20話 ウサギのロースト 2種類のベリーソースソテー

設楽さんは、予定がなければ九時頃に起きる。

 よくもまぁそんなに寝れるな。十二時間ぐらい寝てないか?

 それとも何かしてるのかしら? 気になるぜ。


 今日は村の北側へ。

 村長宅近くまで行き、そこから北上する。

 村の北側は狩りをする人が住んでるそうだ。

 北の山に近いからね。合理的ってやつでしょ。


 でかい腰掛用の丸太が置いてある家に向かう。


「こんにちは、アカイです。こちらはカネコと、シタラです」

「おう、フッチーだ。こっちだ」


 ホールラビットの革を剥いでくれたフッチーさんは、大男だった。

 身長は高く、筋骨隆々。どこぞの世紀末で出てきそうなおっさんだ。


 招かれるままフッチーさんについていき、作業場へ

 作業場は、作業台があり、革を剥ぐ用のナイフが色々あった。

 革特有の匂いがする。


「ほらよ」

「ありがとうございます」

「おう、ホールラビットなんて珍しいから面白かったぜ」


 皮膚のむき出しになった肉を受け取る。ぐろいな~。


「革は昨日のうちに村長に渡しちまったけど、いいんだよな?」

「あ、大丈夫です。ちなみに革っていくらぐらいになるかわかりますか?」

「ん~わからんな。王都には長いこと帰ってないからな」


 そっか、まぁいいや。


「今後、また捕まえたらここに持ってきたらいいですか?」

「そうだな、村長経由でも直接でもどっちでもいいぜ」

「わかりました。また宜しくお願いします。え~っと、お代とかどうしたらいいですか?」

「いらねぇよ」


 デカイ手をヒラヒラした。

 フッチーさんはデカイしムキムキだけど、どこか優しい雰囲気があるな。


「ありがとうございます。あ、よかったら一羽分の肉どうぞ」

「お、いいのか?」

「はい、新入りですしお近づきの印に」

「んじゃありがたくいただくぜ」


 差引十四羽分もってフッチーさんの家を後にした。


 昼前にヨドさんの家についた。

 もちろんラビット食べたいからね。


「こんにちはー」

「あぁ、お入りお入り」


 今日は機嫌よさそうだ。準備して待っててくれたみたいだな。

 ホールラビットの肉を見て驚いている。


「ほっほっほ、凄い量だねぇ、腕が鳴るわい」


 ヨドさんは年季の入った包丁を手に綺麗に捌いていった。

 そういや包丁とかってどこで手に入れるんだろ。

 鉄製品ってのは王都なのかな?


 深入り鍋でウサギ肉を炒めると、肉特有のいい匂いがした。

 塩コショウしてから、仕上げにドロッとしたソースで炒めて完成だ。


「ほい、できたよ」

「「「おおお」」」


 肉がテカっとしてて美味そうだ。

 シンプルな調理だけど、いい肉にごちゃごちゃやるのは野暮ってもんだ。


「「「いただきまーす」」」


 肉にかぶりついた。

 う、美味い。ウサギってこんなに美味いのか。

 鶏肉っぽいけど、もっと野性味があって『肉!』って感じだ。

 味付けもいいな。

 ちょっと甘~いソースが最高に美味い。

 甘味と塩加減、肉の美味さが絶妙だ。


 そして、パンがめちゃくちゃ合う。

 前回のサンドイッチと同じパンだ。灰色っぽい色でお世辞にも美味しいパンではない。

 だけど、一緒に食うと最高のパンに変身する。


 こ、こんなにご飯に感動したのいつぶりだろう。

 体が喜んでいる! 「うーまーいーぞー!」といって光りだしたい気分だ。

 一心不乱に食った。


「……このソース」

「あぁ、レッドベリーだよ。

 本当はブラックベリー系のソースを使ったほうがいいんだけどねぇ。

 あんたたちは若いからね、甘目のレッドベリーに少しイエローベリー使って味付けしたんだよ」

「最高に美味いっす!」


 ヨドさんは満足そうだ。 


「レッドベリーもいいもんだろ、お嬢ちゃん」

「はい、また採ってきます」


 設楽さんも大満足みたいだ。左口元にソースがついてて可愛いぜ。

 ヨドさんは少し嬉しそうな顔をした。


「そうさね、明日は森に行くのかい?」

「そのつもりですね。ホールラビットを捕りつつ、山側まで行ってみようかと」

「んじゃ、あたしも行こうかね」

「おばあちゃんが? いいんですか」

「年に何回か山にはいくんだよ、材料採りにね。

 いつもはハンターたちにくっついて北山までいくんだけど、西側もなかなか面白そうだしね」

「そりゃありがたいな!」


 先生も興奮している。確かに願ってもない提案だ。

 ヨドさんの知識を得れる絶好のチャンスだ。


「お嬢ちゃんにも、森の恵みを教えてあげないとね」

「え?」

「レッドベリー以外にも色々あるってことだよ」


 ばあちゃんがニンマリ笑った。ガチ魔女だわ。


「それはそうと、肉はどうするね」

「あ~そうですね」


 一羽だけ受け取って、後はおばあちゃんに預けた。

 保存用に加工してもらうことと、おばあちゃんにも

 お裾分けとして一羽渡した。

 というか必要分もらってくださいと伝えたら、

 「ばばぁはそんなに食わないんだよ」と怒られた。


 明日は朝一で家に来ると約束して別れた。


 ホールラビットのお肉一羽分はアイシャさんに渡した。

 世話になりっぱなしだからね。

 ヨドさんの家でベリーソースで炒めてもらったら激ウマだったことを伝えた。


 後日談だが、アイシャさん経由でホールラビットの美味さが広まる。

 いつしか幻の食材として珍重されるようになる。

 幻って言っても結構簡単に捕れるんだけどね。

 先生様様です。


 それはまた先のお話。

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