ある女の肖像

廃他万都

第1話

私は嫉妬していた。あまりの旦那の魅力に、他の女性に奪われはしないかと。

道端で旦那が女性と視線を合わせるとき、酷い不安に駆られた。

自分も魅力的な男性を見ると、つい目を合わせてしまい、褒める。

その事が後々深い亀裂を自分自身の中に作り、その中にどんどん膿が溜まっていく。


魅力的な女性は罪がない。

女性に対して敵意は持たないようにしようと思っていた。女性に罪はなく、旦那が揺れるのが悪いと思ってた。

けれども誰にだって、パートナーと違う異性にひき寄せられることはある。それからもうひとつ、ただ目線が合っただけということもある。





自分の方は中々うまくいかなかった。女性らしく、という言葉にひどくプレッシャーを感じていた。その時合わせた似合う服も、似合う髪形も、時間がたったり、別の場所ではだめだ。何度もやり直して、最後は何も合わなくなってしまう。

そして極めつけ、他人のダメ出しの言葉まで聞こえてくる。とても大きく。


ダメ出しの言葉にとてつもない怒りを感じるが、怒りを感じても相手に伝わらないばかりか、真っ赤な顔をしているとますます面白がって言われる。ぶつける先がない私は、気が付いたら、いちいち旦那に声を荒げるようになっていた。


しかしダメ出しの言葉を投げるタイプの人は、相手から見えない観客席からヤジを飛ばすギャラリーである姿勢だ。こちらがそれに怒ったとすれば、あの人は怖い。あの人はセンスがない。何故怒ってるのか。私は別に何も言ってないのに相手が勝手に怒ってると、すぐ無関係を装える。そして自分が観客であり、見せるべき他人に対して魅力がないから言われてしまうのだと益々大声で笑われ、その人数はどんどん増え、怖くて気持ち悪い人という事で次第に人から避けられるようになっていった。


ただ元々何故かわざと目立つように行動をするところがあり、目を付けられたのはそれが原因のようにも思う。何かしら不自然で自分の雰囲気と違うキャラを演じ、それを見た他人が不快の言葉を漏らさずにいられなくなる。その時の感覚は不意に訪れる。偏執的にやらなければならないというような感じで。しかしその偏執的な感情が自然にしていると不意にやってくるようになっていた。多分きっかけは、音楽やパフォーマンスをやってみたいと思った事、それで生計を立てたいと思った事。


今ではそういう気持ちを言うだけで物笑いの種になる、そんな気がしている。

でも自分の努力などそっちのけで気持ちだけは本気だった。

結局気持ちだけなので、認められるような事は時たまワークショップのような場であるだけだった。結局その印象が強すぎて、いけるんじゃないかと思ってた気がする。


というより、本気で集中して、毎日努力していたら、それなりにモノになっていたかもしれないが、それはやっていなかった。


時々ものすごく褒められることがあって、その事が自分の中でものすごく大きくなる。ガムみたいにかみしめて自分の自信を上げていく。

演技のインプロなどをしてる時に不意に自分が自分でなくなるような経験をした。

集団の中で全く孤立したようなときにもそんな時が必ず訪れる。

もしもこの物凄く褒められるような現象、それが表現中集中力が欠けることなく続けられたら、プロにもなれたかもしれないと思ったりするが

そういう可能性を秘めた人は世の中にたくさんいて、同じく私のように中途半端なままで成長しないことも多い。


演じる事が上手くできる一瞬の奇跡、その瞬間世界の主人公は自分だと思えるし、周囲が自分についてくる。


世界の主人公は私ではない。

その感覚は不自然だと思う。まるで世界というものが自分の意志では歩けなくて、他人の言うとおりに歩かなければならないというような。


幼い頃は世界は自分の意志で歩くもの、というのがとてつもなく不安定に思えた。今でも何か指示をしてくれる存在がいないとなかなか動けない。指示待ち世代、指示待ち人間、どっちかと言うと私はそのタイプに当てはまる。だからこそ演技で主導権を得たような感覚になるのが、物凄く気持ちよかったのだろう。それが欲しくてたまらなくなったのだろう。


それが、もしかしたら大勢の人をコントロールしようとする言動として、ふとした会話や行動に出てしまったのかもしれない。

そしてその言動は、極めて不快で不自然で、何の目的で目立っているのかわからないものだったのかも。

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