第22話
達真たちが折り重なって倒される中、連合軍が驚愕しながら声の方を向く。達真も同じく混乱し、一歩遅れて同じ方向を見やると――
「やめろ、お前たち」
降り注ぐ陽光の中に、見知らぬ人物が立っていた。
達真と同じ程度の背丈だが、細身な体躯のおかげで長身に見える。鋭い目に整った顔立ちの美形で、若干の軟派さがある茶髪は容姿と合わさって自然に映った。
休日の昼間だというのに、達真と同じ木香高校の男子制服を着込み、身体を開いた構えを取る彼は、ヒーローか何かを意識していたのかもしれない。腰に巻かれた機械的なベルトのせいだろうか。あるいは両手を包むライダースグローブか。
「な、何しやがる……誰だ、てめえは!」
ようやく起き上がった総長が、達真を無視して謎の男に向き直る。
返ってきたのは中性的だがいかにも美形の、クールに落ち着き払った声だ。
「オレは獅子王楓(ししおうかえで)。通りすがりの……正義の味方だ」
告げると同時に、彼は地を蹴った。
向かうのは正面の総長だが、それを庇うようにふたりの軍団員が立ちはだかる。団員はふたりとも木刀を持ち、それぞれに謎の男――楓を狙って振り下ろした。
しかし次の瞬間。
その切っ先同士がカツンっとぶつかる。そこに、楓の姿はなくなっていた。
「上だ!」と誰かが叫んだわけでもないだろう。しかし団員のふたりは同時に何かに気付いて見上げた。そして同時に、叩き付けられた拳によって倒れ伏した。
「てめえ!」
その超人的な動きを見つけられても、意気を挫けさせなかったのは賞賛に値するかもしれないと、達真はなんとなしに考えた。
実際のところは、怒りで何も考えられなくなっただけだろうが。
いずれにせよ、楓はまさしく超人だった。正義の味方などとヒーローめいたことを言っていたが、それもあながち嘘ではないのではないか、とさえ思えてしまう。
メリケンサックをはめたひとりの腕を打ち払い、腹を一撃する。
投げつけられた鎖を腕で受け止めると身動きがとれなくなるが、その隙に背後から狙ってきた別の団員は、振り上げる後ろ蹴りによって打ち倒した。鎖も力比べで勝り、また別の団員のもとへと投げつけ、倒す。しまいには錐揉みしながらの飛び蹴りまでしてみせた。
「なんだ、この超人……」
そうした激しい戦いの光景に、感嘆と驚愕の狭間でぼんやりと呟く、達真。
と、その横から聞き馴染んだ声が入ってくる。
「さあ勇者様、今のうちに四天王を倒しましょう!」
「……お前はいつか絶対ぶん殴るからな」
いつの間にか戻ってきていた妖精に半眼で告げる。彼女はわざとらしく怖がりながら宙を舞ったが。
ともかく達真は、戦いを繰り広げる楓や、連合軍の面々に気付かれないよう、そーっと場所を移動した。
四天王がいるという位置まで妖精に案内され、そこでこそこそと木剣を構える。
見れば思いのほか楓との距離が近く、こちらに背を向けて団員のふたりと組み合いをしている彼を、自分が背後から狙っているような構図になっていたが。
「ほらほら、雑魚はさっさと片付けちゃいましょう」
「そういうことはいちいち言わなくていいんだよっ」
声を潜めて言い返し、ともかく達真は目を閉じた。別段、精神を集中させる必要などないのだが、それでもなんとなしに心を落ち着けてから……技を繰り出す!
カッと目を見開いて、
「必殺! 次元断裂・零式!」
振り下ろした刃は大気を切り裂く。あるいは生物が動くことも、大気を裂いていると呼ぶべきかどうか。しかしこの刃が決定的にそれと異なっているのは、これが大気だけでなく、空間、次元、その場に存在する全てを同時に切り裂くためだった。
太刀筋に跨って存在するもので、断たれないものはない。
あるいは過去も、未来までも、その刃は両断した。両断されれば結合はしない。空間も次元もその場の全てが未来永劫に断たれ続ける。二つに分かれて崩れ落ちる時ですら、その断裂空間に触れた部位は、さらに二つに分断された――
……などという。達真の脳内ナレーションのような現象など、毎度ながら地球では全く起きないのだが。
「…………」
ただ、今回は少しだけ違うことが起きていた。
そのために達真は言葉を失い、息を止めた――
ごがんっ! と鈍い音がして、木剣を握る手に、何かを激しく叩いたような感触が伝わってきたのだ。
「やりましたよ、勇者様! 四天王の身体が真っ二つっていうか、駆け寄ってきた部下の魔物も同じ場所で突然に真っ二つで、さらに寄って来た魔物もやっぱり真っ二つでなんかもうこれは新種の凶悪トラップって感じでまあもう二度とここに人は住めなくなったわけですけどとにかくやりましたよ!」
そんな妖精の声を聞きながら、ともかく達真は見下ろす。
自分の木剣が振り下ろされた先で、ぐったりと倒れたその男の姿……真紅の上着を纏った、連合軍の総長だ。
どうやら背後から楓に不意打ちを仕掛けようとしていたところに、達真の振り下ろした木剣が偶然に命中してしまったらしい。
「……あれ?」
「そ、総長ー!」
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