第26話潜入!ロリータコルセティア6


ガキィイイイイイン…!!!


二本の剣が宙を舞う。


全ては一瞬の出来事だった。

周囲にいる者はみな、その光景を前に驚愕の表情。


ギルド入り希望者とギルメンによる二対二の決闘が始まってもの数秒、

その勝敗はいともたやすく決してしまった。


「……………!!!」


「……………!!!」


お互いの武器同士が交差するや、

ギルメン二人の持っていた剣は弾かれ、その手を離れた。


やや離れた地面に、二本の剣が突き刺さった。



「クッ…!?そんな…!!」


「………私たちの…負けです……」


ギルメン、カーラとエミリは片膝をつき、無念の表情。


「……おそまつさま」


「…ふぅ~………緊張した…」


ギルド入り希望者、黒ゴスの少女と白ゴスの少女は、

共に武器をアイテムボックスへとしまう。



キルシュはその光景に目を丸くする。


「…え!?一体何が起きたんですか!?

 ……負けた!?カーラさんとエミリさんが!?嘘!!」


「…………驚きましたわね。白い方、黒い方、それぞれが、

 たった一撃で剣を弾いてしまいましたわ」


レィルも驚きの表情で二人を見つめる。


 (マジか……。

 今の動きのキレ…前線の狩場でもなかなかお目にかかれないレベルだ。


 見たところ、ギルメンの二人もそれなりに手慣れた雰囲気はあったが

 それを一瞬で片付けちまうとは。こいつら相当な手練れ……)


黒いゴスロリの少女がザッハトルテの元へと近付く。


「……どうかしら?

 まだ不足というなら、いくらでも相手してあげるけど?」


「…………。

 その必要はなくてよ。容姿もさることながら、

 腕前の方にも感服致しましたわ。


 ようこそ、ロリータコルセティアへ」


「……どうぞよろしく。名乗るのが遅くなったわね。

 私の名前はウララ。そしてこの子がプラチナよ」


「…よ、よろしく」


その様子を見た周囲のギルメンたちが二人の元へと集まる。


「ようこそ!」


「あなたたちのような強い人なら大歓迎です!」


「今度、ぜひ剣を教えてください!」


その中、キルシュはザッハトルテに駆け寄り小声で話す。


「…いいんですか?ギルマス。

 素性もよく調べないで入れてしまって…。


 確かにあの二人は強いですが…。というより、不自然に強すぎます」


「相変わらず心配性ですのね、キルシュさんは。

 このギルドへの加入条件は、わたくしの眼鏡にかなう事のみ。


 もし何か問題が起こるのであれば、

 起きた時に対処すればよろしいのではなくて?」


「はぁ~、ギルマスはいつもそうだから……。

 結局その対処をさせられるのは誰なんですか…」


「……面白いのが入ったな」


近くにいたレィルが呟く。それにつられるようにリブルも呟く。


「さすがっすね…」


「さすが?お前、あの二人知ってるのか?」


「あ、いや、そうじゃないっすけど、

 さすが、乗りこんでくるだけの事はあるなと思ったんす」



「キャア!!!」


ガシャアアン…!!!


「…………!!!」


その時、突然辺りに悲鳴と何かが割れるような音が轟いた。


「…………なに!?今の音!?どうしたの!」


キルシュが音のした方に駆け寄る。

そこには一人のギルドメンバーが尻もちをついていた。

場にいる皆の視線はそこへ集中している。


「大丈夫ですか!?」


「すみません…。急にその猫が…テーブルの上に」


「……猫?」


尻もちをついたギルメンが指さす方を見れば、テーブルの上に黒猫が一匹。

何かが割れる音は、その猫がテーブルに飛び乗る際に

上にあった食器やグラスが落ちて割れる音だった。


「…あ!さっきの黒猫!

 イタズラが過ぎるっすねえ」


リブルが猫を指さす。


「イタズラ…?なんかそういう雰囲気でもない気がするが…」


レィルは眉間にしわを寄せ猫を見つめる。

猫はテーブルに乗り、こちら側を向き微動だにしない。


「ちょっと、なんですかこの猫。お皿割っちゃって…。

 追い払わないと…」


そう言ってキルシュが猫に近寄ろうとしたとき、

猫の目が赤く光った。


「………!?」


『ごきげんよう、うら若き乙女たちよ』


「な!?え!?………!?」


その声は確かに猫から発せられていた。


「ねねねね猫が喋った!?」


キルシュは驚きのあまり腰を抜かす。


周囲のギルメンたちも皆、驚愕の表情。

お茶会の雰囲気はさらに一変した。


『驚かせてしまって申し訳ない。この場で諸君らに危害を加える気はない。

 それをまず言っておこう』


そのテーブルからギルメンたちが遠ざかる中、

一人、前へ出る。ザッハトルテだ。


「これはお喋りな黒猫さんですわね。今日はどのようなご用件で?」


『…ほう。このような状況でも動じないとは、

 さすがはSSランクのギルマスというところか。


 用件の前にまず、名乗らせてもらおう。我々の名はヴォイゲルグ教団。

 全能なる神、ヴォイゲルグに仕えし聖徒たちの社』


「ヴォイゲルグ教団?」


『全知全能の神、ヴォイゲルグ。その素晴らしさと尊き信仰を

 このTSO全土に広めるのが我々の使命』


「………………」


周囲は皆息をのみ、その様子に括目する。


『その使命を遂行するがためにも、

 我々はさらなる高みへと昇らねばならない。


 そして、その生贄となるは………諸君らうら若き乙女に他ならない』


「い、生贄…?何を言っているんですか一体……!?」


キルシュは依然腰を抜かしている。


「い、生贄?」


「なんか…怖いですね…」


生贄という言葉に周囲のギルメンたちはざわつき始める。


『クククククククク…。

 少々誤解を招く言い方であったか。趣向とは言え謝罪をしよう。


 正規のルートで申し込んでも良かったのだが、

 それでは少々、つまらない。

 これでも我々なりに趣向を凝らした結果なのだ。


 我々ヴォイゲルグ教団は

 諸君らロリータコルセティアに、ギルド戦を申し込む。


 今日はその挨拶というわけだ。

 どうかな?我々の趣向、楽しんで頂けたかな?』


「ギルド戦!?……楽しんで…って、何を勝手な事を言ってるんですか!

 お茶会の最中だっていうのに!!」


キルシュが声をあげる。


『…だからこそだ。

 リアルタイムで映像が配信されているからこそ意味がある。


 我々のこの申し入れは今、多くのプレイヤーが知るところとなった。


 つまり、この申し入れをむげにした場合、彼らはこう思うだろう。

 戦わずして逃げた、負け犬だとね』


「申し入れを断れないように、予防線というわけでして?

 それも、あなた方の神からのお告げなのかしら?」


『クククククククク…。

 残念ながら、安い挑発には乗らない。


 安心したまえ、方式は公式型ギルド戦。我々に偏ったルールはない。


 さあ、今ここで答えを聞かせてもらおうか?

 ロリータコルセティアのギルマス、ザッハトルテよ』


「………………」


やっと立ち上がったキルシュがザッハトルテに駆け寄る。


「ギルマス!今すぐ返事をする必要は…!」


「わかりましたわ」


「ちょ、ちょっとギルマス!!」


「少々荒いところはありますが、

 このような趣向、わたくし、嫌いでなくてよ。

 そのお申し入れ、受けさせて頂きますわ」


『クククククククク…。


 ここに契約は誓われた。

 諸君らうら若き乙女の血を我々が肉と成すその契約が。


 では諸君ら、詳しい日時などは追って運営から連絡があるだろう。

 実際にあいまみえる時を楽しみにしている。


 …………さらばだ!』


その言葉と共に、黒猫は一瞬で姿を消した。


「………………」



周囲には再び静寂が訪れる。ギルメンたちも不安げな表情だ。

その中でレィルだけが軽く笑みを浮かべている。


「……………ふーん。

 このギルド、案外暇しなさそうだなあ」


そこにザッハトルテが話掛ける。


「あら?どうしましたの?レィルさん。

 先ほどと表情が変わられましたけど?」


「…………少し気が変わったぜ。

 

 どうせ俺のことなんざほっといてもすぐバレるのは目に見えてる。

 なら、もう少しだけ様子を見といてやってもいい。


 ………あの二人にも興味あるしな」


「ウフフフフ。そうですの。それは何よりですこと」


「あ、頭が痛い……」


キルシュは額に手を置いた。


ギルマス一押しの新規メンバーの発表、飛び入りのメンバー希望者との試合

そして突然のヴォイゲルグ教団からのギルド戦の申し入れ。


いつになくサプライズの多い今回のお茶会配信は、

視聴者数、コメント数ともに過去最高記録を叩きだしたのだった。





-------------


同日夕方、ロリータコルセティアの拠点の洋館の中、

そのある一室。

会議などにも使用されるその部屋は広く、長いテーブルが置いてある。


そのテーブルの脇に一人立ち、説明をするキルシュの姿。

椅子に腰掛けその話を聞いているのはレィル、リブル、プラチナの三人だ。


「……と、うちのギルドに関してのおおまかな説明はこんなところでしょうか。


 規律というほどの事ではないですが、

 皆さん、ギルメンとして注目される立場となるので、

 普段から素行には気を付けてくださいね。


 あ、そうそう。

 一応うちのギルドは恋愛禁止が原則となってます。

 さすがに現実のことまで口出しはしませんが、

 TSO内でそういった行為は控えてくださいね。


 それと、定期で開かれるお茶会は、全員参加が基本となってますので

 もし予定が合わず出席できない場合は、

 事前に私の方までご連絡をお願いします」


「わかったっす」


「リブルさん、ごめんなさいね。

 もっと早く説明するべきだったんですが、

 お茶会の準備もあってなかなか時間が取れなくて。

 説明が今日まで遅れてしまいました」


「あー、ウチは別に構わないっす」


「恋愛禁止って……。どこぞのアイドルグループじゃあるまいし」


「あなたは少し黙って」


 (サブマスター、レィルさんにはなぜか厳しいっすね…)


「そういえばプラチナさん、

 さっきからウララさんの姿が見えないようだけど?」


プラチナに尋ねるキルシュ。


「あ、さっきまではいたんだけど……。どっかいっちゃって」


「そうですか。じゃあプラチナさんから

 この辺の説明を彼女にしておいてもらえますか?」


「…うん、わかった」


「ところでこの中で、ギルド在籍経験者は?」


キルシュが尋ねるが、手をあげるものはいない。


「それじゃあ一応、ギルド戦についての説明もしておきましょうか」


「はいっす」


「あーめんどくさ」


「……そこ、何か?」


キルシュはレィルを睨み付ける。


「いや、何も。


 まあ、どうせ今日のやつらと近々やりあうことになるんだ。

 それぐらい知っといてもいいか」


「ゴホン。じゃあまあ簡単に。

 

 まずギルドランクについてですが、これはギルドメンバーの数、

 それぞれの実績や強さ、そういったものを総合して

 月毎にそのギルドのランクが運営より発表されます。

 その中の判断材料の一つとして、ギルド戦が位置しているというわけです」


「ほおー、そうなのか。俺はてっきり

 ギルド戦がそのまま順位に直結するのかと思っていたが」


「順位の変動に対して、

 ギルド戦のプライオリティが高い事に変わりありませんけどね。

 自分よりランクの高いギルドに勝利した場合は

 目に見えてランクが上がる事もあります。その逆に、

 下位ギルドに負けた場合は劇的にランクが下がる。

 そういった例は数多くあります」


「へーそうなんだ。高い順位を保つのも大変なんだね」


プラチナは感心し声を出す。


「そして肝心のギルド戦についてですが、

 ギルド戦は大きく分けて二種類。公式型と非公式型があります」


「そういやさっき、あの気味悪い猫も

 公式型で申し込むとかなんとか言ってたな」


「ギルド戦は基本的に、ギルドが任意で他ギルドに対し申し込む事で発生します。

 その時、申し込む側が公式型か非公式型、

 どちらか一つを選んでギルド戦を申し込むことになるんです」


「…で、どう違うんだその二つは?」


「公式型とは、

 もともと運営によって用意されている方法を用いて行うギルド戦。


 5対5の勝ち抜き戦、30対30のバトルロワイヤルなど、

 そういったスタンダードな戦い方がいくつか用意されています。


 その中から一つ選んで、挑戦者が申し込むわけです」


「申し込みを断ることもできるの?」


プラチナが尋ねる。


「できますよ。

 ただ公式戦は挑戦を断ったことによるペナルティが存在します。


 ギルドランクを決める上でそのペナルティがマイナス材料になってしまいます。

 だから挑戦を受ける側も、受けるか受けないか

 しっかり考えないといけないというわけです。


 そしてもう一つの非公式型。

 これは特に決まったルールなどが存在せず、

 申し込む側がルールや戦い方を決めていいという方式です」


「ルールを決めていい?どういうことだ?」


「例えば一対複数人のハンディキャップ戦、時間制限が短い戦い。

 むしろ戦闘に限らず、スポーツやゲームなど、

 とにかく勝ち負けが発生するような事なら何でもいいという事です」


「極端な話、じゃんけんでもいいってことか?」


「理論上はそうなりますが

 ギルド戦の申し込みは、必ず運営がチェックを入れてますので、

 あまり極端な方式では運営に却下される可能性が高いですね」


「八百長が起こることも考えられるな」


レィルが呟く。


「そうですね。だから運営のチェックは厳しめとなってます。


 それにギルド戦は公式非公式に限らず、

 その様子は運営が必ずチェックしてますし、

 試合内容もリアルタイムで公式チャンネルで配信されます。


 なので、明らかな八百長試合をすれば必ず誰かに通報され

 ペナルティが課せられる仕組みにはなってるみたいです」


「ウチたまに見るっす。公式チャンネル結構面白いんすよ」


「申し入れを断ったらペナルティがあるんだろ?

 だったら、とにかく自分に有利な方法で

 他のギルドに申し込み続ければいいという事にならないか?」


「いえ、ペナルティが発生するのは公式型のギルド戦だけです。

 非公式型はそれを断っても、断った側にリスクは一切ないです

 また、上位から下位への申し込みの場合や、

 同月中にギルド戦を三戦以上行っているギルドは


 例え公式型でも 断るペナルティはありません。


 ギルド戦を申し込める回数やランクにも限界がありますしね。

 例えばDランクのギルドが

 SSランクのギルドに申し込もうとしてもそれはできません」


「…逆ならできるの?」


「一応できますが、

 SSランクギルドにそれをするメリットはほぼありませんね」


「ギルド戦に関しての仕組みは、おおまかにこんなところでしょうか。


 特に質問がなければ、

 そろそろ夜も更けますので、今日は解散という事にしましょう」


「…ひとついいか?」


「なんですか?レィルさん」


「ギルド戦のメンバーに選出はどうなってる?希望すれば出られるのか?」


「…え?ああ、それは一概には言えませんが、

 基本的にはメンバー選出はギルマスに一任されています。

 まあ、ギルマスに出たいと言えば、…もしかしたら出られるかもしれません」


「なるほどな」


キルシュがレィルの元に近寄り、小声で話す。


「何ちょっとやる気になってるんですか!!

 というか、さっさ正体バラしてギルドやめるんでしょう!?」


「……ああ、そうだが、焦る必要もない。


 それに、どうせなら楽しまないと損だ」


「ちょっとちょっと…!?」


その様子を眺めるリブル。


 (この二人…、仲良いんだか悪いんだかわかんないすね…)


「あ、そういえばプラチナさんっすか。

 あんな実力を持っているのに、ギルド経験はないんすね。


 前からこのセントティアラにいたんすか?

 あと、もう一人の人とは友達すか?」


リブルの質問に、キルシュとレィルも興味深げにプラチナに注目する。


「え!?あ、ボ、ボクはその…色んな所を行ったり来たりしてて……


 ウ、ウララララさんとはあの…なんて言ったらいいかな。

 ととと友達以上、知り合い未満っていうかな、ハハハ」


プラチナは目に見えて狼狽している。


「友達以上、知り合い未満ってなんだかよくわからないな」


「ははは、まあそんな感じかな。

 じゃ、じゃあボクはこれで行くので。…それじゃあ!」


プラチナは逃げるようにその場を去っていった。


「……怪しいですね」


「……怪しいな」


「……怪しいっすね」


「……怪しい」


「…ってティッティさん!?いつのからそこに!?」


「……じゃんけんの……くだり……あたりから……」


「…………結構長い事いたなおい」





館の廊下。一人胸をなでおろすプラチナの姿。


「ふぅ~っ、なんとかうまくごまかせたけど。


 でもまさかボクがギルドに入る事になるなんて……。

 ううう、どうしてこんなことに……」



プラチナは過去を思い返した。話は数日前にさかのぼる。

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