79話 ドルゼ村の三日間
ドルゼ村では三日間過ごした。
村の人達は、歓迎とまではいかなかったけど優しくしてくれた。おそらく他村の人間が珍しいのだろう。
逆にアッシュは非常に歓迎された。ドルゼ村はリンクスのおかげで犬に対しての抵抗感が無いみたいだ。
ついでにピコも。さすが酪農村、動物の扱いには長けている。
ゼツペさんに紹介してもらいつつ、各所を回ることにした。
――――
家畜はヤギ、ヒツジ、牛、馬がいた。馴染みのある動物が多く楽しかった。
ヒツジとヤギは一緒に放牧したほうがいいんだってさ。
逆に馬は他の動物と一緒にしないほうがいいらしい。ヤギとかは小さいから蹴られて死んでしまう危険があるからだって。
う~ん可愛い。特にヤギとヒツジが可愛い。『山羊』と『羊』と書くだけあって似ているし仲もいい。
そしてイメージよりデカイ。そう異世界の動物は基本的に一回り大きい。
ヒツジなんてモッフモフです。
そして羊飼いをやっているのは少年だった。中学生ぐらいに見える少年。
まさにペーターそっくりです。
異世界では結構子供が働いてる。クラーク村でも子供は働いていたし。
やらされているんじゃなくて、自分の仕事と誇りを持ってやっている感じだ。
自分が子供のころは家事なんて手伝ってなかった。
遊んでばっかりだったから、異世界の子供たちを見て少し恥ずかしい気分になった。
子供にもしっかり仕事を与えるのって大事だと思ったよ。
一匹ヒツジがはぐれそうになった時。
「バフ!」
リンクスが走り出して威嚇した。怯えたヒツジはすぐに群れに戻った。
それをみたアッシュは自分もやりたくなったのだろう、所構わず吠えまくった。
逆に大混乱になって、後で俺が怒られたよ。
でもヒツジとヤギも結構違いがある。
ヒツジは本当に温厚で臆病だ。すぐ逃げる。
でもヤギは結構好戦的だ。アッシュにも立ち向かおうとした。
立ち向かおうとしてるんだが、アッシュは犬だけどほとんど狼だからね。
結局、鳴き声で威嚇仕返していたけど、足が引けてる感じもまた可愛い。
牛は牛でのんびりして可愛い。馬は馬で凛々しくもあり愛くるしく可愛い。
動物好きにとってはドルゼ村は天国だった。
――――
農業も見せてもらった。規模はかなり小さい。
砂糖大根、玉ねぎ、キャベツ、芋、そして豆が植えられていた。
高地だから、やっぱり根菜が多いね。
砂糖大根を一本もらった。そのまま洗って齧るとめちゃくちゃ甘かった。
これは欲しい。お菓子とか作れそうだ!
ちなみに俺はお菓子作りが好きだ。
母親がジャンクフードが嫌いだったから、お菓子もよく作ってくれた。
それで何度か手伝うようになった。
母の誕生日にこっそりシュークリームを作ったらすげえ喜んでくれた。
なんかの機会で女の子にマドレーヌをあげたらすごい喜んでくれた。
バレンタインのお返しにガトーショコラを作ったら喜んでくれた。
そう! 女子受けがいいからお菓子作りが好きだったのだ!
理由は不純だけど、料理よりはお菓子作りのほうが好きだな。
完成した時の達成感がある。
よし! 村に帰ったらお菓子作りをしよう! 出来る範囲でだけどさ。
――――
ドワーフ似のドワーフさんにも報告をした。
お酒を持ってきますねって言ったら、「ワシも村に行くぞ!」と言われた。
流石にペッガ村長に怒られると思うのでやんわり断っておいた。
でも、一度来てみてほしいよね~。クラーク村がリフォームされそう!
――――
ドルゼ村三日目の夜。
「アカイ君は何か欲しいものはあるか?」
ペッガさん達と夕食をいただいている時に聞かれた。もちろんあれだ!
「砂糖大根が欲しいですね!」
「そんなものでいいなら欲しいだけもってけ。馬一頭ぐらいあげてもいいと思っている」
「う、馬ですか?」
そ、それは流石に高価すぎるんじゃ。
「流石にそれは貰い過ぎなんじゃないでしょうか、ははは……」
「なに、気にするな。その、なんだ、友好の証としてだな」
「単に見栄張りたいだけじゃろ、ちっさいのうペッガは」
「うふふ、子供のころから見栄っ張りなんですもんね。ほら十歳ぐらいの時に、見栄張って馬からねえ」
「はっはっは、あれは傑作じゃったな」
「お、おい! やめろよ!」
イジられポジションだな、村長。愛されてる証拠か。
「まあ、欲しいものがあれば言いなさい」
「そうですねぇ……」
馬ってのはありがたいんだけど、ちょっと強欲な気がしちゃうよな。
アッシュがいるし、個人的には必要ない。クラーク村としてはありがたいんだろうけど。
ヤギとかヒツジもらっても、運ぶの大変だしなあ。
鉄鉱石とか、ガラス……。流石にいらないな。
だめだ、砂糖大根以外に思いつかない。
そっかお菓子作りだったらあれだ!
「あの……バターってありますか?」
「バターってあのバターか?」
「はい」
「ヤギのバターならあるが、何に使うんだ?」
「その~、お菓子でも作ろうかと」
「ほほ~」「へ~」「あら~」
「な、なんでしょう」
みんな、変な感じだ。好奇の目っていうのかしら。
「アカイがお菓子のお」
「はは、アカイ君は変わってるな。あれ? アカイ君って仕事なにしてるんだっけ」
「あら、あなた。たしか……なんでしたっけ」
異世界コンサルタントと、犬使いと、鳥使いをやっております……。あとは趣味でお菓子作りです。
「ふん、まあええわ。おいペッガ。バターぐらいたくさん渡してやれ」
「まあ、そんなもんでいいなら。そうだな、だったらチーズも持っていけよ」
「あ、それは嬉しいな~」
「全部食いもんじゃの。食いしん坊め」
――――
朝食をいただいてから出発することにした。
パンを出してもらったが、この村では結構貴重品らしい。
ヤギのバターを出してくれたので食べてみた。なんか少し香ばしい。香ばしい油って感じ。
お菓子作れるだろうか……。まあ頑張ろう。
パンはクラーク村ならたくさん作れそうだし、いい交易になりそうだな。
クラーク村のパンをドルゼ村のバターで食べるなんていいよな~。
二つの村の行く末も楽しみだ。
「ルッタさん、何から何までお世話になりました!」
「いえいえ、久しぶりのお客様で楽しかったわ~、また来てね」
「はい!」
三日間お世話になった部屋を後にして外に出た。
――――
ペッガさんはお土産の準備に朝早くから出かけてしまった。
というか、昨日の夜からいろいろ奔走していたみたいだ。
「遅いのう」
「そうですねぇ」
「ピイピイ!」「ワン!」
アッシュもピコも元気いっぱいです。
少し待ってペッガさんがやってきた。リュックを背負って。
「おう! お待たせ!」
「遅いぞペッガ」
「すまんすまん、何せ昨日の今日だからよ! ほれ」
ペッガさんは一般的なサイズのリュックを地面に置いた。そして地面にめり込んだ。
「す、すごい重そうですね」
「いや~、色々詰め込んだからな! アカイ君の事を村のみんなに話したら色々渡されちゃってね」
恐る恐るリュックに手をかけた。
「お、重ッ!!」
ゼツペさんが落ちあげてみる。
「こりゃ~、何詰めたんじゃ? 石でも入ってるのか?」
「んなもん入れるか! 大根とチーズとバターだろ、後は肉を少しと牛乳も少しだな」
なんかリクエスト以外も入ってますね。
「まあ、アカイ君若いし、大丈夫だろ! ささ背負って背負って!」
「は、はあ」
背負ってみると、なんとかなる。なるけどさ、動けないぜ。
「よし! 大丈夫だな」
「う、うっす」
「は~、じゃあ行くかの」
「アカイ君、また来いよ! 親父もたまには顔出せ!」
「気が向いたらの」
「は、はーい」
ペッガ村を後にしたけど、俺はスキップ走法を封じられた。
結局、クラーク村までは早馬なら一日で到着する道のりを三日かかることになる。またゼツペさんには呆れられるんだけどさ。
途中から、見かねたアッシュが咥えて持ってくれりしてなんとか帰ることになる。
ゼツペ村を出るときに、ドワーフさんがはじめて出会った場所にいた。
「気をつけてな!」
「ありがとうございます~」
「またの、ドワーフ」
ドワーフさんは俺たちが見えなくなるまで手を振って激励してくれた。
「気を付けてなー!」
「お酒持って来いよー!」
「酒ー!」
「さーけー!!」
正直な人だよ。まったく。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます