第133話

「久梨亜、お前もメフィストフェレスから許可が出たのか」

「うーん、ちょっと違うねえ。たぶん美砂も同じだろうけど新しく許可が出たんじゃない。前のが続行になったのさ」


 「新しく許可」と「前のが続行」、なにがどう違うんだ。


「まあ神のやつは英介に負けたのがよほど悔しかったんだろうね。『1回戦が終わっただけ』とか強がってたけど。だけどその後で“負けをなかったことにする方法”を思いつきやがったのさ」


 負けをなかったことにする方法だと!


「そう。あの勝負は『例の賭け』が神の勝ちになったんで行われただろ? 英介が『人類を滅亡させたいなら俺と勝負しろ!』と言ってな。じゃあもし『例の賭け』がまだ勝負がついてないとしたらどうだ?」

「えっ? でもあの賭けは神が勝利宣言したんじゃ……」

「そこだよ。神はその宣言を取り消したのさ。『勘違いだった』と言って」


 神はいったいなにを考えているんだ。


「じゃああの俺との勝負は……」

「神いわく『エキシビション』だと。公式戦じゃない。記録には残らない」

「そんな……」


 力が抜けた。人類滅亡を賭けたあの勝負が実質“なかったこと”にされちまった。


 その時、遠くから奥名先輩の呼ぶ声がした。


「瀬納君! 久梨亜! 美砂ちゃん! 早く来ないとお団子なくなるわよ!」


 これに反応したのは美砂ちゃんだ。


「お団子! 私食べたいです!」


 目をキラキラさせて先輩のほうへ駈けていく。うーん、かわいい。後ろから抱きつきたい。


 俺は先輩と美砂ちゃんの姿を眺めていた。すると久梨亜のやつが後ろから肩越しに俺の顔のすぐ横に顔をのぞかせやがった。


「英介よ、あんたもし先輩と美砂のどちらかを選ばなきゃならなくなったらどうする?」


 な、なんだよ急に。


「えええっと……、そ、そんなの先輩に決まってんじゃんかよ!」

「おや? 即答じゃなかったね。あんた、美砂にも気があるだろ?」


 な、なに言い出しやがんだこいつ。


 今、俺の前にはふたつの選択肢がある。


 1.美砂ちゃんに告白して恋人どうしになる

 2.先輩に告白して断られる


 どっちを選ぶべきか? どう行動すべきなのか?


 って“2”はなんだよ! 断られる前提かよ!


 この選択肢は俺の頭が出している。神じゃない。もしそうなら「真・神様のテスト」で選択肢は3つになってたはずだ。じゃあどうして断られる前提なんだ。断られるのが恐いって無意識に思ってるのか。


「おい英介」


 また久梨亜のやつがなんか言い出しやがった。


「先輩でも美砂でもどちらかを選べば他方が悲しむ。不公平だ。もしふたりに公平な方法があるとしたらどうする? そいつを選ぶ気はないかい?」

「えっ? そんな方法があんのか! なんだ? 教えろ」

「なに簡単だよ、つまりな……」


 ここで久梨亜のやつはニヤッと笑いやがった。


「ふたりじゃなくあたしとつき合うってのはどうだい?」


 ええっ!


 今、俺の前には3つの選択肢がある。


 1.美砂ちゃんに告白して恋人どうしになる

 2.久梨亜の提案に同意してつき合う

 3.先輩に告白してあっさり振られる


 どれを選ぶべきか? どう行動すべきなのか?


 って“3”はなんだよ! やっぱり振られる前提かよ! “あっさり”ってなんだよ!


「うわあ、一体どうすりゃいいんだ」


 俺は頭を抱え込んでしまった。なぜだ、なんで無いんだ。先輩と恋人同士になれる選択肢がどうして無いんだ。


 ちょっと待て。この選択肢、まるで『例の賭け』がまだ続いてるみたいじゃあ……。ってそうか!


 続いてるんだ。久梨亜が言ったじゃねえか、「『例の賭け』がまだ勝負がついてない」って。神は勝利宣言を取り消したって。俺が人類滅亡の可否を背負わされる存在ってのも続いてるんだ。終わってないんだ!


「瀬納君、早く来なさい!」

「英介さん! お団子なくなっちゃいますよ!」


 向こうにふたり。そして隣にもうひとり。


「うわあぁ!」


 思わず走り出した。もう嫌だ! もうまっぴらだ!


 人類滅亡の可否を背負わされるなんてまっぴらごめんだあ!

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