勅使河原くんと三人目の魔姫 Ⅲ

「わしが国王でありユピテルのドワーフ族の長、コンバである。」

「私が妻の…じゃ無かった…きさきのライデです。」

 謁見の間の床に膝を着いてかしこまっていた僕の側に、小さくても元気そうなオジさんとオバさんがいる。

 僕は片膝を着いたまま顔を上げていて、二人は立ったままなのに頭の位置が同じ高さにあった。

「このたびは大変な迷惑を掛けてしまった。…申し訳なく思う。そなたのおかげでホブゴブリン達に襲撃されたのにも関わらずエルフの人々に、犠牲者が一人も出ずに済んだと聞いておる…。厚く礼を申したい。」

「そんな…もったいないです。僕が関わったのは一人だけですし、それも運が良かっただけで…。」

 僕は恐縮してしまった。

「謙遜する必要は無い。若者よ、ぜひ名を教えて欲しい。」

 …。

 …この時が来てしまったか…。

「勅使河原政孝と申します。」

 王様は僕の目を真っ直ぐ見つめた。

「テシガワラマサタカと申すか?」

 …えっ?!

「ではテシガワラマサタカ殿よ。改めて礼を言うぞ?ありがとう…。」

 …おお…。

 そういって差し出された王様の両手を僕は、自分の両手で強く握り返した。

 …感激だ。

「ちなみに、わしのフルネームは、コンバ・ロペ・ローレン・ダンゲ・ルキメデと言う。」

 …。

「すみません…コンバ陛下でいいですか?」

 僕はドワーフの王に、そう尋ねた。

「構わんよ。」

 コンバ陛下は笑って、そう答えてくれた。

「しかし変わった名前だの。そなたは何処の国の者なのだ?」

「彼は異世界人です。」

 コンバ陛下の質問にマリアではなく、ヨアヒムさんが答えたんだけど…。

 …ちょっ?!ヨアヒムさんまで?!

 ヨアヒムさんは少しだけ悪戯な微笑みを浮かべて僕を見た。

 …しょうがないか。

 …まあ隠す様な事でも無いしね。

 マリアは口を尖らせていた。

 今回は自分が紹介出来なかった事が不満らしい。

「ほほう…。」

 コンバ陛下は目を丸くして驚いた。

「それは是非、機会があれば異世界の話を聞きたい所じゃが…。」

 そう言って陛下は、ヨアヒムさんの方を見た。

「今は祭りの最中でな。迷惑を掛けていて申し訳ないが、坑道の閉鎖などの本格的な対策会議は、闘技大会が終わった後になってしまうが…宜しいかな?」

「ええ、構いません。族長からも、そう言付ことづかっております。」

「そうか…助かる。…ありがとう。では現在までの状況を、もう少しだけ詳しく教えて欲しい。ヨアヒム殿とレア殿、テミス殿は、わしの後についてきてくれ。マリア殿とマサタカ殿は…。」

 悩んでいるコンバ陛下にイアが、手を上げて提案をする。

「親父!テシとマリアは、オレが自分の部屋でもてなしておくから任せてくれよ!」

「こりゃ!人前では一応は陛下と言わんかい!おほん…ならば、しかと頼んだぞ?ではヨアヒム殿達は、こちらへ…。」

 レアは振り返って、恨めしそうな、寂しそうな目を僕に向けつつ、コンバ陛下とヨアヒムさん達の後について行った。

(現在の坑道の入り口は、四組三交代制の一組六人で二十四時間の警備にあたらせています。恐らく、もう何者も坑道の近くには現れないとは思いますが、念の為に…それで…。)

 既に報告を始めているヨアヒムさんの声が、謁見の間から離れていった。


「さて、それじゃオレの部屋に案内するわ。かーちゃん、後で菓子と飲み物を持って来てくんね?」

「あいよ。」

 イアは、かーちゃんと呼んだライデ后妃こうひの返事を確認すると、先頭に立って謁見の間を出て、僕らを自分の部屋へと連れて行ってくれた。


「この、お城って…外観が要塞みたいなのに、内装は綺麗だね。このイアの部屋もだけど、謁見の間も綺麗だったな。」

「あはは。要塞か、そりゃいいや。」

 イアの部屋に案内されて、僕は溜息と共に感想を漏らした。

 イアは僕の感想に笑ってくれた。

 ミランダさんのエルフの族長宅も富豪の別荘みたいな大きなログハウスだったけれど、イアの部屋は、それがすっぽり収まりそうな広さだった。

 床には綺麗な模様の絨毯じゅうたんが、部屋の隅にまで敷かれていて、窓にも綺麗な模様の彫られたガラスが、はめられている。

 中央に置かれた大きなベッドは、白くて美しい天蓋てんがいに覆われていた。

 窓の近くには勉強用の机があって、その隣には本棚があるけれど、さらに隣の壁まで本棚が続いていて本が、びっしりと収納されている。

「占いの仕事で、おばあちゃんと、お城には何度か訪れましたし、イアちゃんの部屋にも何度か遊びに来た事はありますけど…いつ来ても驚きますね。」

 マリアが…ほえーっ…と言った感じで床から天井まで眺めた。


 ベッドの側にある大きなテーブルの周りの、それぞれの椅子に全員が腰を掛ける。

 しばらくすると、かーちゃんことライデ后妃が自らケーキと紅茶を持って来てくれた。

 ケーキは手作りらしい。

 紅茶も美味しかった。

 僕が、お腹も満たされて幸せな気分に浸っている所に、イアは切り出してきた。

「さっきの話だけどさ。」

「さっき?」

 イアはジト目になって僕を睨む。

「オレはゴーレムの闘技大会に参加しないのか?…って話だよ。」

「…ああ。」

 …あの話か。

「結論から言えば、オレは参加しない。…したくても出来ないのさ。その理由が、あれだ。」

 イアはテーブルに片肘を付きながら、片手に乗せたあごを前に出して僕の後ろを示した。

 僕は後ろを振り返る。

 向いた方向の壁には、天井まで届く様な高さがあって尚且なおかつ左右の壁一杯に拡がっている尋常じゃない程に巨大な棚があった。

 …あんなに大きいのに入る時に気が付かなかったよ。

 そこだけ陰になっていて暗かったせいもあるかもしれない。

 棚は棚板で細かく何段かに分けられていて、その棚板の上にはズラリと手の平サイズの人形達が数多く並んでいた。

 僕は自分のフィギュア用の小さな棚を思い出して、イアに少しだけ親近感を持ってしまったが、よく見ると全部同じ人形の様だ。

 …もしかして、これって?


「そいつらが、オレの作ったゴーレム達さ…。」


 イアは、そう言うと、ゆっくり紅茶を飲んだ。

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