第36話 奥名先輩の独白(モノローグ) その1
私の名前は奥名若葉。せんじゅエンジニアリングでSEやってます。
ちなみに社名の“せんじゅ”は“千寿”と“千手”の意味が。前者は「会社が長く続くように」、後者は「なんでもやります」ということだそうです。でもこれから書く話には関係ありません。
私、最近なんだかおかしいんです。
もともと私、入社以来仕事ひとすじでした。うちの会社、あんまり大きくないんで仕事は出来る人がやる。男女は関係ありません。
自分で言うのもなんですが、私は同期の中でも一番仕事ができると思います。上司からもそう言われます。まあたぶん私がおだてられると頑張る性格だからというのもありますけどね。
入社してからもうすぐ丸5年。その間、会社の内でも外でも色恋沙汰は一切なし。だって仕事が楽しいから。難しい問題の解決策を見つけたときなんか「もう最高!」って感じでたまりません。実際に解決してみせるのなんかどうだっていいくらい。それに比べたら男なんてとてもとても。
でもそれも“あの日”を境になにかが狂い始めました。
“あの日”、後輩の瀬納英介君が私に告白してきたんです。
瀬納君は私のふたつ後輩。彼が新人の時に私がOJTの担当として彼を指導しました。“できはあまり良くないけど頑張る子だな”というのが当時の印象。もちろん異性という意識は一切なし。
だから“あの日”、瀬納君が昼休みに突然「屋上に来てほしい」って言ってきたときにも「なにかな?」としか思いませんでした。まさか告白されるだなんて。だって私、瀬納君のことただの後輩としか思ってなかったから。一緒にいて楽しいなとは思っていたかもしれませんがそこまで。
当然、告白もキッパリとお断りしました。
ただちょっとうれしかったかな。あ、それは決して“瀬納君から告白されたから”ということじゃなくて、単に“男の人から告白されたから”。
実は私、生まれてこのかた男の人から告白されたことがなかったんです。告白したことは何度かあります。その度にダメでダメで、時々成功。でもすぐに別れちゃう。なんでなんでしょうね。
“生まれて初めて男の人から告白された”って意味でうれしかったんです。自分に自信が持てたっていうか、“自分にも女性としての魅力があったんだ”と確認できたっていうのか。ただそれだけ。
だから瀬納君の告白をお断りしてこの件はそれで終了、のはずでした。また元の日常が帰ってくるはずでした。
でも違ったんです。そうじゃなかったんです。
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