23話 ハンター×酒×新たな出会い

「うわ、くせっ」

「除虫菊だぜ、虫除け用の葉っぱだ。野宿の時とかは重宝するんだ。

 燃やしたこの葉っぱを、巣に突っ込めば、水なんかより早いんじゃねえの?

 手軽だしな、へへへ」


 た、確かに。葉っぱを燃やした煙は下に落ちていく。手軽だし。


「ふむ、これなら」


 先生も納得した模様だ。はやくやってみたいぜ!

 再度ホールラビットの巣を探すことにした。

 いつも通り、巣の中を『探知』する。


「これは……出口が二つあるタイプだな」

「へへへ、じゃぁ両方で待ち伏せしようや」


 先生とシマーさんで二つの穴に待機した。


「んじゃ、行くぜ。」


 タバコ状の除虫菊の葉を火をつけて、穴に落とした。

 巣の中で暴れているな。


「これは! そっちだ!シマーさん!」

「ほいきた」


 スパーン、いとも簡単に捕まえた。


「ほっほ~、こりゃすげぇや。レアラビットをこんな簡単に!」


 まじまじラビットを見つめている。心なしかラビットが怯えているようだ。


「あ、血抜きしていい?」

「あ、どうぞ」


 慣れた手つきでラビットの胸を一突きする。

 大量の血が勢いよく飛び出す。見ただけでわかる、これが本当の血抜きだ。

 俺たちはなんとなく血を抜いてたけど、プロは違う。


「ラビットは鳴かないから気楽よね~ん、へへへ」


 確かにウサギって鳴かないんだな。

 内臓の摘出も素早い。簡単にドロっと落ちた。


「ほほいのほい」


 血抜きから内臓の摘出まで30秒程度で完了した。

 思わず拍手しそうになっちまったよ。


「ついでにコッチもね」


 先程のウサギもきれいに血抜きしてもらった。

 鮮やか。


「いや~いいもん見させてもらった。これならいくらでも捕まるわ」

「こちらこそ、いいアイディアをいただきました。」

「へへへ、あんなもん、大したことじゃない」


 短い間だったけど、わかったことがある。

 このシマーさんかなりの凄腕だ。リーダーの器だ。


 シマーさんは照れくさそうに頭をかいた。


「まぁ、ホントのこと言うと、どんな奴らか確認しに来ただけなんだよね」

「よそ者ですし、そりゃそうですよね。」

「にぃさんもすまんかったな、今度酒でも飲もうぜ」

「む、酒ですか?」

「お、好きなクチかい、今日の夜でもこいよ、仲間も紹介するぜ」

「ど、どうしようかな」


 明らかに動揺している。嬉しい動揺だ。

 チラチラ見てくるなよ。行きたきゃ行けばいいのに。


「いいんじゃないですか」

「私は行かない」

「へへ、んじゃ二人くるかい? 大したもんはないがもてなすぜ」


 あれ、俺も行く流れになっちゃったな。

 まぁ、ちょっと興味あるしな。ハンター仲間もだけどお酒もさ。


「んじゃ、先に帰るわ」

「あれ、もうお帰りですか?」

「人となりもわかったしな、もてなしの準備を進めとくわ。ばっちゃんもまたな」

「……ふん」


 手をヒラヒラして森の中に消えていった。


「設楽さんは嫌いだもんね」

「飲む意味がない」

「ははは、それは正論だ。飲まないでいいなら飲まないほうがいい」

「まぁ、確かに」


 微妙な空気が流れた。シマーさんという暴風が去ったからかな。


「――ラビット捕まえますか」


――――


 ラビット捕りは順調だ。煙用の菊は、ばあちゃんが目いっぱい採ってきてくれた。

 火打ち石が無かったので、久しぶりに『着火』が役に立ちましたよ。

 何かをごっそり持っていかれるけど、調子がいいのか、八回ほど使った。


 水法から煙法に変えたことでより更にメリットがあった。

 先生曰く


「水より煙のほうが断然効率がいい。水だと、『探知』が遮断されるんだが、

 煙だと継続して穴の中を確認できる」


 とのことだ。


 五時間ぐらいやって九匹ゲットした。


 赤井たちはウサギ捕りのレベルが上がった。

 『野草の知識Lv1』を手に入れた。


――――


夕刻前まで男性陣はウサギ狩り、女性陣は野草集めを行った。


「そろそろ帰りましょうか」


 九匹のラビットと山菜をたくさん持って帰った。

 村の大通りに差し掛かった。


「ラビットも山菜も我が家に置いておくといい。ラビットは明日村長のところに持ってっとくよ」

「ありがとうございます」

「村長の驚く顔は私が堪能しておくよ。そのまま、シマーんとこまで行くのかい?」

「あ~そうだった、場所教えてもらえますか?」


 設楽さんはそのまま帰宅、すぐ食べる分のベリーだけ持って帰った。

 俺たちははヨド宅まで行って荷物を置いて、シマーさんの家に連れていってもらった。


 シマー宅は村の北側にある。ハンターたちは村北部に住んでるからね。

 ちょっと大きいが普通の家だ。


「コンコン、こんばんは、アカイです」

「お、きたきた、へへ、まぁ上がれよ」

「んじゃわしは帰るぞ。ほれ土産じゃ」


 ヨドさんは干し肉を渡したみたいだ。


「お、悪いね」

「ほほ、あとは若いもんで楽しみな」


 ばあちゃんは夜道を帰って行った。


「おじゃましまーす」

「ほれほれ、そこに座れ座れ」


 さてさて家の中には男性十人、女性二人がいた。知った顔はフッチーさんだな。

 キッチン側には女性二人と、若めの男性二人が色々準備してる。


 残りのメンツはリビングっぽいところで、丸いテーブル囲むようにに座っていた。

 地べたに座るスタイルはいいな、落ち着くぜ。

 俺は、コタツ派だからな。地べたが好きだ。


 促された先には、座布団サイズの毛皮が。なんかハンターの家っぽいぜ!

 右隣にフッチーさんが座っている。。


「この前はどうも。フッチーさんもハンターなんですね」

「あぁ、狩りの無い日はそんなこともするな」


 状況的にはアウェイだけど、顔見知りがいることで幾分落ち着いた。


「ほれほれ~、紹介の前にまずは一杯やろうじゃねぇか、へへへ」


 て、展開はやいな。


「ほらコップ持って」


 大きめの木製のコップに、一杯に酒が注がれる。


「これはこれはどうも」


 先生……ニヤニヤしすぎだ。飲む気満々。


「んじゃ、新しい出会いにカンパーイ!」


 ゴクゴク、お、こりゃなかなかビールっぽい。原料は、麦かな?


「ガハハ~今年の酒は美味いぜ~」

「おいおい、呑んでないで紹介しろよ」

「おう! ウワサの新人お二人さんだ! ホールラビットをガンガン捕まえてたぜ!」

「アカイです」

「カネコです、宜しく! ヒック」


 せ、先生グビグビ呑んでるな…。


「ガハハー、いいね~ホレホレ」

「お、こりゃすいませんね~」


 なんかすいません。


「ふ~む……、私はホールラビットに関して聞きたかったんだけどね」


 知性を感じるイケメンハンターの人が呟いた。


「あ、じゃぁ説明しますよ」

「お、いいのかい? 私はサブ」

「アカイです、宜しくお願いします」


 自己紹介をしながら、ホールラビットに関しての話をする組とガバガバ呑む組に分かれた。

 ちなみに女性二人はシマーさんと一緒に住んでるらしい。

 クソ、妻二人かよ。羨ましいぜ。

 キッチンで彼女たちを手伝っていた二人はシマーさんの子供らしい。


 俺と、知的な印象のサブさん、フッチーさん、あと四人の

 七人グループで狩り談義が始まった。


「――こんな感じでラビット狩りをしてます」

「は~なるほどねぇ」

「彼が『探知』魔法ねぇ」


 視線の先にはベロッベロの先生がいる。


「ははは、ひ、久々の酒でハメを外しまくっちゃってますね」


 俺の中で先生の印象がドンドンダメ教師になっていく。

 まぁ、ガキの頃は教師ってすごい人って印象だったけど、

 よく考えたら、29歳とかそこまで大人じゃないしな。

 教師なんて万能じゃないの当たり前だわ。


「アカイ君」

「なんでしょう」


 サブさんはおもむろに指を立てた。


 『発光』? いや指先が鋭く光っている。


「ハッ!」


 空の器が吹き飛んだ。


「魔法……ですね」

「『衝破』という」

「す、すごい」

「凄くは無い、王都の魔法学校にいけば覚えれる。

 王都にいたときに覚えたんだ、魔法に興味があってね。

 ただ、3か月習ってできることは、『衝破』と」


 手を拡げた。


「おおお」


 今度は器が浮いた。


「『浮遊』だけだ」


 浮いた器はフワフワした後に着地した。


「正直これでもセンスはあるほうだと思う」

「僕もそう思います。」

「『探知』だが、教えてもらえないだろうか」

「ふむ、ちょっと考えさせてください。」

「ああ、ダメ元で聞いただけだ。ホールラビットの捕まえ方を聞けただけでもかなり有用な情報だしね」


 これは相談せずに独断で決めれないな。

 というか……教えれるんだろうか。この件は設楽さんと相談したほうがいいな。


「『探知』か。おい、サブ」

「なんだ」

「例のアレだが」

「あぁ、そうだな。俺も考えてた、だが高さがな」

「当の本人がベロベロだしの」

「そうだな、一旦保留でいい」


 何やらいろいろ思案してるみたいだ。

 こちらのグループは非常に話がしやすい。

 もっと荒くれ者かと思ったが、落ち着いた雰囲気で議論が進む。 


「それじゃぁこちらもいいですか?」

「ああ、なんでも聞いてくれ」


 狩りに関して色々聞いた。

 季節ごとに狙いやすい動物がいること

 ボア系は凶暴なので初めのうちは逃げたほうがいいこと

 金が欲しいならレア狙いで山奥まで行ったほうがいいこと

 弓や鉄具はハンター組合が用意できるということ


 今後の足固めになる情報をゲットした。


 夜も更けてきたので、そろそろお暇しようかと思ったが先生ベロベロだわ。


「でゅへへ、あかいくん~」

「ははは、はぁ」

「こりゃだめだな、彼はここでお泊りだな」

「なんかすんません」

「いやいや、こんなに呑ませるリーダーが悪い」


 俺は明日、先生を引き取りにくると言って家に帰った。


「酒に溺れるダメ教師ね」


 まったくだ。

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