第14話隠れた才能2

「いやーどうもごめんなさい!

 あまりの嬉しさに、ついついあんな事になっちゃって」


「い、いえ、それはいいんですけど…」


ノリコの道具屋の近く、

広場沿いのベンチにアーヤと女剣士は腰掛け、話をしている。


「あそこの店主さんから聞いたんです。

 あなたが、究極に出来の悪い魔法の実を持っているって。

 それを是非売って欲しいって思って」


「究極に出来の悪い魔法の実……。

 ええ、一応持ってはいますけど……」


「ホント、街中、いや世界中探し回ってたんですよぉ。

 もうかれこれ一か月近く、ううう…」


女剣士は目をこすってみせる。


「あの、聞いてもいいですか?」


「うん、なに?」


「率直な疑問なんですけど…何に使うんですか?…これ」


「あ、その実ね。

 ナンバリングクエストなんだ」


「ナンバリングクエスト…」


(※ナンバリングクエストの説明については

「最強の剣士を目指して3」をご参照ください。)


「究極に出来の悪い魔法の実を10個、集めるってクエスト。


 だけど、どこのダンジョンを探しても

 どこの都市に行ってもどこの店に行っても

 そこまで出来の悪い魔法の実って全然なくてさあ。


 それがここにあるって言うから驚いちゃって!

 アーヤさんっていったっけ?あなただけだよお、

 ここまで出来の悪い魔法の実を作れるのは!いやーすごいね!」


 (きっと…悪気はないんだろうなこの人…そう思いたい…。


 でも、そんな内容のナンバリングクエスト聞いた事ないなあ…

 ナンバーいくつなんだろ…)


「顔が広かったり、コネクションがある人はいいけど

 ボクそういうのあんまりなくてさ、ギルドも入ってないし。

 半分諦めかけてたんだ」


「お役に立てるんでしたら嬉しいですけど…。

 今手元にあるのが3個しかなくて…、すいません」


「え、いやいや!謝る必要なんてないよ!」


「この実、

 さっきの店の裏の私の木から、一日1、2個のペースで採れるんです。

 もし時間が掛かってもよければ10個お渡しできると思いますよ」


「ほんとに!?やったー!!

 ごめんね、ありがとーー!」


女剣士はアーヤの両手を取り、ぶんぶんと上下に振った。


「それで、おいくらかな?」


「おいくら…?

 あ、いや、お金はいりませんよ?

 私が持ってても使い道ないんで、捨てちゃうだけですので」


「いやいやいや!

 あなたが思ってるより、かなり貴重なアイテムだよそれ。

 たぶんそのうち、欲しい人がそこらじゅうあふれて

 値段が高騰するんじゃないかな」


「値段が高騰……ですか」


アーヤにとって、実がクエストアイテムだという事自体半信半疑だったが

仮に本当だとしてもお金を取る気にはなれなかった。


「いえ、いいんです。差し上げます」


アーヤはアイテムボックスから魔法の実を3つ取り出すと、女剣士に手渡す。

実からは、相変わらず禍々しい瘴気が発生している。


「うええ?ほんとに?タダでいいの?」


「今後はわからないですけど、今はまだ使い道のないアイテムですので。

 気にしないで大丈夫です」


「ううううう…なんていい子なんだ……」


女剣士は涙ぐむ。

アーヤはベンチから立ち上がった。


「じゃあ私はこれで。

 また後日店に来てください。出来た実をお渡ししますんで」


そう言うと、店のほうへと歩き出す。


「ちょっと待った!!」


女剣士が呼び止める。


「??」


アーヤが振り向くと、女剣士も立ち上がり、

手に手袋のようなアイテムを持っていた。

アーヤの元へと近付くと、そのアイテムを差し出す。


「じゃあ、お代のかわりにこれあげる!」


「え?これは…?」


女剣士はアーヤの手にアイテムを押し付けた。


「これね、こないだモンスターから拾ったんだけどさ、

 ちょっと特殊な装備で、ボクには合わなかったから」


「いや、でも…」


「いいからいいから!タダでもらうなんてボクの気が済まないの!

 いらなければ売って。


 じゃあ、また明日ね!」


「あ…!」


そう言うと女剣士はそそくさと歩いていくが

少し歩いたところで止まり、アーヤの方に振り返った。


「そうそう!ボクの名前はプラチナ!今後ともよろしく~!」


ひとしきり手を振ると、広場から去っていった。

取り残されたアーヤは手に持ったアイテムに目をやる。

ひじ手前ぐらいの長さ、レース調に仕立てられた薄手の手袋だ。


 (あの実もたぶん今日中には捨てちゃってたし、

 本当にお返しなんてよかったんだけど…。

 でも、せっかくくれたんだし、もらっておこおうかな。


 それにしても、この手袋なんのアイテムだろ?ファッション?)


アイテムの説明ウインドウを出す


■アビリティグローブ■

特性:潜在的な才能値を最大限に強化する。


と表示された。


 (…???

 なにこれ?潜在的な才能値?

 ……そういえば、前に誰かからそんな話を聞いた気がする)


TSOでは表だったステータスの他に

隠れた才能パラメーターというものが存在する。

剣の才能、料理の才能、生産の才能、射撃の才能など、それは多岐にわたり

アカウントを作った瞬間、自動的にランダムで決定される。

そして、才能値は数値で見ることはできず、実際に試してみないとわからない

TSOならではのシステムだ。


 (才能値を強化するなんて、そんなアイテムが…?本当なの?

 でもそもそも、私の才能値ってなんなんだろう。

 …装備したらわかるのかな?)


アーヤは恐る恐る、手袋を装備してみる。


「…………」


「…………?」


特に変化は見られなかった。

ステータスウィンドウも確認するが、一見したところ変化はない。


「……これ、なんか変わったのかな?

 ……………………。

 あ、いけない、お店抜けさせてもらってたんだった、早く戻らないと」


アーヤはいそいそと場を後にする。


店内へと戻ると、一人二人と客がおり、

店主のノリコは客となにやら話し込んでいる。


アーヤは棚の整理の続きに取り掛かるものの

今も手にはめている、手袋のことが気になってくる。


 (もしアイテム説明が本当だとしたらすごいアイテムだよね…。

 もらっちゃってよかったのかな?


 私の才能……。なんだろう。

 植物を立派に育てる才能……なんて、さすがにそんな都合よくないかな…)


作業を続けるうちにそんな考えも次第に落ち着き、

時間が過ぎていった。



日も暮れかかり、店内も夕焼けの赤に染まっている。

店内に客はいなかった。

女店主ノリコは売上の帳簿付けに追われている。


「アヤちゃん、帰る前に悪いわね。

 そこに置いてある植木に、ちょっと水やってくれないかな」


そう言ってノリコは、

帳簿に視線を置いたまま、窓際にある一つの植木鉢を指差した。


「あれ?あんなのありましたっけ?」


「うんそれ、さっきお客さんから預かったの。

 数日面倒見てほしいって。だから扱いは丁寧にね」


「そうだったんですね。はい、わかりました」


そう言ってアーヤばその植木鉢の前へと歩み寄り、

鼻歌混じりで水を与える。


「さあ元気になぁれ。

 こうやって水をあげると、植物が喜んですごく元気になっちゃう才能

 …なんてね~♪」


すると、水をやり始めて数秒も経たないうち、その植物に劇的な変化が見られた。


「…え?」


水をやればやるほどに、真緑だった葉はみるみるうちに黄土色へと変色、

花はたちまちしぼみ、枝はその力を失い垂れ下がり、

植物は見るからに生気を失っていく。


「……………………」


「……………え!?ちょっと、え!?

 うそ!?なにこれ!?」


ついには、あっという間、見るも無残に枯れてしまった。


「うそでしょ……植物を…枯らせる…才能!?」

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