ワガママスクールデイズ
さらだいも
第1話
学校が始まって数日たったある日の放課後。
春先の少しだけ冷たい風が俺の頬をなでる。
俺は屋上に呼び出されていた。
なぜ呼び出されているのかというと、朝登校した時に下駄箱に手紙が入っていたのだ。
その手紙には放課後屋上に来るようにと書いてあった。
ーラブレター?今時古風な。
そう思ったが、あまりにもいきなりなので俺なりに少し考えてみたのだ。
俺達新一年は学校に登校し始めてからまだほんの数日しか経っていない。なのに、ラブレター?それはおかしいだろ、となったので俺が出した結論。
それはー
集団リンチである。
じゃないとおかしいって。なんで?俺に?
ラブレター(笑)を渡すんだ?しかも差出人不明。今まで経験がなかったからわからなかったが、差出人不明のラブレター(笑)がここまで気持ちを不安にさせるものとは思わなかったぜ。
……まさか、そうやって慌てる俺を見て笑おうっていう魂胆か?それが犯人の狙いか…絶対無いとは言い切れないな。
そう考えにふけっていると、
ーギィィィ
と、少し耳障りな音を立てて屋上のドアが開いた。
ーこいつがこのラブレター(笑)を出した犯人だ…!そう直感した俺はその音のした方へと振り返る。
が、
そこに立っていたのはバリバリでオラオラ系
の不良ーー
ではなく、一人の美少女だった。
…へ?
俺氏の思考回路が停止。
ーなんでこんな可愛い子がここに?もしかして…この子がラブレターの差出人なのか?
ん?あれ…この子って…。
「えっと…もしかして君は、隣の組の櫻川さん…?」
はい、と彼女は頷く。
隣の組、一年B組の櫻川美月といえば学園内ではちょっとした有名人だ。
容姿端麗、学業優秀、スポーツも出来るという完璧っぷりで、男女問わず人気がある。
ーだけど、そんな完璧超人が俺に何の用だ?
俺みたいな平々凡々してる男にわざわざ用事…?
「えっと、櫻川さん」
とりあえず色々聞いてみなければな。
「は、はい…」
少し涙目で俺を上目遣いで見てくる。
やめろ、可愛いから。
「俺に用事…があるんだよね?」
優しく、ちょっとイケメン風に尋ねる。
すると彼女は顔を紅潮させながら言葉を紡ぐ。
「えっと、用事というのは…」
「その…」
なんだ?随分と勿体つけるな。焦らしか?焦らしているのか、俺を?そういうプレイか?それもまたいいかもしれないが…
って、んなこと考えてる場合じゃねぇ。
「なんだい?」
話を進めよう。
「その、私と一緒に、部活動を作ってくれないかな…?」
………………………………………………………ん?部活動?部活動って、あの?
待て…言ってる意味がわからなさすぎて俺の思考回路がまたもや停止した。
「えっと…部活動を設立させたいってこと?」
「そういうことなの」
「なんで部を作りたいんだ?あとそれをなんで俺に?」
一番気になっていた部分を本人に聞いてみる。
「部を作りたい理由はね…聞いても笑わない?」
「笑うもんか」
彼女が突拍子のない事を言っているのは確かだ。でも、そこに彼女の真剣な気持ちがあるのだったらそれは笑ってはいけない。
「私ね…恋…してみたいんだ」
「恋?」
恋をする為に部活?なんだそりゃ。
そしてそのあとに俺を選んだ理由も言ってくれる。
「藍島くんっていつも一人でいるじゃない?それで…なんていうのかな?似てる気がしたから…手伝ってくれるかなって…」
似ているってだけで手伝いを申し出る。結構危ないな。相手の事をちゃんと知ってから手伝いを申し出るべきだ。
だが、
確かに彼女の言う通り俺たちは似ているのかもしれない。完璧超人な櫻川美月。男女問わず人気があってもそれは影での話。
彼女に話しかけるのは気が引けてしまうのだろう。だから、俺の知る彼女はいつも一人だった。まぁ、入学したばかりでもあるから仕方ないとは思うけど。
「そっか…協力はしてもいいけど…」
「けど?」
不安要素がありすぎる。
「部活動の設立には最低でも四人の人材が必要、そしてその部の顧問もだ」
そして一番の不安要素。それはーー
「恋がしたい、そんな理由で果たして部を作れるのか?」
彼女はハッとした表情でだ、だよね…と言った。
恋の為に部活動作る。聞いた事ない。前代未聞。
「なんか…ごめんね。変な事に協力してなんて言っちゃって…」
「気にしなくていいよ。例え部活動がダメでも相談くらいならいつでものるから」
「うん、ありがと。じゃあ、メアド交換しない?」
おぉ…今までにこんな可愛い子とメアドを交換したことがあっただろうか。なんか感動。
「よしっ…じゃあ、悪いけどたまに相談に乗ってくれると嬉しいな…じゃあまたね藍島くん!」
満面の笑みで彼女は屋上を去っていった。
その一連の話を自分の中でまとめたところ…
「いや、部活動作りたい美少女に屋上に呼び出されて最終的にメアド交換って…展開的に意味わからんなぁ」
と、つい口に出てしまった。
俺が今までに読んできたラノベでもこんな出会いはしてない。おかしいって。現実は。
「ラノベとかだったら、もっとロマンチックだったんだろうなぁ…」
その日、俺は家に着くまでのあいだに何回ため息をついたか覚えていない。
ーーが、
今にして思えばこの時の彼女が言っていた「恋の為だけに何をするかわからない得体の知れない部活動を作りたい」というワガママが
俺の、俺たちの運命の歯車を大きく狂わせていくことになる。
彼女のたった一つの「ワガママ」によって、俺の学校生活が大きく変わりだしたんだ。
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