何か言った?」


「…いえ……」


「ウララさん、

 たまにはノリコさんにもギルドに顔を出すよう、言っておいてください。

 あまり来ないようであれば……

 この私が直接呼び戻しに行かなければならないことになる…」


「…………。伝えておくわ。


 そういえばギルマスもローシャネリアへ行ってきたんでしょう?」


「ええ、行ってきましたよ」


「っーーたく、

 ギルマスの気まぐれに付き合わされる身にもなってくれえ。

 わざわざあんなけったクソ悪ィ都市までついて行かされてよお

 あーーークソダリィ」


キセが壁にもたれ、かったるそうに話す。


「せっかくあちらの姿でも参加権を得たのです。

 それに、一度彼らの顔も直に見ておくのも悪くないと思いましてね。


 それにキセ君、君の妹さんもローシャネリアにいるらしいじゃないですか。

 折角だから会ってきたんでしょう?」


「ッ…!!ギルマス!!」


その発言に他のメンバーたちは興味を示す。


「あれキセさんって妹さんいたんっすね。俺初耳」


「しかもローシャネリアにねえ、フフフ。面白い事聞いたわ」


「おや、これは言わない方がよかったかな?」


「チッ………もうおせえっすよギルマス……」


エトは一人考える。


 (ローシャネリア……。この前店にいた…。

 木瀬 理絵子さんってもしかしてキセさんの?……………。


 いや、さすがにそれはないか…………)



「それでギルマス、"あそこ"に行ってみた感想は?」


ウララが仮面の人物に改めて尋ねる。


「…そうですね。もっと陳腐で不毛な場を予想していましたが

 意外に、面白い話を聞く事ができました」


「面白い話?」


「ええ。例えば、"竜の女"についてとかね」


「"竜の女"。ふうーん、私も気にはなっていたけど」


 (竜の女……?なんか怖そう…。

 駄目だ…、専門用語が多くて話についていけない……)


プラチナは一人、混乱している。


「あ、そうそう、そういえばエト君。キミの映像も見ましたよ。

 あなた方が、クラインノクスにコテンパンにやられる映像をね」


仮面の人物がエトのもとへと近寄ると、エトの表情がこわばる。


「いや…あれは……」


「ただでさえ悪い評判しかない我々。

 その品格さらに下げるような事をしてくれましたね。

 ……入りたての兵隊を勝手に使って」


「…………すみません………」


仮面の人物はエトにさらに近付く。


「……………………」


「…………クククク…!!クククク…

 ハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハ…!!!」


仮面の人物は両手を広げて高らかに笑い出した。


 (ええーーー!?

 ちょっと何この仮面の人!?なんか急に笑い出した!?

 絶対やばいよぉこの人ォォ……!!)


「……ああ!実に愉快だ、素晴らしい!


 私はねえ、エト君。ウラオモテのあるものに目がない。

 表の面、裏の面、そこに差異があるほど、私は興味をそそられる!!


 君のあの狂気に満ちた表情、そして言動、豹変ぶり!

 実に素晴らしいものだった。

 私は誰よりも、キミを高く買っている。


 ……これからも期待していますよ」


そう言って仮面の人物はエトの肩をぽんと叩いた。


「…………は、はい……」


その様子を眺めるウララ。


 (相変わらず、ギルマスの趣味は独特ね……)


「それでギルマス、私が今日この場に来た目的、あの件だけど」


「おっと、これは失礼。そうでしたね」


「そろそろ、あっちのギルドでも

 本格的にギルド戦に取り組むという事なんでしょう?」


「まあ所詮は仮初めのギルド。ちょっとした遊び心ですよ。

 今標的としているのは、えーと…なんといいましたか……」


「ロリータコルセティア、だったわよね」


「ああ、それですそれ」


「私はそこに、適当に探りを入れてくればいいのよね」


「しかし、あなたがこのお願いを承諾したのは意外でした。

 あなたの性格ならは、そのようなことは面倒と断ると思っていましたが」


「私もただの気まぐれ、遊び心よ。

 それに、服の趣味は良いギルドね。ちょっと前から興味もあったから。


 プラチナさんと一緒に、軽く潜り込んでくるわ」


「ウララさん、俺達も何かできることありますか?」


ギィッシュが訪ねる。


「いらないわ。そこまで大々的にやるつもりはないし。

 ちょっと見てくるだけだから」


「……ではお願いしましょう」


そういうと仮面の人物は、廃墟の出口へと向かい歩き出す。

ウララとプラチナ以外の他メンバーもそれに続いた。


「ギルマスはこれからどちらへ?」


ウララが尋ねる。


「用事も終わりました。

 これからニューディライトへと帰る予定です。ここにいる皆さんを連れてね」


「じゃあ私も、セントティアラでの用事が済んだらホームに向かおうかしら」


「分かりました。待っていますよ。では皆さん、行きましょう」


仮面の人物は歩き出すが、出口に差し掛かると再度歩を止め、話し出した。


「あーそうそう、言い忘れていました」


「……何かしら?」


「ロリータコルセティアの件、ダランフィスのほうでも動くと言っていました。

 一応、伝えておきます」


「………………。あの外道男…。今度は何をしでかすつもりかしら?


 言っておくけど、私は私のやり方でしかやらないから」


「ええ、勿論。

 我々に協力する義務はありません。ご自由にやってください」


そう言うと、仮面の人物と他のメンバーは

プラチナとウララを残し、廃墟を出て行った。



「聞いてたでしょプラチナさん。

 そういう事だから、これからセントティアラに向かうわよ」


「………。う、うん……………」


 (ううう、帰りたい…。どうしてこんなことに……)



プラチナは過去を思い返した。話はさらに数日前にさかのぼる。

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