3. 五十猛、生徒会室に突進する
クラスにも部室にもいないとして、他にどこかあったか? もしかすると生徒会室だろうか。県さんが生徒会副委員長で、知井宮も確か役員に名を連ねているはずだ。
生徒会室は三棟を西側正面で結ぶ渡り廊下に併設されている部屋に置かれている。
理数科で起きた爆音で、あちこちのクラスに居残っていた生徒たちが何事かと廊下に出て、こちら側の様子を窺っていた。
僕はそれらには一切かまわず反対側、つまり三年一組の方へと向かって駈けていた。
騒然となった人ごみの中を潜り抜けながら走る。走る。
中には「テロでも起きたのか?」と口走る者もいる。
テロじゃない。言ってみれば討ち入りだ。
西側正面で各棟を結ぶ渡り廊下に併設された階段を下る。すると生徒会室はすぐそこだ。
「!」
階段を下りると、僕はカメラを胸元の辺りで構え、慎重に廊下へと足をふみ出した。
生徒会室の前に立つ。ここで何が話し合われているのか分からないが、知井宮と県さんはここにいる可能性が高いはず。
写真部のときの様な失敗はできない。そう思った僕は息を大きく吸い込むとハーッと吐き出した。雑念を払い、目の前の事象だけに集中する。
と、そのときだった。生徒会室の扉を開けようとしたところ、脇から刺すような殺気を感じた僕は思わず身体をのけ反らせた。
右腕に衝撃が奔り、上着の袖がスパッと切れた。
写撃だ――。
誰が? 振り向くと県さんが僕の前に立ちはだかっていた。
県さんはスマートホンを斜めに構えてこちらを威嚇している。スマートホンのカメラのレンズがきらりと光った。
「甘いわね、五十猛君、異能使いが自分だけと思ったら、大間違いよ!」
しまった。その可能性は漠然とは考えていたけれど、まさか現実のものとなるとは思えなかった。
僕の考えでは、才ヶ峠で出くわした蛇――ゲニウス・ロキが僕に異能の能力を与えたのではないかと思っていた。ところが、実際には県さんが、あのときあそこにいなかった県さんが写撃の能力を使いこなしている。
続いて県さんの背後からジャージに着替えた写真部員たちが一斉に横へと展開した。皆、一眼レフを構えている。もしや、写真を撮るものなら誰でも潜在能力は秘めているのでは。まずい、多勢に無勢だ。
「五十猛ぇぇぇ!」
と、今度は渡り廊下の反対側から知井宮が駆け込んできた。左右から挟み撃ちになってしまった形だ。
「貴様ぁ、逆恨みも大概にせえ!」
カノコン181という一眼レフが彼の愛機だ。知井宮がカメラを構え、ファインダーに目をやったその瞬間、僕は大きく体を逸らして射線――ファインダーの視野から外れた。
カノコン181は35㎜版フィルムと同等のサイズを持つ大型CMOSセンサーを搭載している。そのフルサイズ機の砲身が火を噴いた。
あたかも前世紀に活躍した戦艦の主砲か。フルフレームの衝撃が彗星のように辺りの空間を駆け抜けた。
が、僕は事前に身体を逸らしていたので無事だった。フルフレームの直撃を受けたのは一年の三隅だった。彼の着衣は知井宮の写撃を受けた瞬間、全て消し飛んだ。裸の尻が露わとなる。
素っ裸となってカメラだけ首からぶら下げた三隅の変わり果てた姿に驚いて県さんがずさっと後ずさる。
「いかん、フルサイズは破壊力があり過ぎる!」
一瞬、何が起きたのか分かっていなかった三隅だけど、ようやく自分が丸裸にされたことに気づくと、じたばたと慌てて両の掌で股間を隠した。
他の写真部員たちもドン引きしている。
写真部員たちが動揺している間に、僕は踵を返して中央棟へと一目散で逃げ出した。その間、素早く計算する。どうも写撃の破壊力はセンサーサイズと念写力に比例するようだ。
彼らの能力が今発現したばかりとすれば、まだ念写を上手くコントロールできていないかもしれない。
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