鬼の宴

藤 あすか

初夜

 僕は異常性癖者だ。程度の差はあれど、男性諸君なら性癖に偏りがあること自体は、分ってもらえると思う。というよりかは僕たち男性が、持ち合わせているんだ。

 女性だって本当はそういったものは拒絶こそすれど、その全員が可笑しな物を持ち合わせてないだなんて誰も言えないだろう。

 だがそれを鑑みても、僕の性癖は少しばっかり厄介だ。こうして心の中で独白するだけでも口にするのを憚れる。

 しかしそんなことでは話は進まないので、ここでは勢いに任せて言ってしまおうと思う。


  僕には吸血衝動がある


  魅惑的でエロスな肉体美よりも豊潤で美しい血を欲し、清涼感のある爽やかな容姿よりも綺麗で清々しい透明感のある血を好み、純潔の女よりも純血それそのものに惹かれる、僕はそういった人間だ。

 《それはなんてタイトルの漫画だ?》等と茶々を入れられる前に言っておくが、僕は今までも、そしてこれからも、実は先祖が吸血鬼で謎の力に目覚める代わりに吸血衝動という業を背負っていくという展開も、瀕死の吸血鬼を助けるために自分から血を差し出して吸血鬼になったりだとか、ましてや古代より謎の石仮面をかぶって吸血鬼化などありはしない。

 つまり僕のこの吸血衝動という異常性癖はけっして吸血鬼を筆頭にした、超常、オカルト、不思議現象、などではなくただの性癖の一つにしかすぎず、僕の人生は、そんなこんなでバトルをするような展開では決してないということだ。

 こう言ってしまうと、今度は《あぁ、ハイハイ今流行りの厨二病ね。自分を特別だと思いたがる年ごろね。私にもあったわ。……んで? あんた血を吸ったことなんてあるの?》などと言われてしまうだろう。

 まぁそう言われるならそれでいいんだ。

 実際問題、確かに僕は、まだ衝動を感じてるだけで、どうにか抑え込み、他人の血を吸うなどという、凶行には及んだことはない。

 しかし、僕がこの性癖を持ったときは既にそんな【思春期のメンタリズム】など消え去った(中には、多少残ったままの人もいるだろうが)二十歳の頃であり、更にそこから足掛け八年、二十八歳の今に至るまで、その病気は治っていないどころか勢力を増す一方だ。

 そして何より僕は、は吸ったことはないといっただけだ。

 実は、血自体は何度か飲んだことがある。

 それは、自分自身の血であったり、あるいは動物の血を、ある手のルートを使い入手して飲んだりと……結果は、どれも飲めたもんではなかった。というのが正直なところだ。

 だから最近はそういった馬鹿な事はしていない。

 しかしそれらのエピソードは裏を返せば、ということを学習して尚、僕の他人の血を吸いたいという衝動は収まりを見せていないのだ。

 先も言ったが、別に厨二病と言われようが全然かまわない、というより寧ろそうだったらどんなによかったことか。

 僕のこれは、もはやそんな思春期特有のものと一緒にするには、度を越えすぎているのだ。

 とはいっても同じく先にも言ったように、限界ぎりぎりのところではあるが、僕は今迄、その衝動を我慢し続けてきたし、これらもそうやって、この異常は、隠し通していくつもりだ。

 そう、そのつもりだったんだ。

 忌まわしくも美しいあの満月の夜までは……

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