コント BAR
ジャンボ尾崎手配犯
第1話
客A「ちょっと、お酒飲んで帰りたいな。お、なんか大人っぽい雰囲気のバーがあるじゃん。こういうところも、たまには入ってみるか」
バーに入る客A。
客は一人もいない。
マスター「いらっしゃい」
客A「あ、どうも。ちょっと、看板みて入ったんだけど。カウンター、いいですか?」
真ん中の椅子に座ろうとする客A。
マスター「あ、つめて座ってもらってもいいですか? そっちの一番端っこの方で……」
客A「え、いや、全然誰もいないじゃん。どこ座ってもいいでしょ」
マスター「申し上げにくいんですが、お客さんの見た目的に、目立つ位置に座ってもらうと、ちょっと、店の評判が悪くなりますので……」
客A「そんなに言うほど悪くないだろ、俺の見た目!」
マスター「今、鏡持ってきますんで、確認してもらっていいですか」
客A「いいよ、いいよ。端に座ればいいんだろ?」
端っこの椅子に座る客A。
マスター「(真ん中の椅子を指して)あ、お客さん、こっち空いてますよ」
客A「なんだよ、座っていいのかよ!」
真ん中の椅子に座る客A。
マスター「もしかして、端が好きだったんですか?」
客A「お前が端に行けって言ったんだろ。ったく、どうなってんだ、このバーは」
マスターA「おしぼり、あったか~いのとつめた~いのがありますけど、どっちにします」
客A「自動販売機か。じゃあ、あったかいの持ってきて」
マスター「(おしぼりを熱そうに持って)あっつ、あっつ。(放り投げるように)あ、どうぞ」
投げたおしぼりが客Aの顔にあたる。
客A「あっつ、なんだこのおしぼり」
マスターA「百度のお湯で熱湯消毒したおしぼりです」
客A「もうちょっと冷ましてから持って来いよ! 湯気たってるぞ、このおしぼり」
マスターA「すいません、今すぐ別のおしぼりもってくるので」
客A「いいよ、もうおしぼりは。それより、お通し的な物持ってきてよ。小腹すいちゃってさ」
マスター「ダイエットしたほうがいいですよ。ひどいですよ、そのお腹」
客A「初対面の客に言う台詞か、それ。ダイエットは明日からするよ。とにかく、なんか持ってきてよ」
マスター「うち、セルフサービスを採用しておりまして、料理はお客様自身が調理していただくようになっております」
客A「セルフサービスって、俺が作るのかよ。バーに来て、自分で料理するなんて聞いたことないぞ」
マスター「ハッハッハ、お客様、今じゃそんなの当たり前なんですよ。ニューヨークでは常識です。東京でもセルフサービスを導入してるバーは多いですよ」
客A「そ、そうなの? いや、俺バーとかほとんど来ないからさ、そこらへん知らないのよ」
マスター「初心者の方ですね」
客A「まあ、そうだな。居酒屋ばっかりだから」
マスター「(小声で)まったく、田舎者が」
客A「え、なんか今言っただろ、おい」
マスター「東京オリンピック楽しみですねって」
客A「いや、絶対そんなこと言ってないだろ! なんか、『田舎者』とか言ってなかったか?」
マスター「田舎はどちらなんですか?」
客A「おい、話逸らしただろ、今。もういい、よ。田舎はあれだよ、山形だよ」
カウンターで作業を始めるマスター。
マスター「ああ、だだちゃ豆」
客A「知ってんの、だだちゃ豆。あれ、上手いんだよな、ビールのつまみにすると最高なんだよ」
マスター「いや、あんまりよく知らないです」
客A「知らないのかよ。喜んだ時間返せよ」
マスター「お通し、お待ちしました」
客Aの前に枝豆を置くマスター。
マスター「だだちゃ豆です」
客A「知ってんじゃねえかよ!」
マスター「注文は以上でよろしいでしょうか?」
客A「いや、俺バーで豆だけ食って帰るのかよ。いや、酒も頼むよ」
マスター「お酒もセルフサービスですが」
客A「いやいや、普通お酒入れるのにも、こだわるのがバーでしょ」
マスター「うちはこだわらないんです。コップもリサイクル・ショップで買ったものですから」
客A「庶民派だねえ」
マスター「ありがとうございます」
客A「皮肉で言ってんだよ」
マスター「こちらメニューになります」
客Aにメニューを渡すマスター。
客A「えーと、色々あるなあ。マティーニ、サイドカー、モスコ・ミュール、ブイヤベース…… お前、このブイヤ・ベースって酒じゃないぞ」
マスター「え、そうなんですか?」
客A「エビとか貝が入ってるフランスの鍋料理だろ。客から注文されたら、どうするつもりだったんだ」
マスター「なんとなくで」
客A「なんとなくだしちゃうのかよ。ん、この『オリジナル』ってのは」
マスター「それ、密造酒です」
客A「密造した酒売ってんのかよ。犯罪じゃねえかよ、それ」
マスター「いや、ハリウッド映画とかで、よく売ってるじゃないですか。『アンタッチャブル』とか。それに憧れて」
客A「お前、あれは禁酒法時代の話だろ。しかも、マフィアがやってたことじゃないか。駄目だろ、日本でやったら。一応、法治国家なんだから」
マスター「ぼく、あんまりスポーツ新聞とか読まないんで」
客A「それは、スポーツ報知だろ。よく巨人のこと書いてる」
マスター「ぼく、ヤクルトファンなんですよ」
客A「いや、別に聞いてねえよ」
マスター「それで、お酒の方はどうされますか?」
客A「そうだなあ、じゃあさ、俺をイメージしてなんか作ってよ」
マスター「ああ、あれですね」
客A「いや、バー来たら、一回やってみたかったんだよね」
マスター「わかりました。やってみます。もしかしたら、失敗するかもしれません」
客A「え、失敗とかあんの?」
マスター「組み合わせによっては」
客A「何を混ぜてるんだよ」
マスター「酸性洗剤とアルカリ性洗剤を……」
客A「それお前、混ぜるとヤバイ奴だろ! 絶対に混ぜちゃダメな奴じゃん! やめてくれよ、本当に、もう」
マスター「そうですねー、お客さまにあうお酒はえーと、どぶろくですかね」
客A「どぶろくだって、そりゃうまいけどさ、俺にぴったりってどういうことだよ」
マスター「どぶみたいな顔してるので」
客A「ひっぱたたくぞ、本当に」
酒を混ぜるマスター。
マスター「どうぞ。熱いのでお気をつけください」
客A「え、(恐る恐るグラスにさわって)いや、普通じゃねえか。あ、これグラスに塩ついてるね」
マスター「ソルティ・ドッグといって、ウォッカをグレープフルーツジュースで割ったものです。縁についてる食塩が、爽やかな味わいを醸し出すんですよ」
酒に口をつける客A。
思わず吐いてしまう。
客A「しょっぱ!」
マスター「そういうお酒ですから」
客A「いや、しょっぱすぎるでしょ。塩水みたいになってんじゃん。海水レベルだろ、これ」
マスター「サービスで塩、増やしておきましたので」
客A「酒の中に塩入れたのかよ!」
マスター「塩にはミネラルが豊富に入っていて体にいいんですけどねー」
客A「お前、こんなの飲んだら倒れちゃうよ」
マスター「あ、うち、よく急性アルコール中毒で倒れるかたがいるので、救急車呼ぶのには慣れてますので」
客A「不吉なこと言うなよ!」
マスター「救急車で帰られますか?」
客A「救急車では帰らないよ! 水、ちょうだい。口がひりひりする」
マスター「今、用意しますので」
水の準備をするマスター。
マスター「(コップを渡して)どうぞ」
客A「なんかこれ濁ってないか?」
マスター「あ、イソジン入れときました」
客A「なんでイソジン入れんだよ!」
マスター「うがいするのかと思って」
客A「もういい、出るよ。お会計して」
マスター「領収書の偽造でしたら、ちょっと」
客A「頼まないよ、そんなこと。早くして」
レジで作業をするマスター。
マスター「えーと、二万円です」
客A「二万! 酒一杯と枝豆だけだぞ!」
マスター「お客さんの場合、セルフサービスを利用しなかったので、その分上乗せさせていただいてます」
客A「セルフ使わないと、こんな高いの!」
マスター「セルフでない場合、料金が二倍になります。後、追加した分の塩も」
客A「なんで塩の代金まで取られてるんだよ! サービスだっただろ!」
マスター「すいません、サービスというのはサービス料金プラスの略なんですよ。そういうシステムなんです」
客A「とんでもないところ入っちゃったわ。もう、社会勉強だと思って払うか。ここカード使えるの?」
マスター「テレホンカードでしたら、使えないですね」
客A「カードつったら、普通クレジットカードだろ。今時、ほとんどの人がもってないよテレホンカードなんか。もう怖いから現金で払うわ。はい、二万」
マスター「ありがとうございます。あ、これ次回来店時に使えるクーポンになります」
クーポンを客Aに渡すマスター。
客A「クーポン?」
マスター「百万円以上飲み食いしていただくと、五百円割引になります」
客A「条件がきつすぎるだろ。しかも、割引安すぎるし。いらないよ」
バーを出ようとする客A。
マスター「またのご来店をお待ちしております」
客A「もう来ないよ!」
コント BAR ジャンボ尾崎手配犯 @hayasiya7
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