『ほしのこびん』

りあん

前編 「トワ」もしくはQ


わたしのマスターは、「けんきゅうしゃ」です。

「けんきゅうしゃ」としてはとても若いころから、わたしのようなアンドロイドをいくつも作ってきました。


わたしのマスターは、「くに」から大切なお仕事を任されています。

彼は「とっても難しい仕事だ」と言っていました。

アンドロイドを作って、「おそと」で人とお仕事ができるように「きょういく」するのです。

そして、わたしはそんなアンドロイドを、何人も見送ってきました。



わたしは彼の「いちごうき」です。

わたしが、この「よ」に「せい」をうけたとき、彼はわたしを抱きしめ、とても喜んでくれました。

わたしに「トワ」という名前をつけてもくれました。

それから今にいたるまで、たくさんのことを、かれは教えてくれたのです。

けれど、わたしは、「おそと」に出ることはありません。


わたしは、マスターの優秀な「みぎうで」なのですから!




わたしとマスターは「おそと」から少し離れた場所に住んでいます。

マスターは「けんきゅう」を、わたしはそのお手伝いをしています。

わたしは、彼が作ったアンドロイドと、遊んであげるのです。


「おそと」でお仕事をするためには、人と「こみゅにけーしょん」がとれたり、お仕事をする「ぎじゅつ」を持っていたりすることが必要です。

わたしはアンドロイドですが「君は「ゆうしゅう」なアンドロイドだから、人以上に、彼等にたくさんのことを教えられるはずさ」と、マスターから「たいこばんをおされ」ました。


だから、わたしはマスターが作って、「せい」をうけたアンドロイドに名前をあげて、いっしょに遊びます。彼等は始めはぎこちないけれど、「おそと」にお仕事にいく前には、とっても「ゆうしゅう」なアンドロイドになります。って、マスターが言っていました。

「おそと」に彼等を送り出したら、マスターはわたしをたくさん褒めて、抱きしめて、頭を撫でてくれます。

「よく頑張ったね」と言ってくれます。

そして、「ご褒美に、『ゲーム』をしようか」と言ってくれるのです。


わたしは、この『ゲーム』が大好きです。


わたしがマスターの「みぎうで」になった日、彼が提案したゲームです。

良いことや、嬉しいこと、頑張ったことがあった日に、わたしはご馳走をつくります。

そのたびに、彼から貰った『こびん』の中のきらきらした『ほし』の「えきたい」をこっそり入れるのです。


彼が、ご馳走を食べて、どれに『ほし』が入っているか、見分けられたら、彼の勝ち。

見分けられずに、彼が─『ほし』の「えきたい」は、食べたら眠くなってしまうものなので─眠くなってしまったら、わたしの勝ち。

もし、わたしが勝ったら、『いいもの』をあげるとマスターは楽しそうに言いました。


いままでの成績は全敗です。

『いいもの』の正体が知りたくて、あの手この手を使って隠しても、一口、口に運ぼうとした瞬間、「これだね?」とばれてしまいます。

悔しいけれど、そんな「そうめい」なマスターが、わたしは大好きです。




今日もマスターにご馳走を作りました。

「くに」からお手紙が来て、マスターとわたしは、「おそと」で「けんきゅう」ができると知らされたのです。

マスターはとても喜んで、「今日はお祝いだ」と、ゲームをしてくれることになりました。

「おそと」を一目見たかったわたしも、わくわくしましたし、何より、マスターが嬉しそうなのが、わたしは嬉しかったのです。

すぐにご馳走を作って、トマトとお肉のスープに、『ほし』を慎重に混ぜました。


彼がそのスープを口にしたとき、飛び上がって喜んでしまったのは仕方ないことでしょう。

「マスター!わたし、『ほし』をいれたの、そのスープです!」指差し叫ぶわたしに彼は「え?……ほんとに?……気づかなかった」と言って、「僕の負けだね」と頭を撫でてくれました。

それから、机の中から取り出した小さな小箱を、わたしに差し出しました。

「負けてしまったからね。約束の『いいもの』だ」

わたしはそれを受け取りました。


それから、『ほし』の効果なのでしょう、彼が眠そうにしていたので、ベッドに運びました。

珍しく、一緒に寝てほしいと言われたので、わたしもベッドに入りました。

「明日は、「おそと」だね」彼が言います。

「わたし、とっても楽しみです」わたしは返します。

「うん、僕も……」彼は目をつぶって、そしてこう言いました。

「「トワ」。君はほんとうに「ゆうしゅう」な……いや、僕の「たいせつ」なアンドロイドだ」


愛しているよ。と呟いて、彼は眠ってしまいました。


おやすみなさいと、声をかけ部屋を出ました。ご馳走を片付け、部屋に戻り、ぐっすり眠っているマスターを見て、そして、貰った小さな箱を開けました。



まず、小さな『ほし』が入った小瓶、それと繋がるネックレス。きらきらしていて、とっても綺麗でした。

それから、「トワへ」と書かれた紙、そして、一本のUSB端末でした。



この中にどんなものがはいっているのだろうとわくわくしながら、USBを繋げようと首元の端子に近づけたとき、ドンドンと、扉を叩く音がします。

マスターは眠っているので、わたしが扉をあけると、「すーつ」をきた「おとな」が三人、怖い顔をして立っていました。


「あの、どちらさまですか?」

「君は……」目の前の一人が困ったような顔をして、部屋を見渡しました。

そのまま、三人は部屋に入ろうとします。

びっくりして、わたしは言いました。

「わ、待ってください。今、マスターを……」

「君、もう、いいんだよ」

「え?」

「そんなふりしなくてもいいんだ。もう大丈夫だからね」


なにを言っているのかわからないまま、一人に抱きしめられました。マスターとは違う香りに、怖くなってしまいました。

「や、やめて、あの、離れて!」


怖くてたまらないわたしは、逃げるように扉から離れ、マスターの元に駆け寄りました。

けれど、彼等はマスターのところで、なにやら話をしていました。混乱していたわたしは、逃げなきゃ、と思い、研究室に隠れました。

そこで、わたしは、手の中にある小箱に、USBに気づきました。


もう見ていたくない、と、わたしはUSB端末を繋げ、意識を電子の世界に飛ばしました。





───────────────────


「ええ、わたしの話はこれで終わりです。

「マスター」について知っているのは、これだけです。

USBの中に書かれていたのは、あなた方が見た情報と同じものです。

お願いします。

裏切り者に、粛清を。」



マスター。

わたし、やっとあなたがのこした、

『ほしのこびん』の意味が、わかりましたよ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る