第5話 日常が崩れるまで
人間の歴史は戦乱の歴史である。
例え、地球に存在する人々が機械を作り、様々な形で発展しようと、この異世界では常に戦いが起きているようなものだった。明確な違いは、他種族が存在することだろう。
この世界では、人の形をしている種族が三つ存在する。
一つは人間族。この世界で一番数の多い種族。そこそこの身体能力とそこそこの魔力を持ち合わせて、様々な道具を作ることに長けた種族。ラディアたちどころか、女神であるアリアも一応これに含まれる。
二つ目は獣人族。持ってる魔力はとてつもなく少ないが、身体能力は極めて高い。そして、人の形をしていながら獣の特徴的な部位も残している。
そして、三つ目が魔族。人とほぼ同じような容姿をしていながら、身体能力や魔力などの個々の力は人間よりもずっと強い。魔物を従えて、人間を襲うと言われている。
この魔族と人間はずっと争いを続けている。人間の歴史は、常に魔族との戦いの歴史である。今は一時的に戦いが静まりを見せているが、その戦いの再開はすでに間近に迫っていた。
人間の作り上げた国のうち、ベルナルド王国は魔族たちの住んでいる魔族領と呼ばれる地域の一番近くに存在している。その中でも、一番近くに存在してあるのがレジスという町だ。アリアたちが冒険者として拠点を構えている場所である。
レジスの南には小さな平野があり、さらにそれを過ぎると森がある。魔物が大量に住んでいる場所であり、そこには魔族が潜んでいるとも言われている。冒険者がそこへ行き、それらしき存在と対面したという話もある。
魔族、魔物から身を守るためにベルナルド領土には結界が施されている。魔物や魔族のみが人の気配を嗅ぎ付けないようになる代物であり、さらに見つけても侵入することは極めて難しい。
だが、今それが壊された。それを知らせるためのけたたましいサイレンが鳴り響く。
それと共に大量の魔物が町へ雪崩れ込んでくる。魔族が魔物を先導している。民衆は逃げ惑い、パニックになる。
アリアたちはパニックに巻き込まれてそれぞれバラバラになる。ラディアたちとはぐれたその先で、近くの人々は魔物に襲われて、死んでいく。魔物の爪が目の前の人間をまっぷたつに引き裂き、血がアリアに降りそぞく。
人の命はここまで軽いものだっただろうか。アリアの眼下に広がる光景は、その命が無慈悲に蹂躙されていく光景だった。地獄絵図とはこういうものを言うのだろう。
アリアははじめて祈った。――勇者がこの場にいてくれますように、と。
レジスは間もなく魔族の支配下に置かれる。
のちに、『レジス攻撃』として語られる出来事である。
◆
ひとまず、アリアの起こした事件も静まり、はじめての依頼を受けることになった。受ける内容はラディア、シュバルツの二人が決めてくれるのだとか。アリアはどの依頼がいいとかはよくわかっていないので、ちょうどいいかもしれない。
依頼を受注して町から出て、長い雑草ぐらいしか視界を遮ることのない平野を歩いていく。度々、ここら辺で肉食動物も出るらしいが、今日は何も出てこない。ラディアもシュバルツも、討伐系の依頼を主に受けているらしい。よくよく考えれば、ヒーラーが必要なものと言えばこれぐらいなものだろう。
ラディアは風の魔法が得意らしく、それを駆使して敵を引き付けて、シュバルツが後ろから魔法で敵を仕留めるというのがいつものやり方らしい。
「さて、と。やりますか」
スッ、とラディアは懐からナイフを取り出した。何かしら文字が柄に彫り込まれてある、魔法式だ。さらに、刀身には魔方陣まである。すぐに魔法を使い、なおかつその魔力を軽減するための武装だ。魔道具、と呼称されてるタイプのもので、それなりに値が張る。魔法を使うためだけじゃなく、ナイフの魔道具であれば、ナイフとしても一流の物のはずだ。
「アリア、今日はあんたはほぼ見学でいいよ。たぶん、出番ないから」
ナイフを握りしめ、真剣な目付きになる。それを見て、アリアは少しゾッとした。肌にピリピリと殺意が伝わってくる。
「まだ、敵の姿すら見てないのに何をそこまで殺気立ってるんだ」
そんな殺気をものともせずに、シュバルツは呆れている。
ラディアもだが、シュバルツも相当な実力者らしく、魔法で攻撃されたり殴られたりしても防いでくれた防御魔法を、ビンタしただけなのに防御魔法を解除していたりとか、普通ではないとアリアは思っていたが、話を聞くところによると凄腕の魔導師として名を馳せているらしい。
アリアの予想よりも、二人とも強いと噂を耳にしたので、今はそれが見られる、と期待で胸がいっぱいだ。
「今日の獲物だけど、動物じゃなくて魔物。たぶん、アリアははじめて見るよね?」
「そうですね」
「魔物っていうのは、本当に動物と比べ物にならないほど強いよ。どんな雑魚でも、一人で勝てるなんて思ってたら死ぬからね」
「……は、はい」
凄まじい気迫をもって、ラディアはアリアへ注意する。魔物のことは知っているだけで、アリアは見たこともないので、その脅威はわからなかったが、ラディアがここまで言うのであれば本当に危険な化け物なのだろう。
「……来るよ」
ラディアの声で、アリアは後ろに下がる。ラディアはナイフを構えて、それと対照的にシュバルツは欠伸をしている。
アリアも、何かを感じ取った。嫌な気配がする。直感的に拒絶している。
ズシン、と重低音が響く。何かしらの足音だろう。緊張が高まる。
――ガザカザッ
草木を分けて、こちらに何かが進んでくる。
そして、ついに敵は草むらから飛び出してきた。人よりも一回りほど大きな体に鋭い爪と牙を持った熊だ。ただ、毛が覆っているであろうはずの皮膚はまるで岩石のようで、ごつごつとしている。
ロックビースト、と呼ばれる種類の魔物で、その中でも熊の形をしているタイプだ。
「"身体強化"」
ラディアの体を青い光が一瞬駆け巡る。
"身体強化"、身体能力を向上させる魔法。ただ、向上される身体能力は一定であり、魔力があればどれだけでも上がるという代物ではないが、とても魔力消費量が少ない。これを使うことにより、ようやく身体能力で劣っている人間はようやく動物や魔物と同じ土俵に立てる。
一瞬でラディアは魔物へ詰め寄る。ナイフの魔方陣と魔法式が光り、ラディアの動きと共に突風が吹き荒れる。彼女の動きをサポートしてるのかもしれない。
ロックビーストは近づいてくるラディアを追い払うように爪を振るう。アリアには辛うじて視認できるほどの速度だが、それを難なく避けて、体勢が少し崩れたところをナイフで眼を抉った。
――グアアアアアッ!
迸る絶叫。
「"ストームブラスト"」
それに畳み掛けるように、ラディアは風の魔法を発動させる。ナイフから旋回する風をまるで弾丸のように敵の頭部に放ち、ロックビーストは頭をえぐられてそのまま絶命する。
目で追うのがやっとの出来事で、頭がまだ追い付いていない。魔物というのがこれほどまでに強いなんて思わなかった。襲ってた狼でさえ、アリアには強敵だったのに、魔物の強さはあれを容易に凌駕している。何よりも、ロックビーストは魔物の中では弱い。魔物というものの強さ、それに抗うことの難しさを思い知った気がした。
――ガサガサガサガサッ
そんな風に呆然としている暇もなく、次々に出てくる魔物たち。
魔物は一匹で行動することは少ない。群れで行動するのが基本だ。ロックビーストも当然その一種で、ごつごつした肌の狼、熊など様々な種類のロックビーストが群がってくる。
「シュバルツ、そろそろあんたの出番だよ」
と、一言声をかけると敵の群れにラディアは突っ込む。人間が一歩踏み出すぐらいの瞬間に敵の群れに到達し、攻撃を仕掛ける。ナイフの魔方陣が光り、突風が巻き起こり、魔物たちの動きを阻む。
「"サンダーストーム"」
その隙に、シュバルツは四方八方から魔方陣が展開させる。魔方陣に熱が籠り、遠くからでもそれを肌で感じる。
そして、閃光が辺りを包み込む。電流が魔方陣から放たれて魔物を一瞬で焼き尽くした。
「さーて、今回もこれで終わりってわけ」
いつの間にかロックビーストの群れから離れていたラディアがアリアたちの近くで姿を現す。
「……」
あまりにもすぐに終わってしまって、アリアは一人、唖然としていた。なしくずしに仲間になった二人だが、とても強かった。
「どうしたの、アリア」
「……私、本当にやることないですね」
「まあね、私たち慣れてるしね。私はともかく、シュバルツはすっごい強いし」
「そうかもな」
あまり興味無さげに曖昧に返事すると、シュバルツは倒した魔物の死体へ近づく。それなりの硬度があるごつごつとした皮膚がシュバルツの魔法で炭になっている。焦げ臭い。その魔物の部位をナイフで剥ぎ取って、袋に入れる。ラディアも同様のことをしている。
「な、何してるんですか?」
「魔物の部位はお金になるからね。そもそも、敵を倒した証明になるわ」
「なるほど、そういうことですか」
冒険者の基本なのかもしれない。死体に極力触りたくないので、ラディアたちに任せることにした。
アリアはなにもすることなく、はじめての依頼を終えた。
そのまま、三人ともギルドに帰る。ロックビーストの部位を確認してもらい、買い取ってもらった。こういうのが武器や防具の素材として加工されるのだろう。
「さーて、三人で初の依頼達成ってことで、お祝いだ!」
とラディアが言い出したせいで、ギルド内でお祝いすることになった。ラディアはマスターの出すお酒をがぶがぶと飲み干している。酒だけでなく、食べ物も頼んでその日は盛大に食べた。ちゃんと料理されたものを食べるのは久々で、とても美味しかった。
「今日も疲れたー」
「酒でも飲もうぜ」
「その前になんか食わねえか?」
そして、同じようにギルドに戻ってくる冒険者もいる。冒険者はだいたい暗くなる前には仕事を終えて戻ってくる。
「今日は、やたらと疲れ……た……」
バタリ、とその場に倒れ込む冒険者が一人。貧相な服装をして、短剣だけを持っている少年で、腹部の服に血が滲んでいる。
「あいつ、無茶な魔物退治でもしたのか……?」
「たまにいるが、よくここまで戻ってこれたな……それよりも誰か早く治療を!」
「ああ、そうだな。俺はちょっと呼んでくる!」
周囲の冒険者たちがざわめく。
その中、アリアはシュバルツから言われた言葉を思い出していた。
もし、自分があれと同じ状況だったなら、血を流して倒れている状況だったらなら、それはきっと辛くて苦しい。
そして、何よりも――このまま死んで人生が無意味なものになるというのはきっと、アリアは許せない。
そういう風に考えると、自然と彼の方に足が動いた。
「"ヒール"」
そして、魔方陣を起動して魔法を発動する。暖かな光が少年を包み込み、傷を癒していく。
「あ、ありがとう……」
回復魔法をかけてもらった少年がアリアにお礼を言う。よく見ると、手首に腕輪をしている。少しだけ、頬を赤くしている。アリアの顔に見とれていたのかもしれない。
「気にしないでください」
シュバルツの助言に従って、ただ自分のためにやったことだ。お礼を言われる筋合いはなく、きっとこういう風に生きていかないと生きている人々すべてを憎んでしまう。それを防ぐための行為であって、決して感謝されることではない。後ろめたい気持ちになって、少年から目をそらす。彼が、ほんのりと頬を染めていることには気づいていなかった。
「いえ、助かりました。僕の名前はユーミットです。あなたは?」
「私はアリアです」
「アリア、ですか。覚えました。また今度、お礼をします」
そんなこと別にいいのに、と断る暇もなく、手を振ってユーミットはどこかへ行ってしまった。
「なんだ、ユーミットが倒れたって聞いたから来てみたら、もう回復魔法をかけてくれていたか。すまんな、あいつはよくこうなるんだ」
騒ぎを聞き付けて、マスターがやってきた。頭を押さえてため息をついている。マスターの悩みの種なのかもしれない。
「まあ、得意ですから」
「だろうな。また何かあったらよろしく頼む」
「ええ」
騒ぎの中心のユーミットはどこかへ消えたので、騒ぎ自体も収まった。マスターも元の仕事に戻る。アリアもラディアたちの元へ戻る。さすが女神は回復が得意だ、などという話をしながら食事を続けた。
そのまま、その日は宿舎に戻って眠った。
次の日も、同じように魔物を倒しにいった。魔物を討伐する依頼はいくらでもあって、敵が強ければ強いほど、もらえるお金は多い。昨日のは銅貨を数十個ほどもらっていたが、今日は銀貨がもらえるものだそうだ。この世界の通貨は金貨や銀貨というものだそうで、どれも金属で紙幣はないらしい。
この日も、アリアは見学だった。ラディアが猛スピードで敵を撹乱し、シュバルツが魔法でなぎ払って終わった。
また、ギルドに帰ってくると傷ついたユーミットを見かけた。
「あ、アリアさん。昨日はありがとうございました」
傷だらけなのに、にっこりと笑ってアリアに挨拶をする。
「"ヒール"」
その挨拶に返事するよりも先に回復魔法をかける。
「あ、またまたすみません。この前のお礼をしようと思って……」
よく見ると、ユーミットは花束を持っている。見たこともない透明の綺麗な花だ。
「……もしかして、それのためにこれだけ傷だらけになったんですか?」
「お礼は相応の物でないといけないと思いましたから」
「……」
少年のまっすぐな視線を、アリアは見ることができなかった。きっと、彼は自分をいい人だと思っていることだろう。それをわざわざ否定するつもりはないが、その気持ちがアリアには重かった。
「アリア、受け取ってあげて」
「えっ、でも……」
「傷だらけになってまで手にいれたものが受け取ってもらえないのは悲しいし、あなたも別に嫌なわけじゃないでしょう?」
「そうですね。ユーミットさん、ありがとうございます」
自分が悪人にならないための行為でこんなものを受け取ってしまうのには罪悪感があったが、ラディアの言うことももっともだ。自分の気持ちを悟られないように曖昧な笑みを浮かべて、その花束を受け取った。受け取ったもらったことがよっぽど嬉しかったのか、ユーミットはとてもいい笑顔をしていた。
そして、依頼達成の報告をして報酬を受け取り、食事をする。
この日もそのまま、宿舎で眠った。
次の日も同じように魔物を討伐しに行った。
そして、この日も同じようにラディアとシュバルツが魔物をすぐに倒して依頼は終わった。
さすがに、三日も続けて傷ついているユーミットを見かけることもなく、今度は極めて健康的な状態だった。まるで、飼い主を待ってる子犬のようにユーミットはアリアの方へ寄ってくる。ユーミットと少し会話して、そのままいつものように食事をした。
数日、似たような日々を過ごした。アリアは依頼を受ける際はやることはなかったが、ギルドに帰ってみれば傷ついた人々を見かけることが度々あったので、その度に回復魔法をかけた。
そんなことを続けていると、すっかりとこの町の冒険者のヒーラーとして有名になってしまった。元々、ラディアもシュバルツもその強さ故に有名だったので、その二人と一緒にいるというアリアを気にしている人もいたのだが、今ではすっかり三人とも有名になってしまったという有り様だ。黒髪以外を差別している国だが、アリアはその美貌と回復魔法の力量によって差別されることはなくなった。
そんな風にアリアの噂も広まっていたが、三人ともいつも通り過ごしていた。
依頼をこなしていくうちに、シュバルツに支援の魔法を教えてもらった。
元々、アリアは防御魔法をすでに使えている。よく使っている"プロテクト"も一応、味方の支援に使うこともできる。アリアがこの前使ったように身に纏うこともできるので、仲間にそれと同じものをかけるということだ。
それと対照的に攻撃を上げる魔法もある。それを使い、効果的にラディアやシュバルツの補佐をしていた。
一緒に依頼をこなしていくうちに、二人の戦いを観察して、わかったことがいくつかある。
ラディアは"身体強化"以外にも、風の魔法を使って加速しているのがわかった。それ以外にも、空気を破裂させてその勢いで空中で移動したり、風で敵を拘束など器用に風の魔法を使っている。風の妖精の加護というのは瞬時にこれらの魔法をいくつも使えるものだ。風の妖精、というものがどういうものかわからないが、アリアの思っている以上にすごいらしい。
シュバルツは雷の魔法をメインとしている。その威力は弱い魔物であれば一瞬で倒す。有名な魔法使いという話もあるのも納得できるほどで、簡易な防御や敵の拘束、広範囲に渡る攻撃を行える。魔法であればだいたいのものは使えるらしい。
超速度と撹乱の前衛と超火力で魔法のエキスパートの後衛がいるのだから、アリアがやることがないのは当然だ。
そして、ギルドが終わるとたまにユーミットと会っていた。パーティはすでに結成しているので、一緒に冒険しようということはなかったが、度々二人で会って話をしていた。アリアにとっては危なっかしい少年にしか見えなかった。
「アリアさん、また会えて嬉しいです」
「今日もどこか怪我したんですか?」
「いえ、回復魔法をかけてほしいとかそういう話ではないです。ただ、会いたくて」
やたらと、ユーミットという少年はアリアに好意を寄せている。頻繁にユーミットから話をされるので、アリアは戸惑っていた。アリアに会う度に、にっこりと笑って話しかけてくる。
「なんでですか?」
「なぜ、と言われても。僕はアリアさんのこと、好きですから」
屈託のない笑みを見せて、ユーミットは言う。あくまで、好意であって告白ということではないだろう。何回か話していくうちに、このユーミットという少年は魔物を倒して人々を襲うことがないように、という理由だけで戦っているただのいい人だとわかった。だから、いいことをしてくれたアリアに好意を抱いているだけだろう、と。
仮に、アリアに恋をしていたとしても、アリアはイエスの返事をするつもりもない。
「そうですか」
だから、アリアの返事はいつも淡白なものだ。それなりに話をするとはいえ、ラディアやシュバルツの方が信頼している。
「アリアさんは前どういう依頼をしたんですか?」
「大きな魔物を討伐しましたね。ラディアさんが撹乱、シュバルツさんが敵を倒すっていういつものことですけど」
他愛のない会話をする。いつものことだ。そうやって、会話をするだけでユーミットとの時間は過ぎていく。
そうやって、彼と別れてアリアはいつものようにラディアやシュバルツと会って次は何の依頼を受けるのか話をするのだ。
異世界という危険な場所に足を運び込んだのに、なんとも順調に生活できて、アリアにとっては少し拍子抜けだった。こういうものは、自分も含めてだんだんと、強くなっていくものだと思っていたけど、そうでもないらしい。
「おい、アリア。またユーミットと会っていたのか?」
「はい、そうです」
「どうしたのよ、シュバルツ。嫉妬?」
ラディアはシュバルツをからかう。シュバルツはアリアにとっては一番、心を開いている相手だ。あのとき、彼が言ってくれた言葉は今もアリアを助けてくれている。アリアの偽善がいつも、アリアの苛立ちを抑えてくれている。そんなシュバルツに嫉妬されるのは、少し嬉しかった。恋、とまではいかないが確かな好意だ。
「そんなわけあるか。あいつはいつも、一人で冒険するわりに、選ぶ依頼は俺たちがやってるものよりも危険なものばっかりやってるから、あいつはどうやって生き残ってるんだろうなって思っただけだ」
でも、そんなこともなく、ただユーミットに興味があるだけだった。
ただ、ユーミットがどうやって生き残ってるのかというのはよく気になっていた。彼の持っている武器は短剣だけで、それだけでたった一人で戦っているとは思えなかった。
そして、その時にけたたましいサイレンが鳴り響いた。町の結界が壊れてしまった合図。それと共に魔物が雪崩れ込んでくる。
「だから、言ったでしょ」
魔物の群れが迫ってくる中、耳鳴りがした。
「君は不幸に巻き込まれるんだって。今日まで君にはいいことばかりだった。だから、逆に今日は君には悪いことばかり起こる」
ルルフの声だ。久しぶりに、アリアの前に現れ
た。
「――全部、君のせいだよ」
クスクス、とルルフは笑う。
「違う、私のせいなんかじゃ――」
否定する声は、悲鳴によって打ち消される。ルルフの姿はいつの間にか、消えていた。
アリアの平穏は一瞬にして崩れた。
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