第24話潜入!ロリータコルセティア4


ズルズルズルズル……


翌日、セントティアラの街中。

背中の大剣を引きずりながら、ゴスロリの服で歩くレィルの姿があった。

周囲のプレイヤー達の視線を一手に集めている。


「あー、股がスースーする。女はよくこんなん平気で着てるよなあ。


 しかし。なんか剣がいやに地面と擦れるな…。身長は変わってないはずだが。


 あーそうか…靴が変わったからか。

 あとで武器位置調節しねえと。めんどくせえ。


 にしても、どいつもこいつもジロジロジロジロ見やがって。

 ……いや、仕方ねえか。

 こんな女装した気持ち悪い男が歩いてれば誰だって見るわな。


 で、どうするか…。

 やつの指定した時間は午後三時だったか。まだ時間があるな。

 ログアウトするのも面倒だ。いつもの酒場でも行って時間潰すか」


レィルはなじみの酒場へと向かった。




「いらっしゃい」


酒場のマスターが声をかける。

入ってきたレィルに客たちの視線が集中する。


「おい見ろよ、あれ」

「おっ、いいねえ」

「でもなんだあの武器?随分ゴツいの持ってんなあ」


レィルはそんな注目をものともせず、カウンターの席にいつものように座る。


「何にしましょうか?」


バーのマスターが声をかけた。


「いつものくれ」


「………はい?」


「だから!いつものだ!いつもの!」


「いつものって……。客さん初めて見る顔だけど。

 店間違えてないですかい?」


「あ゛あ゛ん!?」


レィルはマスターを睨みつける。


「いや……睨まれても困るんだけどねえ、客さん…」


「…オレンジジュースだ」


「はいよ、オレンジジュース。ちょっと待っててね」


 (チッ!俺の事はわかんねえってどういう事だよ!いつも来てんだろうが!

 こんな変な格好してるからそれも仕方ねぇのか?

 あー、いちいちめんどくせえ。


 ……まわりの奴らもジロジロ見やがって)


レィルは周囲の客に対して睨みをきかす。

目の合った客は皆、視線をそらした。


 (べつに俺は他人からなんと思われようがそんなことはどうだっていい。

 俺の目的は一つ、強くなる事だけだ。変態上等)


「はい、オレンジジュースね。あとこれ、フルーツ盛り合わせサービス」


「あ?……お、おう……」


マスターはジュースとフルーツの盛られた皿をカウンターへと出した。


 (サービスだあ?なんだそりゃ。そんなの今まで一度もなかったが…。

 どうなってんだ?……まあいいか)




「ねえ、ちょっとそこのキミ!」


しばらくの後、レィルの背後から声がかかった。


「………あ?」


レィルが振り返るとそこには三人組。

それは昨晩、レィルに叩きのめされた戦士三人組だった。


「……お前らは!」


「あれ?君、俺らのこと知ってるの?どっかで会ったっけ?」


「ってお前ら、昨日の今日だろうが!!」


「はははは!君、面白いね。

 じゃあさ、俺らそれ思い出すからさ、一緒に飲まない?


 よかったら、その後にダンジョンでもどうよ?」


「あああ?ぶざけてんのか、お前ら」


「ふざけてないよ。ホント、面白いね。

 その恰好も超カワイイじゃん」


レィルは眉間にしわ寄せ男を威圧するが、男たちは怯む気配がない。


「……………だめだこいつら……」


諦めたレィルはオレンジジュースを一気に飲み干し、

カウンターにお代を置いて酒場を出て行った。


「あー君!!ちょっと待ってよ!!」


「うるせえ!!ついてくんじゃねーぞ!!」




ズルズルズルズル……


酒場を出て街中を歩くレィル。


「…くっそ何なんだあいつら!可愛いだって!?冗談だろ!」


ふとレィルは近くの窓の前で歩を止める。

窓ガラスに映った自分の姿をしばらく見つめた後、眉をひそめた。


「おえー、気持ち悪っ!!だめだ、どっこもかわいくねえ。

 あいつら目おかしいだろ。適当なこと言いやがって。


 …………そろそろ時間か、ヤツのとこへ向かうか」


ズルズルズルズル……


そう言ってレィルは街の中を、

剣を引きずりながらガニ股で進んでいった。




時間はTSOの時間で午後二時半過ぎ。

ロリータコルセティアの拠点、その正門やや手前にレィルの姿はあった。


「………あー、ここまで来るだけで一苦労だ。

 なんか今日に限って知らねえ男がやたら声かけてくるし……。

 もう疲れたぜ……」


正門の方を見れば、そこには人だかりができていた。

見ればそれは、八割方男性プレイヤー、中には女性プレイヤーの姿もある。

門を外から取り囲むようにして、数十人。


「…なんだありゃ? あいつらギルメンか?

 いや、男もいるし、そうじゃねえか」


少しずつ門と人だかりに近づいていくレィル。

すると、その人だかりが近寄るレィルを発見し、どよめいた。


「オイ!また一人来たぞ!!」

「キャー!可愛い!!」

「あの格好!ギルメンか!?」


人だかりはあっという間にレィルを取り囲んだ。


「お、おい、なんだお前ら……」


「見た事ないメンバーだな、知ってるか?」

「いや、正規メンバーじゃないな」

「え!じゃあオーディション参加者?」

「まじか!このクオリティなら絶対受かるだろ!」

「いやお前、これは将来のセンター候補だぞ!」

「俺…サインもらっとこうかな!」

「いや待て、俺だ!俺にサイン下さい!!」

「あ、握手してもらっていいですか?」


レィルの元へと一斉にプレイヤーたちが押し寄せる。


「おい!お前ら新メンバーとか何言ってんだ!?落ち着け!!

 ちょっと通してくれ!

 お前ら聞け!!俺はこの中に入るんだよ!!どけ!!」


レィルは無理やり人をかき分け、

門のところまでやっとの思いで到着した。


門には門番とみられるプレイヤーが二人。ゴスロリ姿の女性プレイヤーだ。


「ハァハァ……。 おい、今日は一体どうしたってんだ、

 あいつら何なんだよ?ハァハァ…」


レィルが二人に尋ねる。


「今日はお茶会がありますからね。

 お茶会の日はこうやって入待ち出待ちがあるのは、ここでは日常の光景です」


「ところであなた、見ない顔ですけど、その格好

 もしかしてギルド入り希望者ですか?」


「希望者っつうかなんつーか…、

 俺は昨日、お前んとこのギルマスに来いって言われたんだよ。

 だから来たんだ」


「…ギルマスに何か聞いてる?」


門番二人は話し出す。


「いいえ、私は聞いてません」


「私も得に聞いてないんだけど……。


 アナタ、その話本当?嘘言って中に入ろうとしてる?」


「嘘なんかつくかよ!俺だって来たくて来たわけじゃねえんだ!」


「うーん…。念のため、ギルドコールで確認してみましょう」


そう言って門番がウィンドウ開いたとき、

後方から馬車の走る音が近づいてきた。


それを見るや、

レィルの周囲にいた人だかりは全員その馬車の元へと一目散に走っていく。


「……あの馬車は…!!」

「ザッハトルテ様がいらっしゃったぞ!!」

「キャーーー!!ザッハトルテ様ー!」

「お顔見せてくださいーーー!!」

「ああ!今日もお可愛らしい!!」


馬車に向かってしきりに叫ぶ入待ちのプレイヤー達。

馬車の中にはザッハトルテ、その歓声に手を振って応えている。


人をかき分け進む馬車、正門のすぐ手前まで来ると、門が開かれた。

そこへ門番の一人が近づく。


「ギルマス!ちょうどいいところに!」


「……いかがいたしましたか?」


ザッハが馬車の窓を少し開け、応える。


「あの、そこに一人、

 ギルマスから呼ばれてきたっていう女の子がいるんですけど。

 ギルマスご存知ですか?」


門番はレィルを指さした。


「あらあらあら。わたくしとしたことが。

 話を通しておくのを忘れていましたわ。


 彼女の言うとおり、わたくしが呼びましたの。通して差し上げて」


「…そういうわけだ。じゃあ俺は行かせてもらうぞ」


レィルは門番の横を通り抜け、敷地の中へと歩いて行った。

その後に続き、馬車も入る。



歩くレィルの横に並走する馬車。その窓からザッハトルテが話しかけた。


「ごきげんようレィルさん。

 いかがでしたか?その格好で半日過ごしてみたご感想は?」


「ああ、気持ち悪いよ。鏡を見るたび吐きそうになる」


「周囲の反応は?」


「どいつもこいつも俺だって気付かねえ。…どうかしてやがるぜ」


「ウフフフフ。そうですの。

 でもそれは仕方がありませんね。


 ここから館までは距離がありますわ。

 どうぞ、一緒に馬車にお乗りにならない?」


「…いらねぇ。俺は歩く」


「あらそうですの。では、先に行ってお待ちしていますわね」


馬車はレィルを追い越し、洋館の方へと走っていった。

庭園内をゆっくりと進むレィル。


 (ここのギルドも、一部でアイドルみたいな扱いを

 うけているっつう話は聞いてたが…、出待ちとはな。


 暇な連中もいたもんだ。ほかにやることいろいろあんだろ)



さらに館へ近づく。すると人の話声が聞こえてきた。

館の正面の開けた庭園に、テーブルと椅子がいくつも出され

そこにギルメンと思しきゴスロリ姿の乙女たちが

和気藹々と談笑しているのが見える。


「うわすげーな。女子校ってこんな感じなのか?

 なんつーかそこに女装して割り込むってのも…かなり気が引けるが


 まぁしょうがねえ、恥でもなんでもかいてさっさと終わらすか」


そう覚悟を決め、レィルはその集まりの元へと歩いて行った。


そこにはおよそ五十人以上の少女たちがいた。

年のころは低くは12~3、高くは26~7程度。


みな容姿端麗、そしてもちろん全員がゴスロリ服に身を包んでいる。

その光景は優美でもあり、ある種独特の迫力も併せ持っていた。


その輪の端にレィルも加わる。


「異様な光景だなこりゃ……?ん?これは」


近くのテーブルを見れば、

手作りと思しき見た目も華やかなケーキやお菓子が所狭しと並べてある。


その中にあるクッキーをつまむレィル。


 (お披露目をするとか言っていたが、俺はここにいればいいのか?


 つか、女装した男がこんなとこ混ざってんだ

 もうそろそろ誰か俺に気づけよ。

 変態よばわりでもなんでもすりゃあいい)


「あのーそこの人、ちょっといいっすか?」


 (そらきた。早速お役御免だぜ)


レィルの後ろから声がかけられた。

レィルが振り向くと、そこには一人の少女の姿があった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る