ごはんですよ、魔王さま

雲鈍

プロローグ

ごはんですよ、魔王さま。





 昔々、あるところに、とっっっっても強く、冷酷無比で強大凶悪な魔王さまが居ました。彼女の名前はレイラリア・スプラウド。魔界を統一した初代魔王の孫で、並み居る魔王候補者を押しのけ、最年少で魔王の座についた豪の者でした。強いだけでなく、美しかった彼女は魔界の魔物の憧れであり、つまりアイドルであり、可憐なヒロインでもあったのですが、なにせ最強無比のために婚期を逃しがちでした。若い若いと言われた彼女も今年で御年1032歳になります。魔界のアイドルと呼ばれるには少し痛々しい年齢にさしかかりました。


 大して、人間の方にはルーク・アスタリアという少年が居ます。黒髪で、両親は不明。背中に龍を模した痣があり、「竜王シュベルツルク」に育てられた少年です。剣を扱わせれば超一流、剣聖ルーベルトも「ありゃあ俺の生まれ変わりだ」と誉めそやし、魔法を扱わせれば大陸中の鍋のお湯を一瞬で沸騰させ、お母様方を喜ばせたりしました。彼の師匠大魔導士デウスは「大魔導を継ぐのはお前しかいない」と太鼓判を押しました。

 ルーク君には嫁が2人居ました。2人も! 驚くことなかれ、それは男の仁義を貫き通した結果です。一人目は幼馴染であり、努力の末に治癒魔法をすべて習得し「大聖女」と呼ばれることになった「マディ・エクスマグナ」。二人目は大陸統一国「アスタリア」国の王女、「ナーナ・アスタリア」。マディのほうは朴訥とした、けれど笑顔のたえない美少女だったと言われていますし、ナーナのほうはそりゃあ誰からも文句が言われないくらいの……辞書の例の欄に名前が挙がるほどの絶世の美女でした。


 そうです、ルーク君はリア充だったのです。なんせイケメンだったのです。



 話は変わり、人と魔の戦争が起きました。きっかけは些細なことです。ま、冷蔵庫のプリンを食べられたとか、足を踏まれたとか、ビデオを上書きで録画したとか……あまりなじみないかもしれませんが、そんな時代があったんですね、手違いでブックマークを消されたとか、裏垢で書いた悪口を拡散されたとか、そんな些細なことだったのでしょう。


炎上、そう物理的に炎上したのは人間たちが住む大陸のほうでした。

なんせ彼らは戦う術を(あまり)もたない。息をするように火をふくドラゴン、死を恐れない生きる甲冑、超音波で混乱をさそう巨大コウモリ、性欲旺盛なサキュバスなどにより、人間軍はたじたじ。一方的に領土を失っていきます。




「これじゃダメだ」



 立ち上がったのは、我らが勇者ルークくんです。

 2人の嫁に別れを告げると、意気揚々と単独で魔王軍へと立ち向かいます。


 さて、なんやかんやあって。



 星屑の欠片から削り出したと言われる「流星剣」を片手に、ルーク君は魔王と対峙します。魔王も一人。ルーク君も一人。ルーク君は師匠に教わった最後の必殺技を繰り出そうと全身から赤く立ち上る「気」を練っています。

一方魔王も、最強魔法である「カオスデッド・シュリンガー(極大暗黒魔法)」を放つべき全身からあふれ出るほどの黒い魔力を溜めていました。


 そしてぴちょん、と。


 水滴が落ちた音を皮切りに。



 2人の必殺……いや、その言葉ですら足りないくらいの威力の技、滅殺技、消滅技? が繰り広げられます。赤と黒が混ざり合い、視界は真っ白に染まり――。





「おーい、ごはんだぞ」

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