らーめんちほー

ジャスティスワン

らーめんちほー

                    ◆


「らぁめん?」


 道の脇にポツンと佇む屋台を見つけたかばんとサーバル。看板には聞き慣れぬ言葉。外から丸見えの厨房には鍋がいくつもあり湯気をたてている。誰かいるのだろうか?恐る恐る近づいていく。


『食べていくかい?』

「うわぁ!」


 驚いて数歩後ずさる二人。

 声がした方を見ると、そこにいたのは、絶妙に薄汚れた白さのねじり鉢巻きを胴体に巻いた黒いラッキービーストだった。


『ラーメン、食べていくかい?』


 再び質問を投げかける黒いラッキービースト。

 初めて聞くラーメンという言葉と、明らかに尋常ではないラッキービースト、は感じまくりの二人だったが、好奇心には勝てなかった。


「じゃ、じゃあらぁめんを二つお願いします」

『あいよ』


 かばんの注文に、返事をする黒いラッキービースト。厨房に並ぶ鍋相手に手際よく作業を始める。数分後、どんぶりが二つかばんの前に置かれる。雷文が描かれた典型的なラーメン丼に注がれたスープに麺に具材少々、見た目は非常にシンプルだ。かばんはそれを一つサーバルに渡す。


「それじゃあ、いただきます……」


 レンゲで掬ったスープをそっと口に運ぶかばん。


「こ、これは……!」


 はっきりとした旨みを際立たせながらも、いつまでも口に残らない。まるで香りと一緒に鼻孔を吹き抜けていくようなスープは、何度でも口に運べて、飲めば飲むほど病みつきになる。そのスープが程よく絡みついた麺はほのかな塩味を含み、噛み切る際にぷつんという感触を残しこれもまた印象深い。


「わぁ、美味しいです!」

『選り抜きの材料だけを使った、ここでしか食べられない自慢のラーメンだよ。多分、味はパークで一番だろうね』


 饒舌に語るラッキービースト。その立ち姿はどことなくふんぞり返っているように見えなくもない。


「はい、美味しいね!サーバルちゃ……」


 同意を求めサーバルを見てみると、一口食べた状態のまま固まっている。

 かばんが心配して肩に手をかけたその時、「うみゃぁ!」と叫ぶと同時にぴょーんと高くジャンプし、着地して横になり次第、うみゃうみゃ言いながらのたうち回りだした。


「しょっぱ!なにこれ!しょっぱいよー!」

「さ、サーバルちゃん!?」


 慌ててサーバルに駆け寄るかばん。


『ジ、ジマンノ、ラーメン……ダヨ……』

「黒ラッキーさーん!!」


                    ◆


「うぅ……あれってわたしのせいだよね?」

「い、いやぁー……」


 平静を取り戻したサーバルがそう言いながら指さす先には、自慢のラーメンを拒絶されたショックから立ち直れず、固まっているラッキービーストがいた。


「かばんちゃんはらぁめん?を食べててよ!わたしはジャパリまん食べるからさ!」


 サーバルが自分なりの解決案を提示する。かばんはそれを横で聴きながらふと厨房を目やる。そこにある調理器具は使い古され、蓄積した傷や凹みがある。きっと、パークがまだ閉鎖されていない頃、このお店はたくさんの人にラーメンを振舞っていたのだろう。

 そういえば自分たちがこの屋台を見つけた時も営業していた。もしかしたらパークが封鎖された後も、今までずっと――


「あの、黒ラッキーさん、ちょっと思いついたんですけど」

「かばんちゃん、もしかして……!」

「うん、ちょっと待っててね。サーバルちゃん」


 そう言いながらかばんは屋台の裏から厨房に回り、黒いTシャツに着替え、頭を覆うように輝くような白さのタオルを巻く。そこにはもう一人、ラーメン屋の店主がいた。


                    ◆


「はい、サーバルちゃん」

「う、うん……」


 サーバルは眼前に置かれたラーメンを神妙な面持ちで眺めた後、お箸をたどたどしく使いながらそれを口に運ぶ。


「う、みゃ……」


 ごくりと生唾を飲み込んで見守るかばん。

 果たして・・・


「おいしー!」


 サーバルの言葉を聞いて、ほっと胸を撫で下ろすかばん。


「どうしてー?すっごくおいしくなってる!!」

「食べる人の好みに合わせて、味の濃い薄いを調整できるようにしたんだよ。普通のままだとヒトにとっては丁度いい味付けだけどサーバルちゃんにとって濃すぎたから。そして、次はこれをかけて、はいどうぞ」


 へぇーと感嘆するサーバルの丼ぶりに匙を使って“あるもの”を入れる。不思議そうにかばんを見返すサーバルに、食べてみてと目くばせする。その通り口に運ぶ。


「味が変わってる!すごーい!なんでー!?」

「としょかんの本に書いてあったんだ。やくみって言うみたい。これで味の変化を楽しむんだって」


 おいしーおいしーと言いながら一心不乱に食べているサーバル。


『ありがとう、かばん』

「いえ、元のラーメンがおいしかったからですよ」

『自慢のラーメンだからね』


 そう言いながら向き合う二人。もしもラッキービーストに手があったのなら、ここで握手でもしていただろう。


「あ、かばんちゃん!私も良いこと思いついちゃった!!」


 突然、何か閃いたらしいサーバル。


「これに“あれ”を入れれば……」


 かばんたちが注目する中、じゃーんと取り出したるはジャパリまん。そしてをれを躊躇なく丸ごと丼にドーン!とブチ込んだ。一瞬の出来事にただ呆然とするかばんを尻目にサーバルは勢いよく口に掻き込む。


「おーいしー!やっぱりジャパリまんが一番!」

『ジ、ジマンノ、ラーメン……ダヨ……』

「黒ラッキーさーーーん!!」


                    ◆


「それじゃあね、黒ボス!」

「ごちそうさまでした。また食べに来ますね」

『いつでもきてね。更に味を磨いて待ってるよ』


 別れの挨拶を済ませ二人を乗せたバス走り出す。さっきまでいた屋台がどんどん小さくなっていく。


「やっぱりかばんちゃんは優しいね」


 サーバルがぽつりとつぶやく。


「え、どうして?」

「だって、困ってる黒ボスをほっとけなかったんだよね。黒ボスもとっても喜んでたと思うよ!」

「う、うん……それもあるんだけど……」


 間をおいて言い淀むかばん。そこには照れのようなものがあったが、はサーバルにはなかなか伝わらない。サーバルはこちらをじいっと見ながら、後に続くはずのかばんの言葉を待っている。


「サーバルちゃんと同じものを一緒に食べたいなぁって……」


 観念するように言ったその言葉を聴いたサーバルはふつふつと湧き上がってくる何かを抑えきれない様子を見せてから


「うみゃー!かばんちゃん!かばんちゃん!かばんちゃーん!」


 思わずかばんに抱きついていた。


「わっ!くすぐったいよ、サーバルちゃん。あははは!」


 二人の笑い声を響かせながら、バスは次の目的地へ力強く進んでく。

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