親愛なる下僕王

最愛なる下僕王

俺の名前は純(じゅん)。世界で一番純粋であれと、親が願いを込めた。

そんな俺は容姿にも頭脳にも恵まれ、一流と呼ばれる大学に入りそれなりに美人の彼女もいる。所属している学生団体では起業するアイディアも出始めていた。俺の人生は順風満帆だった。


そう、彼女に会うまでは。



「ぐっ」

 みしっ、と体のどこかがきしむ音が聞こえた。

 俺は暗闇の中で痛めつけられていた。相手は3人。後頭部を一撃。その後は相手のなすがままだった。俺は地面に這いつくばり、この茶番じみた地獄が早く終わるのを待っていた。

「お前らは…」

 誰なんだ。

 頼まれたのか。


 せめて、それぐらいを知る権利はあるはずだった。

 俺がすべてを持っており、卑怯なこいつらが何も持たないにしても。


 3人とも、顔を布で覆っていた。一人の肩が揺れる。笑ったのだろうか。それに怒りを感じる前に、肩に一撃。のたうちまわる元気もない。ゆっくりと俺の意識が刈り取られていく。



 目の前に紅い花。

 花弁が散った。はじめ、俺はそれを血だと思った。頭か、口の中。滴り落ちたのだと。


 しかしあまりに鮮烈すぎるその紅(いろ)は、見とれるほど美しかった。俺は息を飲んだ。最期に見る景色が、こんなきれいな色ならば、文句はないかもしれない。


「卑怯者め」


 「紅」は言った。それは人の形をしていた。黒いパンツルックのスーツに、腰まで伸びた赤い髪。神が丹精込めてつくったと思われるその造形美。顔の中央にともる怒りの炎。


 それは比喩表現などではなく、実際に「宙に浮いていた」のだ。


「男三人で、しかも不意打ちをせねば勝てないのか。

 見下げた人間どもだ」


 女性だ、と気づいたのは声からだった。どこかあどけなく、けれど落ち着いた声音でもある。

 男の一人が動いた。女ならば口封じもたやすいと考えたのだろう。

 角棒が女に振り下ろされる。女はそれを造作もなく


「燃やした...?」


 女の前にある炎は、まるで主人を守るがごとく壁を作り、一瞬にして角材を消し炭にした。



「焔火乃灯(ほむらびのあかり)」


一瞬だった。


3人の男の足元から炎が立ち上り、2メートルほどまで成長。絶叫する間もなく男たちを焼き尽くした。


女がこちらに近寄ってきた。


「殺した…のか」

「ふん」


女は鼻息を漏らした。


「自分が死にかけてもなお、他人の心配とは。

 人間とは業が深い」


人を臆面もなく殺せる存在。

化け物?

女を形容するのに、その言葉は相応しかった。


けれど俺は…。


「女神、だ…」


つぶれた喉から出た音は、やっとのことで意味をなした。

俺は。

女神に出会った。


緋色の髪を持ち。

紅の激情を灯した。

真っ赤な女神さまに。

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