5. 幻獣
メナスは宇宙から地球を眺めていた。地球は何事もなく青く輝いている。
「聖地はどこだ……」
彼はじっと目を凝らした。
昼の面と夜の面。視線の先に一つの巨大な城砦都市が浮かび上がった。夜の闇につつまれたその都市では禍々しいものたちがうごめいている。
「あそこか」
メナスは再び飛び、大気圏へと降下していった。
※
扉を破って闇の
それを目の当たりにしたザマとアギは思わず後ずさった。人智を超えた怖れと、捕食される、と原始的な危険シグナルがないまぜになる。ガイストのかん高い咆哮が教会の中に響き渡った。
「ん? もう一匹いるのか」
ドゥームセイヤーが察すると、影からもう一匹、ガイストが姿を現した。
「二匹も!」
アギはおびえた。
ガイストはさらに奥に踏み出そうとしたが、見えない壁にはじかれた。
「結界か」
ドゥームセイヤーが感心しながら見ると部屋の四隅に抜き身の宝剣が吊り下げられていて、それが結界を張っていた。
ガイストは結界を破ろうともがいた。もがく度に波紋が広がり、何度も見えない壁に押しのけられたが次第に結界の力は弱まっていった。
ザマがリボルバーの撃鉄を引き、構えた。
「ザインの女神曰く、<唯一なるもの>がこの宇宙の全てであり、全ては<唯一なるもの>の写し絵であると――」
ザマは経典の一節を唱えながら魔弾を発射した。銀の魔弾は手前のガイストに命中した。魔弾の命中を受けたガイストは一瞬にして塵となり消えた。が、もう一匹ガイストが残っていた。生き残りのガイストは激しく結界に体当たりした。結界が激しく歪んだ。部屋の四隅に置かれていた剣は大きく揺らいだ。
「剣を押さえないと!」
アギが駆け寄ろうとすると、ドゥームセイヤーが制止した。
「ふふ。剣呑、剣呑」
「あ」
ドゥームセイヤーが剣の紐を引きちぎってしまった。その瞬間見えない壁はシャボン玉がはじける様に消え、ガイストが礼拝堂に突入してきた。椅子が蹴散らされる。慌ててザマがリボルバーを構えたが、その前をふさぐ様にドゥームセイヤーが剣を構えた。
「危ない!」
ザマの言葉には耳を貸さず、ドゥームセイヤーは叫んだ。
「我が名は破滅の予言者ドゥームセイヤー。ガイストとやら、お前の運命は<滅殺>だ」
戦いが心に活力を与えた。ドゥームセイヤーは宝剣をなぎ払った。刃は無数の突きとなってガイストの体を刺し貫いた。ザマとアギはその光景を呆然と見守るしかない。ガイストはよろめいたが態勢を立て直すと、動きを止めた。二つの
「きゃっ!」
「うっ!」
必死に頭をかばったアギとザマの二人だが無事であった。みると、ドゥームセイヤーが宝剣で衝撃をはじいていた。刃の回りで電撃がほとばしった。
「今のは?」
アギは頭を振って意識をはっきりさせようとした。
「イーヴィル・アイ、邪視だ」
ドゥームセイヤーは宝剣を握り締めると再び剣をなぎ払った。
「はっ!」
宝剣の一振りが今度は空間を歪めてガイストを取り込んだ。ガイストは身動きできなくなった。
「ザマ神父、今だ」
その言葉に押されザマはリボルバーの引き金を引いた。が、銀の魔弾はわずかにそれた。隙が生じた。その隙をついてガイストは戒めを破り、向きを変え逃げ出した。それを見たザマとアギはへなへなと床にへたり込んだ。
ドゥームセイヤーは振り返ると二人をあざけった。
「ふん、神職がだらしないな」
「今のは……やばかった」
震えた声だ。
「あなたは……平気なの?」
「とにかく、私は後を追う!」
ドゥームセイヤーは教会を飛び出した。破られた戸からのぞく空は白みはじめていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます