3. 夜
ふとみると窓の外の光が赤みを増して差し込んできた。夜が近い。
「いかん、もう夕方か」
ザマがつぶやいた。
その言葉でアギは壁時計に目をやった。
「あら、時計が止まってる」
彼女は手首を返して自分の腕時計を確認した。
「これも! 止まってる!」
「む……」
ザマも思わず自分の腕時計、続けて別室の時計を確認した。
「これもだ」
時計という時計が全て止まってしまっていた。ザマとアギは思いがけない現象に震えた。二人はテレビジョンやコンピュータも確認したが、やはり正常に動作しない。
「今、何時?」
「分からん」
二人の様子が急に慌しさを増した。
「今日は屋敷のものに連絡してここに泊まることにします」
「その方がいいだろう」
「どうした?」
ドゥームセイヤーは慌しさの訳を尋ねた。
「夜が来るの」
アギはそう言ってバッグから携帯端末を取り出した。
「――通じない!」
通信もできない。
「SDSに救援を要請してくれ!」
アギはSDSという自警団を呼ぶべく通信端末のダイヤルをプッシュした。が、やはり反応はない。
「駄目です! 回線が麻痺してます!」
彼らは街の外で孤立したことをようやく認識した。
「これは……こんな事はかつてなかった」
ザマは震えた。
「ふふ。なあに、特に異常なし。我、状況を制しけり」
飽きたのか、ドゥームセイヤーは皮肉を口にすると外へ出ようとした。
「よしなさい。これは何かの予兆よ」
アギが制止した。
「面白くなってきた」
対するドゥームセイヤーは平然としていた。
※
夕暮れが近い。森の中を走る道路の片隅で一台の電気自動車が故障して止まっていた。インホイールモーターが焼きついて煙を噴いている。片隅で若い女性が車を何とか動かそうと努力していた。
「動いて! 動いてよ!」
娘はホイールを蹴飛ばした。が、状況は一向に改善しない。
彼女はハンドバッグから携帯端末を取り出した。辺りは既に薄暗くなってきている。
「ええ、ええ。とにかく車の位置情報を送ります。すぐにお願いします」
『――落ち着いて。もうすぐ日が暮れますから車の中に退避してください』
スピーカーからそう指示する声がした。
通信を切った娘は不安げに辺りをうかがった。森の闇は深い。そのとき、ひんやりとした冷気が流れてきた。その冷気に打たれた背筋を悪寒が奔った。死がすぐそこに迫っている。恐怖に駆られた彼女はドアノブを引いて車の中に入ろうとした。だが、ドアは開かない。
「開いて!」
叫んだが無駄だった。
かすかな気配がして娘は振り返った。だが、そこには何もいない。ほっとした娘はふとサイドミラーを見た。ミラーの中には禍々しいものが今にも襲わんと身構えていた。
「!」
怪物は目にもとまらぬ速さで娘の首筋に取り付くと、生き血を吸った。やがて肌から生気が失われていき、娘はその場に崩れ落ちた。怪物は満足したのか闇の中へ姿を消した。
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