第7話 腕輪付きの勇者

 ベルナルド王国の中心部、王都。とても発展しており、人々もとても多い。それらのほとんどは黒髪だ。中心部だけあって、他色への差別は根強い。差をつけられるどころか、追い出されるほどのものだ。


 それでも、それ以外に事件はほとんど起きることはない。それに、起きた事件も迅速に解決される。治安はいいが、差別意識は強いというベルナルドの国柄が色濃く出ている。


 そのベルナルドの王都の中にそびえ立つとても大きな城が見える。王族が住んでいる城だ。内部には豪華な装飾や高価な絵が飾られている。


「失礼します、お嬢様」


 コンコン、と扉を叩く男が一人。この城に仕えているうちの一人だ。城の一室にそのまま入る。

 中の部屋も同様に豪華な装飾などがなされていて、大きなベッドや机など、様々な物が置かれている部屋にしてはやけに大きなところだ。


「何?」


 中にいるのは、黒髪を腰ほどにまで伸ばしている少女だ。その容姿はとても美しい。艶のある黒い髪はサラサラで、あどけなさを少し残した綺麗な顔立ちをしていて、まるで天使のようだ。触れれば消えてしまいそうな儚い少女だ。


「レジスが魔族の襲撃を受けました」


「へえ、面白そうな話ね。お父様にこのことは伝えたの?」


「既に伝わっています。どうすべきか軍の連中でも呼んで話し合ってるんじゃないですかね」


「まあ、そうね。勇者でも送るんじゃないかしら」


 ため息しつつ、少女は肩をすくめる。


「勇者、ですか」


「今、魔族とは小競り合いしかしてないわ。けれど、レジスが攻めこまれてしまった。つまり、本格的にあちらは人間侵略するってこと。魔族領から一番近いんだから、当然ベルナルドが戦場になるわ。だったら、勇者に頼るでしょうね」


「なるほど、お嬢様は相変わらず聡明ですね」


 顔色一つ変えず答える男に、少女は嫌そうに顔を歪める。


「あなた、最初から理解していたんでしょ。わかるわ、そういうの」


「バレていましたか」


「わざとらしいのはやめなさいよ。腹が立つわ」


 少女は男を睨み付ける。


「失礼しました。しかし、お嬢様には思わしくない状況なのでは?」


「まあ、そうね」


「お嬢様は勇者を嫌悪してますからね」


「そうね。でも、ベルナルドにそれほど勇者はいない。問題は、他国よ」


 心底嫌そうに、少女はため息をつく。


「そうですね。きっと、ベルナルドへ恩を売ろうと、アリシア連合が勇者を派遣してくるでしょうね」


「それは嫌だわ。勇者大国のアリシアなんかに来てほしくないもの」


「では、どうしますか?」


 クスクス、と少女は笑う。


「大事になる前に、さっさと落ち着けさせましょう。国民を慌てさせればそれだけ、勇者に頼ってしまうもの」


「なるほど。勇者のない国作りの一歩ですね」


「ええ。さあ、準備をしましょう。王族自ら、彼らを助けてあげましょう」


 そうして、少女は立ち上がる。


「いくわよ、ヘルシンス」


「ええ。ベルナルド王国第一王女、カティアお嬢様」





 近くから聞こえるのは悲鳴。近くに見えるのは血液。


 そして、迫ってくるのは魔物。阿鼻叫喚の地獄絵図の中、アリアは人ごみに流される。


 気づけば、どこか知らない場所まで来てしまっていた。逃げ惑う人々も散り散りになって、アリアたった一人になっていた。


「に、逃げなきゃ……」


 シュバルツも、ラディアも近くにはいない。アリアはたった一人、戦えるはずもない。動物相手ですら殺されかけたのだ、勝てるわけがない。


「た、たすけ……」


「だれかぁ……」


 だが、逃げようとするアリアの足は止まる。人々の悲鳴を聞いて、逃げ出すわけにはいかなかった。

 もう、アリアは傷つく誰かを自分に重ねることはなかった。嫉妬を抑えるためとして、自分に重ねて人を助けてきた。それはいつしか、仮初めの良心としてアリアの中に生まれた。


「"ヒール"、"ヒール"、"ヒール"!」


 だから、アリアは傷ついている人を見ては、ひたすらに回復魔法をかけた。魔方陣が現れて、暖かい光が負傷した人々を包み込み、傷を癒していく。


 それでも、女神の回復がいかに優れているとしても、限界はある。死んでしまった人にはまったくの効果がないのは当然で、すでに体の一部を大きく欠損してしまった人は傷を塞いだとしても、その部位を取り戻すことはない。


「き、傷が癒えて……なっ、こっちに来るな! うわああああっ!」


「やめろ、やめて……ぐあああああっ!」


 ――そして、癒したはずの人々はアリアの目の前で魔物に無惨にも殺されていく。


「な、なんで……」


 結局のところ、魔物を排除しなければ何も変わらない。例え、人を癒せたとしても魔物と魔族がいる限り、人は傷つけられて殺されていくのだ。


 アリアの中で、何かが崩れていく。自分の無力さを思い知らされる。胸が苦しい。これ以上、人が苦しんで死んでいくのを見ていられない。


 が、そんなアリアを放っておくわけもなく、魔物の向ける力の矛先は、当然アリアにも向かう。近くの人々を殺してしまえば、次に狙うのはアリアになる。

 唸り声を上げて、魔物は次々とアリアに迫ってくる。


「……こ、来ないで!」


 周囲の人々はすべて――死に絶えた。近くに生存者はいない。すべての魔物がアリアに迫る。アリアは必死に逃げる。走って、走って、追いかけてくる魔物を振りきろうとする。

 ただ、女神であるアリアはとても貧弱だ。魔物との身体能力の格差はとても大きい。逃げ切れるわけがない。


 ――もう、ダメ。


 と、思ったその時。上空に魔方陣が浮かび上がる。ビリビリと、その魔力を感じる。それに影響されてか、魔物の動きも止まる。


 そして、魔方陣に風が集まる。風が収束して旋回する。近くのごみが巻き上がり、竜巻のように形成されていく。


 それはそのまま、地面に落ちていく。


「きゃああああっ!?」


 近くの家々と共に、アリアと魔物も一緒に吹き飛ばされる。凄まじいその力に魔物は吹き飛ばされるだけでなく、体の一部に恐ろしいほどの風の力によって抉れていたり、凹んでいたりと、相当なダメージを受けている。


「あたた……」


 アリアは、事前に防御魔法を体の表面に貼っていたからこそ、衝撃を軽減して吹き飛ばされるだけで済んだ。


「あれ、これ……」


 よく見ると、その防御魔法も崩れつつある。女神の防御魔法はそう易々と破壊される代物ではない。あの魔法は相当強いものらしい。


 こんな風の魔法を使う心当たりは一つしかない。


「ラディアさん!」


 心細かった。一人で、こんな場所を歩きたくはなかった。何せ、アリアには何もできなかった。魔物から身を守ることも、人を救うこともできなかった。


 だから、アリアは心の拠り所を求めた。ラディアに会える、その気持ちがアリアの心に光が差し込ませる。アリアは走った。


 そうして、ラディアとアリアは再開した。所々、血に濡れたラディアは少し怖かった。

 でも、アリアはとても嬉しかった。ラディアと過ごした日々は短い。それでも、自分を助けてくれた仲間だ。一緒にいるだけで、とても落ち着く。残りは、シュバルツと出会えばパーティも揃う。アリアは気分よく、歩き始める。




「君が生きてると、きっとよくない」


 ラディアの体に、深々と槍が貫いて、引っこ抜かれる。

 力が入らなくなって、足元から崩れて、座り込む。腹の穴から止めどなく血が流れて、体が冷たくなっていく。


 ――ああ、もう私はダメらしい。


 なんて、つまらない人生だっただろうか。もっと、生きてみたかった。と、今さらラディアは後悔する。

 ラディアを貫いた少女は、ラディアの様子を見て、こちらに背を向ける。もうこちらに興味はないとでも言うように。

 でも、ラディアはそれを追うこともできない。致命的な一撃を受けてしまった今、戦えるはずもない。


 ――それにしても、アリアには悪いことをしてしちゃったわ。本当は、勇者にするためにパーティに誘ったのに。


 立とうとしても、力がほとんど入らない。


「ラディアさん!」


「なに……よ……」


 必死に振り絞っても、声が出ない。ラディアは力なく笑う。まるで、自分が滑稽そうに見えた。口から流れ出てくる血が、喋ることすら困難にする。


「今から、回復魔法を!」


「無駄……よ……」


 ラディアの声を聞いて、アリアはぐしゃぐしゃに顔を歪めてしまう。目に涙が溜まっている。


「"ヒール"!」


 ラディアの体を包み込む光は暖かい。痛みも和らいでいく。


「な、なんで! "ヒール"! "ヒール"!」


 それでも、ラディアの体から流れる血は止まらない。


「……っ」


 それを理解してか、アリアは泣き始める。涙がアリアの頬を伝う。既に、ラディアは手遅れなのだ。少しだけましになるだけで、消えていく命を繋ぎ止めることはもうできない。


「アリア」


「……なんですか」


「せっかく……だから……あげるわ」


「これは……」


 必死に力を振り絞って、ラディアはアリアに手を伸ばす。


「そう……ね。私の……冒険者として生きた……証ね……」


 そう、それはラディアが冒険者である証明であるヴァイスプレートと今までずっと戦ってきた相棒であるナイフの魔道具。


「受け取れません! これは、ラディアさんがこれから……」


「だって……私、これを使う……時間がもう……ないもの……」


「で、でも!」


「いいから、受け取って……」


「……」


 アリアは言葉を返せなかった。もうわかっている。ラディアは助からない。それでも、認めたくない。受け取ってしまえば、ラディアが死んでしまうことを認めてしまう。

 するりと、ラディアの手からナイフとヴァイスプレートがこぼれ落ちる。


「あはは、もう力が……入らない……みたいね」


「ラディアさん……」


「アリア、あなたは……笑って……生きて……」


 がくり、とラディアの体が項垂れる。


「ラディアさん? ラディア、さん……? ラディアさん!」


 ラディアからの返答はない。どれだけ呼んでも、ラディアは答えない。

 もう、ラディアの体に命は宿っていない。ラディアはもう、死んでしまった。


「ラディア……さん……」


 目から涙がこぼれる。視界がぼやける。ポロポロ、と雫がラディア――だったものに降り注ぐ。


「うああ……あぁ……ああああああああっ!」


 アリアは咽び泣いた。声を枯らして叫んだ。声が出なくなるまで、涙が出なくなるまで、ずっとずっと、アリアは泣いた。悲観の感情がいつでも、胸に溢れてくる。


 泣き止んだ時には、心にぽっかりと穴が空いた気がした。

 そして、ラディアのヴァイスプレートとナイフを拾い上げる。自分とラディアのヴァイスプレートに紐を通して、首からペンダントのようにして吊るし、ナイフに鞘をつけて鞄の中にしまう。


 そして、誓った。あの槍を持った少女を確実に許さないことを。アリアは心に復讐の炎を灯した。


『なるほど、折れるわけでもなくそこで立ち上がるのですか』


 声がする。性別の区別がつかない声だった。風が吹き荒れる。何かが形を成していく。吹き荒れる風が渦巻いて、空気の塊のようになって人の形になる。


 なんとなくわかる。風で姿を現す人でない何か。これはきっと――風の妖精だ。泣き腫らした目で、アリアはそれを視線を向ける。


『あなたは精神面がとてつもなく脆いと思っていました。だからきっと、ラディアが死んでしまったら立ち直れない、と思っていたのですが』


「……風の妖精さん、ですよね」


『そうです。私こそが風の妖精。ラディアへ加護を授けていたものです』


「……私に文句でも言いに来たんですか?」


 アリアの存在がなかったら、ラディアは死ななかったかもしれない。アリアが強ければ、ラディアを守れたかもしれない。そんなあり得ない『もしも』の話がアリアの頭の中で浮かんでいた。

 そして、彼女を助けられなかった自分自身を責めた。ラディアを殺した少女への憎しみとこの自己嫌悪に近い自分自身への追及でその脆弱な精神をなんとか保たせていた。

 だから、そんな風にこの風の妖精もどうしようもない文句を言いに来たのかもしれない。


『いいえ。ラディアは、私の忠告を無視してあなたを助けにいきました。あなたとラディアの関係はそれほど深いものではない。それでも、あの子は助けにいった。あれは多少醜悪なところがあったとしても、根底から善良なのです。だから、そんなあの子の意思を尊重しましょう』


 だが、驚くことにこちらを責めてくることはなかった。風の妖精は穏やかな口調で言葉を紡ぐ。


『それに、あなたはラディアを必死に治療しようとした。そんな相手に文句など言えるはずもない。私は、そんなあなたに一つの提案をしに来たのです』


「提案?」


『はい。あなたはラディアから冒険者としての人生の証を託された人物。そんな人物なのであれば、彼女に加護を与えていた私からも何か差し上げようと』


「……私はたまたまラディアさんと一緒にいただけです」


『それでも、ラディアからしてみれば最後に誰かと出会って自分の持ち物を託せただけでも、救われたと思いませんか?』


「……」


 アリアにはラディアの気持ちはわからない。ただ、こんなちっぽけな自分に生きた証をくれた。それでラディアが救われたのかはわからない。だから、何かをこの風の妖精から受け取っていいかもわからない。

 そもそも、レジスが襲撃されたのすら自分のせいかもしれない。易々と受けとるわけにもいかない。


『受け入れられませんか? でも、私があなたに差し上げるものも、運よくもらうぐらいの気持ちでいいのです』


「そ、そんな適当な……」


『私はラディアの最後の言葉に背かないように、あなたに生きて欲しいのです』


「……」


 アリアに笑って生きて、と言ったラディアの最後の言葉。きっと、ラディアはそんなことを思わないだろうが、自分の分まで生きてくれと言われている気がして、とうとうアリアは風の妖精の提案を断れなかった。


「……わかりました」


『それでいいのです。では、私からはあなたに加護を授けましょう』


「加護、ですか」


 ラディアのことを数日だけだが見てきたので知っている。あのナイフの魔道具のこともあるが、彼女の風の魔法を操る力は相当のものだった。あれが加護だ。風の魔法だけはラディアの右に出るものは早々いないだろう。加護さえあれば女神のデメリットがあっても風の魔法を十分に扱えてしまうだろう。


『と言っても、ラディアの加護をそのままあげるつもりはありません。私はそもそも、ラディアのことをずっと認めていたのであってあなたには所詮ラディアへの義理を通す程度のものです』


「なるほど」


 言われてみれば風の妖精とはラディアを通しただけの仲でしかない。いきなり認めてもらえるはずもないだろう。


『なので、あなたに授ける加護は一日に二度までしか働きません。それ以上は対象外です』


「なるほど、二回までは風の魔法がまともに使える、と」


『そういうことです。ラディアの死を、どうか無駄にしないであげてください』


 風の妖精は、風を集めて形を成したそれでアリアにそっと触れた。空気がアリアの頬を撫でる。スッとそのままアリアの胸、心臓のある位置を指差す。


「……っ」


 びくんっ、とアリアは仰け反る。体に何かが入り込んでくる。やけに息が苦しい。

 アリアの胸部に、魔法式が風の妖精から送り込まれて体内に入っていく。


 そして、小さな魔方陣が浮かんでスッとアリアの体内に消えていく。体に何かが沸き上がる感覚がする。魔力が渦巻いていくような感覚。これが、加護を得た実感なのかもしれない。


『それでは、もう会うこともないでしょう』


 風の妖精は、その姿を消していく。渦巻いていた風が消えて、形が完全になくなってしまった。

 とりあえず、アリアはこれで風の魔法を扱えるようになった。まるでラディアの忘れ形見を一気に受け取ってしまったような形だ。アリアはラディアのヴァイスプレートをぎゅっと握りしめて、念じる。加護をいきなり使うのだ。


 アリアの体の周囲を風が纏う。風によって、自分の動きを補助するもの。魔法とすら言えるのかわからないもの。それを使って、アリアは今まで出したことのないような速度で走る。

 アリアは――ラディアの死体の残ったこの場所を後にする。


 閃光と爆音、絶叫と笑声。相変わらずレジスの様子は混沌とした戦場だ。嫌でも、戦いの痕跡が目につく。まだ、かなりの数の魔物がこの町を徘徊している。ゆっくりと進んでいられない。今の現状がどうなっているかは知らないが、今はシュバルツを探すことが先決だ。


「アリアさん!」


 走っているとこちらに話しかけてくる声が一つ。風を纏ってかなり素早くなったはずだが、それに追い付いてくる。敵ではない。聞き覚えのある声だ。それを確かめるために、アリアは足を止める。


「……ユーミットさん」


 立ち止まって、その姿を確認する。短剣以外の武装を持っていない少年。アリアが一度助けたことのある、少しだけ面識のある少年、ユーミットがそこにいた。


 短剣しか持っていないが、それでもこの危険地帯で平然と生き残っている。死にそうになりながらも依頼を果たして帰ってくる辺り、案外とユーミットは強いのかもしれない。


「よかった、アリアさんが無事で」


「……私は無事ですよ」


 ラディアさんは死んでしまいましたけど、とは言えなかった。例え、自分が無事だったとしても仲間を一人失ってしまったのは事実だ。なんだか、それを抉られたような気がして、ぶっきらぼうに返した。

 だが、ユーミットはそんなアリアの気持ちを知っているはずもない。ただ、ユーミットはアリアの無事に安堵している様子だった。


「とりあえず、町を出ましょう」


「嫌です」


「……なぜです?」


「だって、仲間を探しにいかないといけませんから」


「でも、アリアさんは非力です」


「……」


 容赦のない一言にアリアは黙り込む。自分が非力だったからこそラディアは死んでしまった。非力だなんて、言われなくてもわかりきっていることだ。


 けれど、そんなことを後悔している暇もない。シュバルツは大切な仲間だ。ラディアは、アリアを助けに来てくれた。風の妖精の忠告を無視してまで。彼女の想いを少しでも託されてしまったのだから、仲間を見捨ててはいけない。


「それでも、私は探しにいきます」


 だから、アリアははっきりとそう答えた。


「……そうですか」


 その様子を見て、ユーミットはアリアの固い意思を感じたのか、それ以上アリアに町を出るように、とは言わなかった。


「だったら、仲間と合流するまでは僕が一緒にいましょう」


 代わりに、一緒に行動しようと提案してきた。

 確かに、アリアは非力でユーミットは難易度の高い依頼をこなしている実績のある冒険者だ。頼りになるのかもしれない。


 が、まだユーミットのことを信頼はしていなかった。素直に「はい」とは言えなかった。


「あー、僕の実力に不満があるんですね」


「いや、そういうわけじゃ……」


「大丈夫ですよ」


 ユーミットはアリアの言葉を遮ってそう言う。

 急に、ユーミットは右手をアリアに見せて、袖をまくる。手首に宝石の埋め込まれた腕輪をつけていた。見たこともない豪華なものだ。


 そして、それにユーミットは触れる。目映い光が視界を覆う。


「――僕は勇者ですから」


 アリアの視界に現れたのは――傷一つない白銀の鎧、それから光を灯した見るからに神聖そうな剣を装備したユーミットの姿だった。

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